宇宙人成長記録。

《Hearth》

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少年期

4、早急にトイレを所望する。

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 僕は最近部活を休むようになった。理由はこれといって無い。ただなんとなく、嫌になったのだ。あれほど好きだったバスケでさえも。
〔ハァ…〕
溜め息をつきながら家路につく。帰っても特にやることは無く、宿題をやり夕食を食べ寝るだけだった…はずなのだが、今日だけは違った。いつもの様に手早く夕食を済ませ自室に戻る。おばさんに楽しそうに今日の出来事を話す澪の声が耳につく。イライラする。しかしその時の笑顔は中々のものだと思う。ついつい見てしまう。澪がこちらを見返すことは一度たりともなかったが。夏休みが終わり二学期が始まってから、澪は一躍“噂の生徒”になっていた。声が出ないせいでイジメられている僕とは天と地の差だ。学年が違うにも関わらず僕のところに澪の話を聞きにくる生徒がたまにいるし、男子生徒の中には澪に憧れから来る恋心のようなものを持っている人もいた。別に僕は澪のことを好きではない、むしろあまり関心は無かったが、この状況は“自分だけが知っていた宝物を他の誰かに見つけられてしまった”ような、複雑な気持ちだったのを覚えている。同じ家に住んでいるとはいえ部活の関係で登校時間も下校時間もずれている上に、部屋は別々で会うのは夕食の時くらいだったのであまり澪のことを知らないくせにだ。

 宿題を済ませ、ドサッとベットへ仰向けに倒れ混む。膝から下は床に向かっていて、爪先に床の冷たさが伝わる。時計は夜の10時頃をさしていた。まだ寝るのには少し早い。
〔…。〕
徐に下半身に手を添える。そして妄想を繰り広げる。…どんな内容だったかはこの際自重しよう。手をさらに動かしていたのだが、不意に部屋のティッシュを切らしていたことを思い出し慌てて手を止める。しかし始めてしまったものは止まれない。普段は夕食の後は朝まで部屋を出ないのだが、仕方ない。僕は迅速にトイレへ行こうと廊下に出る。…すると
〔!?〕
「わ!ぶっ…」
澪の部屋の扉の前を通ろうとしたときだった。凄い勢いで飛び出してきた澪とぶつかりそのまま壁へ押しつけられてしまう。
〔なんという…タイミング…〕
最悪だ。しかも僕の鳩尾辺りに温もりと女子特有の柔らかい感触が伝わる。
〔落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け…〕
念仏の様に唱える。
「あぁぁごめん!!もう一つごめんなんだけどちょっと来て!」
澪は僕の左腕を掴み自分の部屋へ引っ張る。やめろ。意味が分からない。こんな状態であの澪とはいえ女子の部屋に入るのは爆弾に突っ込むようなものだ。僕は早急にトイレへ行かないと…色々な意味で死ぬ。
「ヤモリがいるの退治して退治!」
…ヤモリ?バスケの次に爬虫類が好きだった僕はその言葉を聞くと脳内がヤモリ見たさに満たされた。
「………。」
いた。これは確かに、澪じゃなくとも驚いて逃げたくなる大きさのヤモリかもしれない。暫く観察した後、両手でヤモリの頭と胴体を持ち捕まえる。あわよくばコイツを飼いたい。
「おぉ…つ、捕まえた…?」
澪が恐る恐る背中から僕の手元を覗く。これは…。あの何でもこなす人気者が今は僕に頼っている。僕が言わなければ学校の奴らがこのことを知ることはない。僕のところに澪のことを聞きにくる奴らのほとんどは一生かかっても澪に頼られることは無いだろう。すると残すは…もっとこいつをいじめてみたい。人気者の立ち位置からすると僕なんて虫ケラも同然だろう。一度として澪は僕を見返したことはない。文字通り眼中に無いのだろう?僕はニヤッとして振り向くと澪の目の前にヤモリを突き出した。
「わぁーーーーー!?!?」
〔!?〕
しまった!驚いた澪に手を叩かれ思わずヤモリを放してしまった。逃げないでくれヤモリよ。僕はお前を飼いたいんだ。するとヤモリは澪の肩の辺りに着地した。
「ーーーーーっ!?わぁぁぁ」
澪は再度騒ぎ暴れる。やめろ。暴れてヤモリを潰しでもしたら一生お前のことを恨むぞ澪。するとバランスを崩した澪が転び四つん這いになった。するとヤモリは肩から背中に移動していたようで丁度僕からは見える位置にいた。
「………!」
僕は澪の腰の辺りを左手で抑え動けないようにし、澪に覆い被さる様に右手でヤモリに手を伸ばす。しかしあと少しのところでヤモリが襟口からTシャツの中へ入ってしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁっっっ!?」
やめろ暴れるな馬鹿野郎!そしてヤモリ!お前はそこまでして僕に飼われたくないのか!?僕が何をしたというのだ!澪はTシャツを脱ぎ捨て廊下に投げてしまった。それを防ごうと驚きながらも慌てて手を伸ばしたがバランスを崩してそのまま前のめりに倒れる。ついでに澪のことも押し倒してしまった。

