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妹
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夜都に勉強を教えてもらいはじめてから、ひと月経った。
朝食を陽王と、昼食を夜都と食べていることを知った美海がおやつを一緒に食べようと侍女を通じて遊びにくるようになった。陽王は呆れたように目を細めはしたけれど止めるつもりはないようだ。
美海のものたちも自分の一族の代表である美海が来ると嬉しそうだ。美海の主従を見ていると、夜都が言っていた同族のものが側にいることが、彼らにとって馴染みであることは容易に想像できた。
「碧様、お菓子をお持ちしました」
侍女が何人もやってきて碧のためにお菓子やお茶を用意してくれた。食材は碧の世界と似ている。お菓子の名前は同じようなものが付いてるから不思議に思っていたけれど代々の巫女(アメフラシ)が作ってもらっていたというからなるほどと思った。
「あ、クレープ」
「はい、クリームとラナシャのジャムを巻いています。前にいらっしゃった巫女(アメフラシ)が好んだのです。碧様も気に入っていただけると嬉しいのですが」
「ラナシャ……イチゴジャムみたいだ」
「前の巫女(アメフラシ)もそう言っておりました」
ここの通訳はよくわからない。イチゴはラナシャとは変換されないのに、ジャムはジャムと聞こえるのだ。不思議に思いながらも碧は、一口食べてみた。
とても美味しい。甘酸っぱいけれど、イチゴよりも酸味があるようだ。イチゴに似ていてもイチゴじゃないからラナシャなのだろうかと思った。
「ありがとう。でも俺、こんなに食べられないよ」
「もう、碧は痩せすぎなのよ」
美海の侍女だけでなく、夜都も美海もみんな碧が痩せているのを気にしているのかとにかく食べさせようとする。あっちでは標準だったと言っても聞いてくれない。
突然入ってきたオネエ様、美海がそう言いながら碧の席の横に座った。
「美海が食べればいいじゃないか」
「そうね。いただくわ」
美海は夜都と陽王と一緒に碧を翻弄した祭司の一人だ。距離感がおかしい人だが多分優しい。何かと碧を気にしてくれる。気晴らしになればとお喋りに来て、おやつを食べて帰るのだ。
「美海が食べたら碧様の分がなくなりますわ」
美海は偉い人なはずなのに侍女はそう言って眉をしかめた。
「一つでいいわよ。あなたたちは下がりなさい」
「余ってるのは皆で食べて」
どう考えても多すぎる。悪いかと思って必死で食べてお腹を壊してから、これは全部を食べなくてもいいのだと知った。
「下げ渡ししてくださるそうよ。ほら、早く行きなさい。苛めないわよ」
さりげない仕草がどうにもオネエに見えるけど、似合っている。
「碧様、何かされたら大声をだすんですよ」
美海は同族の侍女から信用されていないのだろうかと碧はさりげなく美海を見た。視線に気付いた美海がわけを話してくれた。
「あの子、サナは私の妹なのよ。うるさいけど気はいい子だから……」
笑った顔には妹に対する愛情がみてとれた。
なるほど、兄妹なのか。妹と聞いて、半分だけ血の繋がった妹を思い出した。母が嫌がるからあまり構っていなかったけれど碧を「お兄ちゃん」と呼んで一緒に遊んで欲しいと後を付いてきてたなと懐かしく思った。
まだひと月ほどなのに、何年も経ったような気がする。
「美海はお兄ちゃんなのか」
サナと言う名前を聞いた時、カタカナで頭に入ってきたので驚いたけれど、美海は役職だというから、名前はカタカナなのかなと思った。陽王が意味を持たせたので碧という漢字が浮かんだけれど、もしかしたらアオなのかもしれない。
「うちは姉妹が多いから大変よ。下に五人もいるの」
「夜都はお姉ちゃんとかいそう。陽王は一人っ子じゃない?」
「よく見てるのね、碧は。ビックリしたわ」
本当に驚いたのか美海は長いまつげをパチパチと瞬かせた。
「碧は妹とかいそうね」
「え?」
「そんな感じがするわ」
「うん……。妹がいる」
一人っ子に見えなかったことが嬉しかった。妹がいそうと言われて、涙が出そうになって、窓の外がにわかに雨模様になったことに気付いた。
