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2 リゼットの思惑
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「レイブン様からお返事がまいりましたよ、リゼット姫様」
「だめよ、エルマ。まだレッスンの途中なのに――」
側付きの一人エルマが手紙を持ってきた。ダンスの先生はエルマに注意をしながら私の方を見た。
「エルマ、すぐにでも拝見したいけれど今は先生のレッスンの途中ですから、そこで待っていて頂戴」
柔らかく拒否を示してリゼットは首を横に振った。
リゼットは先月十六歳になった。いつまでも子供のように駄々をこねていてはいけない。バルアーツ国宰相であるレイブンに相応しい女性とならねば。
「まぁ! 姫様がやっと……これは陛下と妃殿下にご報告せねばなりませんね。リゼット姫様、今日のレッスンはここまでにいたしましょう」
ダンスの先生は小躍りしながら部屋を出て行った。リゼットは首を傾げ、エルマは呆然とした。
「ああ、こうすれば良かったのですね。姫様、今までの苦労はなんだったのでしょうね」
エルマの言葉にリゼットは項垂れた。
「そうね、ごねてごねて手紙を取り上げられた日々はなんだったのかしら」
人はこうして学ぶのだとエルマはリゼットを慰めた。
「どうぞ、姫様。大好きなレイブン様のお手紙ですよ」
エルマはリゼットの乳姉妹だ。リゼットの最愛の人がバルアーツ国の国王となったフェリクスでなく、宰相のレイブンだと知っていて応援してくれている。リゼットの婚約者がフェリクスで、それはリゼットとフェリクスが望んだことだと知っていながら、レイブンの手紙を届けてくれるのはエルマだけなのだ。
「手紙はなんと?」
読み終わったリゼットは、決意を新たに立ち上がった。
「フェルが愛しの君にドレスを用意したんですって。成人したら舞踏会にデビューするでしょ。そのためのドレス……」
「姫様のドレスは父王様が最高級のドレスをお作りになったので婚約者といえどもフェリクス様ももちろんレイブン様もお贈りできませんでしたものね」
エルマはリゼットを想ってそう慰めた。
「フェルからは秘薬をもらったの。すごいのよ。いつかレイブン様と結ばれる時に使えばいいって」
「それは……内緒にしておきましょうね」
「もちろんよ!」
「レイブン様にも」
「どうして?」
「きっとレイブン様は怒ると思うのです」
「そうかしら? レイブン様がその気にならないときはレイブン様に盛ればいいって書いてたわ」
「そ、それは――内緒にしたほうが賢明ですわ」
「わかったわ。エルマを信じるわ」
秘薬はとっておきなのだ。
「レイブン様は、花を贈ってくださったの。沢山の薔薇よ」
「リゼット様が薔薇のように美しいというメッセージですわね」
「そう……かしら?」
エルマは言わなかった。薔薇の花束には咲き誇ったものだけでなく沢山の蕾があったことを。レイブンにとってリゼットは薔薇に違いないのだろう。ただし、未だ硬い蕾であることも間違いない。
「早くフェルが愛しの君の愛情を得られたらいいのに。そうでないと、私たちの計画が進まないのだから」
「愛しの君がフェリクス様を愛してくれるといいのですけれど……姫様のようにレイブン様のほうがいいとおっしゃらなけらばいいのですけど」
「そうね。フェルは彼女が自分のものにならないとなったらおかしくなってしまうのではないかしら? あの思い込みの強さはどこから……私も人のことは言えないけれど」
一度しか会話をしたこともない人にそれほど惚れ込むことなどあるのだろうかとリゼットは首を傾げる。
「きっと前世で想い合いながら一緒になれなかったのでしょう」
頬を染めたエルマの言葉にリゼットは笑った。
「それはエルマが大好きなお話でしょう?」
「ええ、姫様もきっとそうなんですよ。あれほどお年が離れていてもレイブン様以外は嫌なのでしょう?」
「あら、私も悲恋だったの?」
「今世で結ばれる約束をして儚くなった王女なのですわ。レイブン様はその姫を想い、護る騎士で……」
「それでは年齢が反対ではないの」
「あら、そうですわね。それでしたら……儚くなったのがレイブン様で、護る騎士が姫様だったのです!」
「あら、男女が入れ替わったのね。ふふ、それなら私はレイブン様を護るために強くならなくては――。とりあえず、彼を誘惑できる胸とお尻を手に入れるのよ」
「美味しいお菓子をご用意しますわ」
「宰相の妻なのだから、お勉強もしっかりとしなければ」
「さすが姫様です」
「フェルが準備を始めているなら、こちらも負けてはいられないわ。暴漢に襲われても大丈夫なように剣の稽古もしているもの」
「剣だこを作るのはおやめくださいませ」
「何を準備しても足りなくてよ。レイブン様を我が足下に跪かせるために――」
エルマははたと冷静さを取り戻し、リゼットに尋ねた。
「レイブン様を下僕にされるおつもりで?」
「違うわよ! 跪いてプロポーズしていただくのよ!」
薄く笑いを浮かべて、エルマはやる気に満ちあふれるリゼットの肩を押さえた。
「姫様、やる気は十分でございますけれど……。落ち着きくださいませ」
