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4.錯乱

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「うるさいわね……。そんなことより、もう一回アナタをそこから落とせば……そうすれば私が、メイテス殿下の、妻にっ」
「――どんなご様子だ!?」

 父は階段を駆け下りながら鋭い声で階下にいる使用人に問う。そして、

「――痛っ! 誰なのよあなたたち! 離しなさいよっ! 私はルリーベラ・ニーシスよっ!?」

 廊下に座りこむわたくしの背に、手を当てていたルリーベラの焦る声が聞こえた。見れば彼女は二人の屈強な男に膝をつかされ、両手を後ろに拘束されている。

「黙れ女! メイテス殿下の婚約者様を突き落とそうとしたばかりか、殿下の御身にまで危害を加えるとは! ……万死に値するっ!」
「は……殿、下?」

 ルリーベラはぎこちなく首を伸ばし、階段の下を見て――目を見開いた。視線の先の、せわしなく動く人々のその中心は。

「どこか安静にできる場所は!?」
「――こちらにございます!」

 その御方――メイテス殿下は丁重に護衛の男に抱きかかえられていた。護衛が歩きだすと彼の頭部からずれた茶色のかつらが床に落ち、艶やかな銀色の髪が現われる。銀髪は王族の象徴ともいえるものだった。

「う……嘘よ、そんな……、なんでこの屋敷に彼がいるの。わ、私のせいじゃない。ラナ姉様が悪くて……っ」

 ガクガクと体を震わせながらも、ルリーベラは自由になる首を動かし周囲に弁解の言葉をもらす。
 本日来ていらっしゃったお客様は、メイテス殿下だった。屋敷の庭がお気に召したようで、もう一度来てみたいと手紙に書いてくださっていたのだ。
 今回はお忍びということで、珍しい銀髪は隠していらっしゃった。もちろん家族も使用人も皆知っていた。知らないのは妹だけだった。
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