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2.逢魔が時へとうつろう前に
しおりを挟む「では、僕らは失礼するよ」
「ええ。私たち今から、劇を見に行く約束をしていますのよ?」
リュイエラはヴェルフと腕を組み、
「なかなか評判のよい舞台のチケットが取れているのです。楽しみですわね?」
「ああ」
と彼に笑いかけた。
「そう、ですの。ホリス卿、リュイエラ様。劇を楽しんできてくださいませ……」
「ええ! もちろんですわフレアーヌ様。では失礼いたしますね」
なんとか、彼らに対しての言葉を絞りだした。
二人はわたくしに背を向け去ってゆく。ヴェルフがちらとこちらを振り向くこともなく……。わたくしと一緒に馬車に乗っていたヴェルフの護衛は、慌てて外に飛びだし彼について行った。基本的には、護衛は学園の中に入らない規則になっているので、通学時の護衛を担っているのだ。
「リュイエラ嬢、お寒くはございませんか?」
「ええ、ヴェルフ様。お気遣いありがとうございます。それからどうか私のことはリュイエラとお呼びくださいませ」
「あ、ああ。そうさせてもらおう、――リュイエラ」
「はいっ!」
楽しげな会話が流れてきて、胸が痛くなる。わたくしの心は沈み、下を向いて気を紛らわせるように手にある札束を弄んだ……。
――ああ。……平常心に、戻さなければ。
しばらくすると話し声は聞こえなくなり、彼らを運んでいるのだろう馬蹄の響きが遠ざかっていった。
本日、わたくしとヴェルフが帰宅するために呼んでいた馬車は我が家の――ソプレロット家の物だった。
「……ねえ、ウクリ。わたくし、忘れ物があるの。学園についてきていただいてもよろしいかしら?」
隣に座る護衛に声をかける。……逸る心を、抑えつけながら。
「夕方の学園は、凶悪な魔物が出るという噂がありますの。わたくしもう、怖くて……」
「ええ、……もちろんです、フレアーヌお嬢様」
扉を開けて先にウクリが馬車から降りる。そして彼に手を取られわたくしも地面に降り立った。
空を仰ぐとその端はわずかにオレンジがかり、静かに日が落ちることを知らせていた。
まだちらほらと人の気配が残る放課後の学園へ、わたくしたちは周囲を警戒し足を進めていくのだった。
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