「もう! 美海! 碧様に何かしたんでしょう!」
侍女達が連なって部屋に戻ってきた。曇り空になったことで碧を心配してくれたようだ。
「してないわよ。濡れ衣よ~」
侍女に責め立てられている美海を見てたら笑いがこみ上げてきた。
「美海は苛めてないよ。ちょっと向こうを思い出しただけだから」
雨はすぐに止むだろう。ちょっと感傷的になってしまっただけだから。
「陽王の仕事ってどんなことしてるのかな?」
クレープを食べながら、尋ねると美海は楽しそうに笑った。
「陽王の仕事は官の配置ね。後は取りまとめかしら。私の集めた情報なんかも陽王のものたちが精査して、陽王がそれを見て官を移動させたりしているわ。夜都が育てた子供たちの情報ももちろん扱っているし」
夜都は多分学校とか文化みたいなものを統率している一族で、美海は城の管理や情報などを扱っているようだ。
「人事部? みたいなものかな」
「木聖のものたちが育てた作物や家畜の情報を元に税を決めたりもしてるわね。何て言うか便利屋……みたいなものかしら」
木聖というのは祭司の七家のうちのひとつで、陽王とか美海と同じ一族であり役職だ。忙しそうだと思っていたけれど、それだけの事をしているのなら本当に大変だろう。
「王様みたいなもんかな」
全ての情報が陽王に集まり、それを元に国が動いているのなら王様だろうと思ったのだ。
「王様?」
「うん、責任者というか一番偉い人。施政者っていうんだったかな」
陽王は碧が食事もお風呂も終えた頃に帰って来る。忙しいのだろうなと、たまに疲れた様子を見せた時に思っていた。
「一番偉い……、わけじゃないわ。そうね、一族の代表が私達だけれど、一族には長老会があってそれの意見が重要視されるから。ただ、その役職なだけよ。祭司を終えたら、私達も長老会に入ることになるけれど」
「俺の国とは全然違うんだな。自分の国の事もあまり知らないまま過ごしてきたけれど」
「碧は勉強していたんでしょう? あなたが知識の吸収に貪欲なのも頷けるわ」
褒めてくれたけれど、碧は心の中でごめんと謝った。帰りたくて情報が欲しいだけだ。
碧は言葉と一緒にクレープを咀嚼して飲み込んだ。
朝食を陽王と、昼食を夜都と食べていることを知った美海がおやつを一緒に食べようと侍女を通じて遊びにくるようになった。陽王は呆れたように目を細めはしたけれど止めるつもりはないようだ。
美海のものたちも自分の一族の代表である美海が来ると嬉しそうだ。美海の主従を見ていると、夜都が言っていた同族のものが側にいることが、彼らにとって馴染みであることは容易に想像できた。
「碧様、お菓子をお持ちしました」
侍女が何人もやってきて碧のためにお菓子やお茶を用意してくれた。食材は碧の世界と似ている。お菓子の名前は同じようなものが付いてるから不思議に思っていたけれど代々の巫女(アメフラシ)が作ってもらっていたというからなるほどと思った。
「あ、クレープ」
「はい、クリームとラナシャのジャムを巻いています。前にいらっしゃった巫女(アメフラシ)が好んだのです。碧様も気に入っていただけると嬉しいのですが」
「ラナシャ……イチゴジャムみたいだ」
「前の巫女(アメフラシ)もそう言っておりました」
ここの通訳はよくわからない。イチゴはラナシャとは変換されないのに、ジャムはジャムと聞こえるのだ。不思議に思いながらも碧は、一口食べてみた。
とても美味しい。甘酸っぱいけれど、イチゴよりも酸味があるようだ。イチゴに似ていてもイチゴじゃないからラナシャなのだろうかと思った。
「ありがとう。でも俺、こんなに食べられないよ」
「もう、碧は痩せすぎなのよ」
美海の侍女だけでなく、夜都も美海もみんな碧が痩せているのを気にしているのかとにかく食べさせようとする。あっちでは標準だったと言っても聞いてくれない。
突然入ってきたオネエ様、美海がそう言いながら碧の席の横に座った。
「美海が食べればいいじゃないか」
「そうね。いただくわ」
美海は夜都と陽王と一緒に碧を翻弄した祭司の一人だ。距離感がおかしい人だが多分優しい。何かと碧を気にしてくれる。気晴らしになればとお喋りに来て、おやつを食べて帰るのだ。
