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2.呆れる
しおりを挟む「セウッドは情熱的なのね。もちろん――嫌ですわ」
「へ?」
間抜けな声を出すセウッド。
「そっそんな……、なんで……」
「私を愛せるだけでも、名誉なことでしょう? 一番はあの方なの。そしてそれ以外はいつだってそれ以下」
ごめんなさいね? と可憐に笑うルカノーレ様。このあしらいぶり……慣れているわね。
まあ、彼女が離婚すればかの侯爵はセウッドになんとしてでも報復するだろう。それに抗う力のないセウッドと結婚しても未来はない。少し考えればわかることだというのに。
「じゃあ私、これで失礼いたしますわ」
彼女はまったく悪びれた様子もなく、さっとドレスを身に纏い部屋を出ていくのだった。
薔薇を捧げる体勢のまま呆然と彼女を見送るセウッド。ほどなくして後ろめたいのかギギギ……とぎこちなく視線を上げてわたくしを見た。
「――僕には君だけだリュノ!」
「はぁ……」
わっと泣きだし足にしがみついてくるセウッドには呆れてため息しか出ない。彼が吐き出す「リュノがやっぱり一番だ!」「捨てないで!」などの謝罪ですらないなにかは聞き流すとして。
「……セウッド」
「っリュノ!」
数分は経過しただろうか。わたくしはおもむろに腰をかがめて、彼の頬を両手で包みこむ。柔らかく微笑み至近距離で視線を合わせるのだった。
「ううっ、リュノぉ……」
甘えた声を出すセウッド。
――パアァァァン!!
いっぺんに両頬を張った。我ながらいい音が鳴ったわ。
「いっつ!?」
「もちろん、離婚ですわね? あなたがさきほど言いましたのよ?」
「リュノっ……」
この期に及んでわたくしに温情を期待しているのかしら? 九割は黒だと確信し今日を迎えましたというのに。ご実家への根回しも完璧でしてよ。
「婿養子のあなたが、わたくしと離婚してどうやって彼女を養っていくおつもりでしたの?」
屈強なわたくしの専属護衛が彼を脅し、離婚のサインを書かせた。そしてそのまま屋敷からつまみ出させる。裸のままだ。
しかし、あまりにも見苦しいので。しようがなくわたくしは下着だけをセウッドの顔に投げつけてやったのだった。なんてわたくし優しいのでしょう。
少々手荒だったのか、彼は石畳に擦られた肌から血を流し、道に座りこんでいる。
わたくしは使用人たちへ屋敷の門を閉めるよう指示を出した。
「リュノ許してくれっ……お願いだっ!」
「もうお気になさらず。そのままご実家までお帰りくださいませ?」
入れてくれるかは、わかりませんけどね?
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