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1.浮気の現場
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パァン!!
「――えっ!!」「あらっ?」
「セウッド……浮気でございますか?」
寝室の扉を勢いよく開けると、ベッドから裸のまま呆然とわたくしを見上げる夫と、呑気に微笑み返してくる女がいた。実家に帰省すると偽って裏口から屋敷に戻ってきたわたくしは、以前から疑っていた浮気の現場を目の当たりにするのだった。やはり! わたくしの疑念は正しかったのだ!
「……違う。浮気じゃない! ――――本気だっ!」
「は?」
夫の言いようには呆れてしまう。
「ルカは! 君みたいに、お金にうるさくない! そんな物要らないからと僕自身を愛してくれているんだ!」
「……へぇ?」
金が要らない、ねぇ。ルカとやらを改めて眺める。掛け布に裸体を覆われているが、髪の毛も、顔も、体も。充分お金を費やして手入れしてそうだけれど……。ん? ルカ……?
もう一度視線を女の顔に戻す。――あら。
「いい機会だ! 小うるさい君とは離婚して、僕は彼女と結婚する! いいな、リュノ!」
バカだバカだと思ってはいたけれどこんなにまでとは……。大体わたくしは過度な無駄遣いは止めてと言っているだけなのに……。それにしてもこの男、隣の女性が誰なのかを気がついていないのかしら?
「うふふ、ありがとうセウッド」
ベッドの上で可愛らしく微笑む彼女。しかし「でも……」と言葉を続けた。
「私、もう結婚しているの。ルカノーレ・セルショワと申しますわ。リュノ様もお久しぶりでございます」
「……ごきげんよう。ルカノーレ様」
いけしゃあしゃあとわたくしのほうに挨拶をしてきた彼女は、とある侯爵の妻だった。
パーティーなどで見かけるときとはかなり化粧の仕方を変えているが、それでも声は変えようがないので長く話せばセウッドでも気がつけるはずなのに。
「え……あのセルショワ侯爵婦人……あの大人しい?!」
「うふ……夫は私が男性に好意を向けられるのがお嫌いみたいで。パーティーなどではドレスも化粧も地味めにしているの。ただ、たまには私も、自由におしゃべりしたくなることがあるわ。しようがないわよね、セウッド?」
「――ええ! そうですとも! ですがそこまでルカ――ノーレを束縛するなどとなんと酷い。こんなにもあなたは美しいというのに……」
「ありがとう」
「ルカノーレ! そんな窮屈な男は止めて、僕と結婚してくださいますか? 僕は奔放なあなたを愛しております!」
そう言い放ちセウッドは裸のまま床に下りる。近くのテーブルまで歩き花瓶から赤い薔薇を一輪引き抜くと、ベッドに座る彼女の眼下にひざまずきそれを差し出したのだった。彼の後ろ姿からは、自信がみなぎっていた。
「さあ、この薔薇をその白く可憐な手で受け取ってくださいませ、ルカノーレ」
「――えっ!!」「あらっ?」
「セウッド……浮気でございますか?」
寝室の扉を勢いよく開けると、ベッドから裸のまま呆然とわたくしを見上げる夫と、呑気に微笑み返してくる女がいた。実家に帰省すると偽って裏口から屋敷に戻ってきたわたくしは、以前から疑っていた浮気の現場を目の当たりにするのだった。やはり! わたくしの疑念は正しかったのだ!
「……違う。浮気じゃない! ――――本気だっ!」
「は?」
夫の言いようには呆れてしまう。
「ルカは! 君みたいに、お金にうるさくない! そんな物要らないからと僕自身を愛してくれているんだ!」
「……へぇ?」
金が要らない、ねぇ。ルカとやらを改めて眺める。掛け布に裸体を覆われているが、髪の毛も、顔も、体も。充分お金を費やして手入れしてそうだけれど……。ん? ルカ……?
もう一度視線を女の顔に戻す。――あら。
「いい機会だ! 小うるさい君とは離婚して、僕は彼女と結婚する! いいな、リュノ!」
バカだバカだと思ってはいたけれどこんなにまでとは……。大体わたくしは過度な無駄遣いは止めてと言っているだけなのに……。それにしてもこの男、隣の女性が誰なのかを気がついていないのかしら?
「うふふ、ありがとうセウッド」
ベッドの上で可愛らしく微笑む彼女。しかし「でも……」と言葉を続けた。
「私、もう結婚しているの。ルカノーレ・セルショワと申しますわ。リュノ様もお久しぶりでございます」
「……ごきげんよう。ルカノーレ様」
いけしゃあしゃあとわたくしのほうに挨拶をしてきた彼女は、とある侯爵の妻だった。
パーティーなどで見かけるときとはかなり化粧の仕方を変えているが、それでも声は変えようがないので長く話せばセウッドでも気がつけるはずなのに。
「え……あのセルショワ侯爵婦人……あの大人しい?!」
「うふ……夫は私が男性に好意を向けられるのがお嫌いみたいで。パーティーなどではドレスも化粧も地味めにしているの。ただ、たまには私も、自由におしゃべりしたくなることがあるわ。しようがないわよね、セウッド?」
「――ええ! そうですとも! ですがそこまでルカ――ノーレを束縛するなどとなんと酷い。こんなにもあなたは美しいというのに……」
「ありがとう」
「ルカノーレ! そんな窮屈な男は止めて、僕と結婚してくださいますか? 僕は奔放なあなたを愛しております!」
そう言い放ちセウッドは裸のまま床に下りる。近くのテーブルまで歩き花瓶から赤い薔薇を一輪引き抜くと、ベッドに座る彼女の眼下にひざまずきそれを差し出したのだった。彼の後ろ姿からは、自信がみなぎっていた。
「さあ、この薔薇をその白く可憐な手で受け取ってくださいませ、ルカノーレ」
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