竜の溺愛が国を救います(物理)

東院さち

文字の大きさ
14 / 18

14

しおりを挟む
 次の日の夕方にリュシオンが迎えに来てくれた。

「あ、髪が……」

 リュシオンの腰まであった髪が、僕よりも短くなっていた。

「もう魔法は解けたからな。あれは魔法を忘れぬために伸ばしていた……」
「魔法。リュシオン、魔法で人を呪ったり、戒めたりできるのなら僕に護りの魔法をかければよかったのではないですか?」

 図々しかったのかなと、驚くアラインとリーゼバルトの顔を見て思った。でもそうではなく、二人は僕を心配してくれていただけだった。

「知らないということはなんて恐ろしい……」
「そうだぞ、エリーはもう少し竜について勉強したほうがいい。それともリュシオンならばできると惚気ているのか?」

 ニヤニヤ笑うリーゼバルトに鋭い視線を向けたあと、リュシオンは困ったように首を傾げた。そうやっても髪が流れないのが少し寂しい。でもリュシオンの端正な顔立ちがはっきりして男らしさが増したような気もする。

「エーリッヒ、竜は大きな魔法が得意と教えたろう? 私の竜体は大きいがエーリッヒは小さい。私に魔法をかけることがグラスにワインを注ぐ事ならば、エーリッヒに魔法をかけるのは上から一滴いれるようなものなのだ。ワインがグラスにというなら一滴が二滴、三滴とはいっても問題ないかもしれぬが、人の身体はそれほど頑丈にできてはいない。そなたに触れただけで相手がへしゃげて潰れてしまったり、声を掛けたときに唾が飛んだだけで吹き飛ばしてしまうような守護になりかねない。私の説明でわかるだろうか?」

 そこまで……? なら宰相の娘に呪いをかけようかと言っていたのは冗談だったのか。

「昨日言ってた呪いはかけるつもりがなかったのですね。皆本気にしていましたよ」

 宰相の娘のセシルは家に戻ったそうだ。

「あれはエーリッヒに危害を加えかねない女だった。別に死んでも構わぬから加減などするつもりはなかったが」

 冗談でもなく、加減もするつもりがなかったと言い切ったリュシオンは、「あんな女のことはどうでもいい」と切り捨てた。彼女のお陰で街も人も大変なことになりかけたのだから僕も同情するつもりはなかったけれど。

「エーリッヒ、そろそろ準備が整っているはずだ。食事は足りたか?」

 四人で少し早い食事をとった。見るからに精のつきそうなものばかりが並んでいて、若い僕でも胃が重たい。でもリュシオンが止まらなかった場合三日ほどは食事ができないかもしれないとアラインに脅されたので必死に食べた。

「はい。もうお腹一杯です」
「そうか、それなら参ろうか。リーゼバルト、アライン、世話をかけた」
「エリー、覚えているわね?」

 リュシオンだから大丈夫だと思うけれど、教えてもらった言葉は竜を止めることが出来る最強の呪文なのだそうだ。ただし、効果がありすぎるので使っていいのは本当にヤバいと思った時だけにしなさいとアラインも先代から聞いた言葉を教えてくれた。

「はい」

 城の中から庭を通って後宮へもどった。激しい地震の爪痕は見当たらなかった。リーゼバルトが護ってくれたのだと思うとホッとした。

「どうだ?」

 後宮の酷かった有様が嘘のように元通りになっていた。

「元通りになって安心しました。リュシオン、疲れていませんか?」

 背の高い彼を見上げても疲労の色は見えない。

「大丈夫だ。一週間やそこら、眠らなくても竜は平気だ」
「一週間も!」

 アラインが呪文を教えてくれてよかった。

「人は一晩眠らないだけでも辛いと聞いた。眠くなったらすぐに言いなさい」
「はい。リュシオン……」

 後宮の中は、新しい調度品が並べられ花が飾られている。どこからか楽の音が聞こえてきて緊張感が否が応でも高まる。

「エリーはもう風呂に入ったと聞いたが、やはり私だけで入らなくてはいけないか?」
「えっ、ええ――。お風呂でちゃんと耳の裏まで洗ってきてくださいね」

 洗うのは側仕えだがそう言って送りだした。リュシオンが風呂に入っている間にもらった初夜の服というのを着なくてはいけないのだ。別に着なくてもいいかと思うのだけど、そういうことはちゃんとした方がいいのよとアラインが言ったので先達の言葉を遂行するのみだ。