「美海が食べたら碧様の分がなくなりますわ」
美海は偉い人なはずなのに侍女はそう言って眉をしかめた。
「一つでいいわよ。あなたたちは下がりなさい」
「余ってるのは皆で食べて」
どう考えても多すぎる。悪いかと思って必死で食べてお腹を壊してから、これは全部を食べなくてもいいのだと知った。
「下げ渡ししてくださるそうよ。ほら、早く行きなさい。苛めないわよ」
さりげない仕草がどうにもオネエに見えるけど、似合っている。
「碧様、何かされたら大声をだすんですよ」
美海は同族の侍女から信用されていないのだろうかと碧はさりげなく美海を見た。視線に気付いた美海がわけを話してくれた。
「あの子、サナは私の妹なのよ。うるさいけど気はいい子だから……」
笑った顔には妹に対する愛情がみてとれた。
なるほど、兄妹なのか。妹と聞いて、半分だけ血の繋がった妹を思い出した。母が嫌がるからあまり構っていなかったけれど碧を「お兄ちゃん」と呼んで一緒に遊んで欲しいと後を付いてきてたなと懐かしく思った。
まだひと月ほどなのに、何年も経ったような気がする。
「美海はお兄ちゃんなのか」
サナと言う名前を聞いた時、カタカナで頭に入ってきたので驚いたけれど、美海は役職だというから、名前はカタカナなのかなと思った。陽王が意味を持たせたので碧という漢字が浮かんだけれど、もしかしたらアオなのかもしれない。
「うちは姉妹が多いから大変よ。下に五人もいるの」
「夜都はお姉ちゃんとかいそう。陽王は一人っ子じゃない?」
「よく見てるのね、碧は。ビックリしたわ」
本当に驚いたのか美海は長いまつげをパチパチと瞬かせた。
「碧は妹とかいそうね」
「え?」
「そんな感じがするわ」
「うん……。妹がいる」
一人っ子に見えなかったことが嬉しかった。妹がいそうと言われて、涙が出そうになって、窓の外がにわかに雨模様になったことに気付いた。
「もう! 美海! 碧様に何かしたんでしょう!」
侍女達が連なって部屋に戻ってきた。曇り空になったことで碧を心配してくれたようだ。
「してないわよ。濡れ衣よ~」
侍女に責め立てられている美海を見てたら笑いがこみ上げてきた。
「美海は苛めてないよ。ちょっと向こうを思い出しただけだから」
雨はすぐに止むだろう。ちょっと感傷的になってしまっただけだから。
「陽王の仕事ってどんなことしてるのかな?」
クレープを食べながら、尋ねると美海は楽しそうに笑った。
「陽王の仕事は官の配置ね。後は取りまとめかしら。私の集めた情報なんかも陽王のものたちが精査して、陽王がそれを見て官を移動させたりしているわ。夜都が育てた子供たちの情報ももちろん扱っているし」
夜都は多分学校とか文化みたいなものを統率している一族で、美海は城の管理や情報などを扱っているようだ。
「人事部? みたいなものかな」
「木聖のものたちが育てた作物や家畜の情報を元に税を決めたりもしてるわね。何て言うか便利屋……みたいなものかしら」
木聖というのは祭司の七家のうちのひとつで、陽王とか美海と同じ一族であり役職だ。忙しそうだと思っていたけれど、それだけの事をしているのなら本当に大変だろう。
「王様みたいなもんかな」
全ての情報が陽王に集まり、それを元に国が動いているのなら王様だろうと思ったのだ。
「王様?」
「うん、責任者というか一番偉い人。施政者っていうんだったかな」
陽王は碧が食事もお風呂も終えた頃に帰って来る。忙しいのだろうなと、たまに疲れた様子を見せた時に思っていた。
「一番偉い……、わけじゃないわ。そうね、一族の代表が私達だけれど、一族には長老会があってそれの意見が重要視されるから。ただ、その役職なだけよ。祭司を終えたら、私達も長老会に入ることになるけれど」
「俺の国とは全然違うんだな。自分の国の事もあまり知らないまま過ごしてきたけれど」
「碧は勉強していたんでしょう? あなたが知識の吸収に貪欲なのも頷けるわ」
褒めてくれたけれど、碧は心の中でごめんと謝った。帰りたくて情報が欲しいだけだ。
碧は言葉と一緒にクレープを咀嚼して飲み込んだ。
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