「………………。」
 僕は動けないでいた。やはりあのとき澪の部屋に入らず無視してトイレへ直行するべきだった。ヤモリは取り逃す上に今は、今までに無い位緊急事態だ。主に、下半身が。澪がヤモリから逃れようと自分でTシャツを脱いで廊下へ投げてしまったのだが、なんと下着をつけていない。そんな背中に僕は密着しているのだ。しかも、澪の右半分だけにだが覆い被さる形で。目の前には滑らかなうなじがあるし、心なしか今まで嗅いだことが無いような良い匂いがする。そして、床についた手の甲には、こちらも今まで感じたことが無い柔らかさを感じる。僕たちの体勢や体格から推測するにこの柔らかさの原因は…澪の胸だ。そう、おっぱいだ。頭が真っ白になって動くことが出来ない。下半身が熱くなってくる感覚が脳内を満たす。
〔ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ…〕
ヤバイ以外の何者でもない。しかし、澪も動かない。上から抑えられている訳でもないので起き上がろうと思えばいつでも起き上がれるはずで、事故とはいえこの状況は即座に蹴り飛ばされても文句は言えないはずだ。ふと視線を上げると澪の耳と首が真っ赤に染まっているのが見えた。
〔…これは〕
何故と言われれば困るがもう僕の脳内はこの感情で埋め尽くされていた。一欠片の理性がそれを押し止めている。
〔触りたい。今すぐこの手を裏返して掌でこの柔らかい感覚を両手に感じたい。地に這いつくばる僕を天から見下ろすあの完璧少女に辱しめを…僕の個人的な欲望だけで〕
澪は暫くしても起き上がる気配が無い。理性の欠片が僕を留まらせているのが本当に不思議だ。僕はこっそり右手を動かし手の甲をほんの少し澪の胸へ押し付ける。
〔なんともいえない柔らかい感覚が僕の右手の人差し指の裏側に伝わる〕
一気に興奮が高まる。我慢出来ずに今度は左の指を、さっきより強く、長めに下から上へ動かす。先程と同じ柔らかさに加えて今度は確かに重みを感じる。すると一瞬、一層澪の体が僕の指を包み込む瞬間があった。次の瞬間、爪の横の皮膚に小さくコリッとした少し固い感覚が伝わり、勢いで僕はその小さく固いものを弾いた。
(ー!!)
澪がびくっと体を震わせ少し背中を仰け反らせる。僕はハッと我に返った。左指が今しがた弾いたのは絶対に。十中八九胸の膨らみの先端にある、アレだ。触ってしまった。触ってしまった!僕はダンっと床を叩くと体を起こし。逃げるように澪の部屋を後にする。廊下に出ると澪が投げたTシャツがあったが、今返さないと後でもっと気まずくなると思い即座に部屋へ投げ込む。
〔僕は…僕は…!思うことはたくさんあったが今はそれよりも何よりも先程とは比べ物にならない程トイレへいかねば〕
この一件以降、暫くは妄想に澪が出てきたのは仕方がないのでは…と甘えておこう。


 それからは特に変わらず毎日を送っていた。ただひとつ変わったことといえば、学校ですれ違う時や夕食の時、今まで澪は僕を見ることさえ無かったのだが
〔…。〕
「…。」

あの日以来、澪もこちらを見るようになったのだ。顔を合わせる度に目が合い、お互いに一度は顔を背け、恐る恐るもう一度相手の方を見ると相手も似た様にこちらを見ている。気まずい。しかしそれが僕は嬉しくもあった。相手が何を思ってたのかは知らなかったが。
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