「そうか。なら、飲み物を用意させているから部屋で寛いでいなさい」

 そう言って、リュシオンは部屋を出て行った。部屋は僕の部屋でもあるので変な緊張は少なくてすんだ。

「エリー様、こちらです。私が着付けさせていただきますね」

 ジゼルが待っていてくれた。

「ありがとう」
「これは随分と……」

 ジゼルは少し頬を染めて、それ以上は言わなかった。

「え、こんなに薄かった?」

 試着したときは下にも着ていたから気付かなかったけれどかなり際どい。ドレープの重なったところだけが青く色付いて見えるが、基本肌色が透けている。

「悩殺ですわね」
「ジゼル、見なくていいよ!」

 着付けてくれたジゼルに叫んだ。これを着てリュシオンを待つのは勇気がいる――。
 僕達はいわゆる本番はしていないのだけど、それに近いことは二年もしているのだ。もう僕の身体の隅々までリュシオンがしらない場所はない。恥ずかしがるほうがおかしいとわかっているけれど、理性でどうにかなるものじゃない。
 寝台の上に座りキョロキョロと周りを見回した。

「あ、いいものがあった」

 緊張を解そうと用意されていたワインを開けた。

「エリー様、お慶び申し上げます」

 ジゼルは床にひれ伏し言祝ぐ。

「ありがとう。これからもよろしくお願いします」
「エリー様、これからは主なのですから命じてくださいませ。皆でお祝いの宴をしながら儀式を応援しております」
「言葉遣い……か。困ったな」
「徐々に慣れていくと思います」

 自分の出生に疑問を持ちながら生きてきたジゼルは、今は晴れやかな笑顔だ。

「ジゼルも一緒に飲まない?」

 高そうなワインだ。道連れが欲しい。

「エリー様、ここで一緒に飲んでいたらリュシオン様ががっかりされますけど、良いのですか?」

 ジゼルのニヤニヤした顔を見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。「ダメ……だね」

「ふふっ、すぐにいらっしゃいますよ」

 ジゼルが出ていくと途端に緊張でグラスの中身を飲み干してしまった。
 少しだけ落ち着いたかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない

北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。 ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。 四歳である今はまだ従者ではない。 死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった?? 十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。 こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう! そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!? クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。

婚活アプリのテスト版に登録させられたら何故か自社の社長としかマッチング出来ないのですが?

こたま
BL
オメガ男子の小島史(ふみ)は、ネットを中心に展開している中小広告代理店の経理部に勤めている。会社が国の補助金が入る婚活アプリ開発に関わる事になった。テスト版には、自社の未婚で番のいないアルファとオメガはもちろん未婚のベータも必ず登録して動作確認をするようにと業務命令が下された。史が仕方なく登録すると社長の辰巳皇成(こうせい)からマッチング希望が…

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~

槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。 公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。 そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。 アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。 その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。 そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。 義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。 そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。 完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

竜神様の番

田舎
BL
いつかX内で呟いた、 『えーん、えーん…💦 竜人の攻めが長いこと探してた番の人間くんを探して(半強制的)に結婚したのに、ツンデレどころかクーデレが過ぎてたせいで、ある日人間くんが「離縁します」と置き手紙残して失踪…! 後悔とブチギレしてる話がなきゃ掃除と洗濯できない😭😭』 という自分の愚痴から始まったツイノベもどきを、再構成と校正しました。 「番」とは何かも知らされず、 選択肢すら与えられなかった人間リオと、 大切にしている“つもり”だった竜人のナガレ。 ちゃんとハッピーエンドです。

処理中です...