攻略対象に転生した俺が何故か溺愛されています

東院さち

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11 家族団らん プリメリア視点

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「ただいま帰りました」

 義弟のサイラスだ。今日は授業取得の紙の提出と学園の案内だけなので早かった。
 私は温室にお茶の準備を用意させて、珍しく家にいた家族と楽しんでいた。

「リア、新入生の案内ではなかったのですか」
「ええ、私が案内するつもりだったのに、殿下に横取りされてしまったのよ」

 A班の案内は私が頼まれていた。それなのに王太子で生徒会長でもあるアルフォンスに「私がやりたい。プリメリア、代わってくれないか」とお願いされてしまったのだ。
 高位貴族が案内をするのには理由がある。学園には貴族だけでなく、平民もいる。何か起きた時に顔を繋いでいたら相談がしやすいだろうという配慮だ。案内には高位貴族の中でも平民を見下したりしない者が選ばれる。私が選ばれたことをサイラスはとても喜んでくれていたのに申し訳ない気持ちもあるが、アルフォンスは非常に面倒くさい性格をしているので仕方がない。
 出会った時から、サイラスしか見ていないのだ。サイラスと一緒に校内を散策できるチャンスを逃すはずもなかった。

「やっぱり……。殿下でしたか」
「何か問題でもあって?」

 顔を覗き込むと少し目線を逸らされてしまった。何かあったのかもしれない。

「いえ、何もありません。緊張したのか女子が一人倒れただけです」
「大丈夫だったの?」
「はい、ディアハルトが運んでくれました。俺の幼馴染みなのです」

 サイラスは気軽に幼馴染みという言葉を使うけれど、アルフォンスもディアハルトもこの前会ったライファーも幼馴染みといってなかったかしら。大雑把な分類がサイラスらしい。

「あら、私の知ってる方かしら?」
「いえ、この屋敷に来る前でしたから」
「なら私の知っている方?」

 義母のマリアが声を弾ませた。

「母様も知らないと思います」

 この屋敷に来る前ということは五歳にもなっていない頃だ。母親のマリアが知らないということは、サイラスの父である叔父が死んだ後の僅かな間のことだろう。サイラスの父が亡くなった時、マリアは身体を壊してサイラスをどこかへ預けていたというから。

「リアが友達になってくれると嬉しいです」
「私の友達……?」

 私にはあまり友達がいない。普通に喋っているつもりなのに高慢だとか、冷たいとか言われてしまうのだ。ただ、表情筋が硬くて、話すテンポが遅いだけなのだけど。銀に近い髪の色のせいかもしれない。……同じ髪色のサイラスは友達が沢山いるからただの言い訳か。

「ハリルトン家の令嬢です」
「あまり聞かないわね」
「ええ、でも可愛い子なのですよ」

 緩んだ表情のサイラスの顔。……こんな顔もするんだと、長い間一緒に暮らしてきたのに初めて見た顔に驚いた。

「サイラス? そのお嬢さんと会ったのは殿下と一緒の時かな?」

 父アランもマリアもサイラスの表情に気付いたようだ。アランが危機感を覚える声で尋ねた。まるで隣の国が攻めてきたと聞いてしまったくらいの変化だ。父は基本的に私と一緒で表情が読みにくいと言われているのに。

「ええ、同じA班だったんですよ。殿下が案内役だったので」
「……リア、その少女と友達になってあげなさい」
「殿下は独占欲の塊のような人ですからね。リアはサイラスの姉だから我慢してるようだけど」

 アルフォンスはとても優秀な人だ。王太子として他国にも自慢できるほどの人なのだが、一つだけ弱点があった。サイラスだ。サイラスのことが大好きで、それを隠そうともしていない。何度も侯爵家に求婚してきていたが、誰を目当てにしているか一目瞭然だった。何を思って国王が私にアルフォンスの婚約者を命じたかなんてわかりきっている。アルフォンスはサイラスに関しては実直で、搦め手を使ったりしない。サイラスが恋愛に未熟ということを踏まえても、自分が最終的には手に入れると確信しているようなところがある。
 私を婚約者にすれば、サイラスが動くだろうと国王に押し切られたに違いない。
 まんまとサイラスを王太子妃候補としてとられてしまったオーディクス侯爵家としては婚約を破棄したい、されてもいいと思っている。同性でも子孫を残せるが、異性のほうが安心安全に跡継ぎをのこせることからこれまで同性の王妃を迎えた国王がいないと反対する勢力がいるので、そちらが頑張ってくれると嬉しい。
 ならプリメリアで――と言われても、あのサイラス大好きアルフォンスと結婚したくない私やさせたくない両親はサイラスが特に嫌がってもいないので沈黙するしかないのだ。

「最近見境がなくなってきているからな……」

 アランの言葉に私もマリアも頷いた。 

「見境? 独占欲?」

 アランは色々な言葉をお茶と一緒に飲み干して、ため息を吐いた。

「わからないでもないが、サイラスも気をつけなさい。殿下と二人の時は密室にこもらないようにね」
「殿下と?」
「婚約が決まったから大丈夫だと思うが……」
「反対に婚約したのだからいいだろうと、襲われてしまわないかしら」

 皆の心配を余所に、サイラスは「何を馬鹿なことを――」と穏やかに笑っている。
 サイラスはどこかに心の欠片を落としてきてしまったに違いない。自分への恋情に気付かないのはそのせいだ。

 私は昔を思い出した。

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