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5.迷信
しおりを挟む殿下が客間へと運ばれていく。ふらつく体でわたくしはそれを追いかけた。
ベッドに殿下が寝かされたあとは、家でとあることを任されている者たちが部屋に足早に入っていく。扉は開け放ったままにして。
なぜなのかと昔母に問うたことがあった。答えは「邪気が出ていくように」ということだった。
「お目覚めくださいメイテス殿下。お目覚めくださいメイテス殿下。女神セイオーヌ、どうかメイテス殿下をお導きくださいますよう……」
ピー……。ピー…。
寝込む殿下を取り囲む四人の男たち――祈祷師と呼ばれている――が笛の音を鳴らしながら延々と神に語りかけている。……こんなにうるさいと治るものも治らないのでは、と儀式を見るたびにわたくしは思う。
この世界では医学が発展していない。だからわたくしは今日まで前世の知識で健康には人一倍気を遣い、あまり祈祷には世話にならないよう頑張ってきた。
入口から少し離れて、わたしくは彼を見守る。
メイテス殿下へ、申し訳なく思う気持ちはあった。予見できたはずのルリーベラの行動を、改めさせることができなかったから。
彼は階級が下のわたくしを身を挺して庇ってくださった。殿下の……熱っぽい視線は見て見ないふりをしていたというのに。
数度、忍び逢いをしたけれど。わたくしはいつかは彼の気が変わり「他の女性と婚約するから君との婚約は破棄させてくれ」と言われるのを待っていたというのに。
そんな薄情なわたくしのことを……。
何時間、彼らの祈りは続いただろうか。殿下はまだ目を開かない。目を瞑ると、まぶたの裏に殿下の穏やか笑顔が浮かんで消えた。
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