まるで猛牛のように突き進んでいこうとするリゼットの軌道修正を心に誓ったエルマだった。
「だめよ、エルマ。まだレッスンの途中なのに――」
側付きの一人エルマが手紙を持ってきた。ダンスの先生はエルマに注意をしながら私の方を見た。
「エルマ、すぐにでも拝見したいけれど今は先生のレッスンの途中ですから、そこで待っていて頂戴」
柔らかく拒否を示してリゼットは首を横に振った。
リゼットは先月十六歳になった。いつまでも子供のように駄々をこねていてはいけない。バルアーツ国宰相であるレイブンに相応しい女性とならねば。
「まぁ! 姫様がやっと……これは陛下と妃殿下にご報告せねばなりませんね。リゼット姫様、今日のレッスンはここまでにいたしましょう」
ダンスの先生は小躍りしながら部屋を出て行った。リゼットは首を傾げ、エルマは呆然とした。
「ああ、こうすれば良かったのですね。姫様、今までの苦労はなんだったのでしょうね」
エルマの言葉にリゼットは項垂れた。
「そうね、ごねてごねて手紙を取り上げられた日々はなんだったのかしら」
人はこうして学ぶのだとエルマはリゼットを慰めた。
「どうぞ、姫様。大好きなレイブン様のお手紙ですよ」
エルマはリゼットの乳姉妹だ。リゼットの最愛の人がバルアーツ国の国王となったフェリクスでなく、宰相のレイブンだと知っていて応援してくれている。リゼットの婚約者がフェリクスで、それはリゼットとフェリクスが望んだことだと知っていながら、レイブンの手紙を届けてくれるのはエルマだけなのだ。
「手紙はなんと?」
読み終わったリゼットは、決意を新たに立ち上がった。
「フェルが愛しの君にドレスを用意したんですって。成人したら舞踏会にデビューするでしょ。そのためのドレス……」
「姫様のドレスは父王様が最高級のドレスをお作りになったので婚約者といえどもフェリクス様ももちろんレイブン様もお贈りできませんでしたものね」
エルマはリゼットを想ってそう慰めた。
「フェルからは秘薬をもらったの。すごいのよ。いつかレイブン様と結ばれる時に使えばいいって」
「それは……内緒にしておきましょうね」
「もちろんよ!」
「レイブン様にも」
「どうして?」
「きっとレイブン様は怒ると思うのです」
「そうかしら? レイブン様がその気にならないときはレイブン様に盛ればいいって書いてたわ」
「そ、それは――内緒にしたほうが賢明ですわ」
「わかったわ。エルマを信じるわ」
秘薬はとっておきなのだ。
「レイブン様は、花を贈ってくださったの。沢山の薔薇よ」
「リゼット様が薔薇のように美しいというメッセージですわね」
「そう……かしら?」
エルマは言わなかった。薔薇の花束には咲き誇ったものだけでなく沢山の蕾があったことを。レイブンにとってリゼットは薔薇に違いないのだろう。ただし、未だ硬い蕾であることも間違いない。
「早くフェルが愛しの君の愛情を得られたらいいのに。そうでないと、私たちの計画が進まないのだから」
「愛しの君がフェリクス様を愛してくれるといいのですけれど……姫様のようにレイブン様のほうがいいとおっしゃらなけらばいいのですけど」
「そうね。フェルは彼女が自分のものにならないとなったらおかしくなってしまうのではないかしら? あの思い込みの強さはどこから……私も人のことは言えないけれど」
一度しか会話をしたこともない人にそれほど惚れ込むことなどあるのだろうかとリゼットは首を傾げる。
「きっと前世で想い合いながら一緒になれなかったのでしょう」
頬を染めたエルマの言葉にリゼットは笑った。
「それはエルマが大好きなお話でしょう?」
「ええ、姫様もきっとそうなんですよ。あれほどお年が離れていてもレイブン様以外は嫌なのでしょう?」
「あら、私も悲恋だったの?」
「今世で結ばれる約束をして儚くなった王女なのですわ。レイブン様はその姫を想い、護る騎士で……」
「それでは年齢が反対ではないの」
「あら、そうですわね。それでしたら……儚くなったのがレイブン様で、護る騎士が姫様だったのです!」
「あら、男女が入れ替わったのね。ふふ、それなら私はレイブン様を護るために強くならなくては――。とりあえず、彼を誘惑できる胸とお尻を手に入れるのよ」
「美味しいお菓子をご用意しますわ」
「宰相の妻なのだから、お勉強もしっかりとしなければ」
「さすが姫様です」
「フェルが準備を始めているなら、こちらも負けてはいられないわ。暴漢に襲われても大丈夫なように剣の稽古もしているもの」
「剣だこを作るのはおやめくださいませ」
「何を準備しても足りなくてよ。レイブン様を我が足下に跪かせるために――」
エルマははたと冷静さを取り戻し、リゼットに尋ねた。
「レイブン様を下僕にされるおつもりで?」
「違うわよ! 跪いてプロポーズしていただくのよ!」
薄く笑いを浮かべて、エルマはやる気に満ちあふれるリゼットの肩を押さえた。
「姫様、やる気は十分でございますけれど……。落ち着きくださいませ」
まるで猛牛のように突き進んでいこうとするリゼットの軌道修正を心に誓ったエルマだった。
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