晶動(しょうどう)のアニマ

羽水

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第2話

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第2話
小さい頃の僕とあっくんが、施設にあった大きな庭で遊んでる。その様子を小さい頃の僕の視点じゃなくて、上から……別の視点から眺めている状況だったから、あぁ…これは夢なんだって思った。焦げ茶色の髪が僕。その隣ので頭に髪と同じ色の耳と尻尾がある男の子があっくん。この頃の僕は今よりちょっと長めの髪で女の子みたいだって馬鹿にされてたな。今の僕はショートボブ?(って言うのかな)位の長さだし、もうそんな風には見えないと思うけど。……この頃からあっくんはカッコよかった。褐色の肌もあの深い青の目も変わらない……あれ、このあっくんの髪の色は黒だ。……じゃあ、あの場所で会ったあっくんは?……どうして

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「う……ん……?」
「お、目覚めたか?おはようさん」

目は覚めたけど、まだ眠気が続いてて体が重い。頭もぼんやりして…思考が上手く働かない。でも、起きなきゃ、と思ってベッドらしきもので寝てた体の上半身を起こす。ここは……医務室、なんだと思う。薬棚とか簡易的な診察室みたいな場所もあるし。ここまで運んでくれたんだ、あっくん。そういう所は変わらないな、って少し笑っちゃった。そんな場合じゃないのは分かってるのにあっくんに飲まされた薬、相当強かったんだな、今まで起きなかったなんて……そうだ、あっくん…!

「あっ、くん……あっくんは……?何処!?あっくん!」
「うお、落ち着けって……んな焦んでもアイツならこの辺にいる。今はちっと呼ばれてここには居ないけどな…」

あっくんが心配で、探さなきゃと思ってベッドから飛び起きたけど体は言う事を効かなくてふらついた。でも咄嗟にあっくんと一緒に居たアニマのお兄さんが支えてくれたお陰で怪我とかはなかった。ただ、またベッドに座り直されちゃったけど。

「あっくんは、無事…なんですよね?あの武器とか持ってた人達に、なにもされてないですよね…?」
「ピンピンしてるよ、アズはな。並の兵士よりアイツは強い。そう簡単にゃくたばるねぇさ。」

そう、ケタケタとお兄さんは笑っているけれど、僕は気が気じゃなかった。ずっと探していた大切な人が、戦っているなんて想像もつかなかった。あの施設を出て行った日から、ちゃんと……普通に生きてると思っていたから。本当はあっくんから直接聞きたかったけど、このお兄さんなら僕の知らない【“施設を出た後のあっくん”】を知っている、筈だ。

「……あの、もし良かったら…僕の知らないあっくんの話を聞かせて、貰えませんか?……お兄さんは、あっくんから口止めされてると思います。でも、このまま何も知らないままなんて、僕は嫌だから」

僕のこの選択で、あっくんを傷付けるかもしれない。……出来ることなら傷付けたくない。だからってこんな危険な事をしてるあの子を、放っておくなんて出来ない。ううん、出来ないんじゃない。僕が、そうしたいと思ったんだ……

「……はぁ。口止めされてるのも分かった上で話せって?中々な事、言うなぁオマエ。……まぁ、俺もオマエに聞きたい事あるし、等価交換って事で。」

お兄さんは、はぁ……とため息を吐いたけどあっさりとした様子で話してくれると言ってくれた。でもお兄さんも僕に聞きたい事って何なんだろう?僕は……大したことなんて何も、知らないと思うけど……?

「あ、ありがとうございます……!あ、そう言えばちゃんと自己紹介してません、よね…僕は有瀬三祈ありせみつきって言います。医大生で…あっくん……アズルくんとは同じ施設に居ました。」
「おう、オマエがアズの言ってた“ミツキ”だってのは薄々気付いてた。まぁよろしくな。俺は……ミスカだ。よろしくなミツキ?」

お兄さん……ミスカさんは人懐っこい笑顔を浮かべて自己紹介してくれた。さっき会った時はお互いに直ぐに離れちゃったし、何よりあっくんと会った所だったからそれどこじゃなかったし……と改めて、ミスカさんをちゃんと見てみる。失礼かもしれないとは思うけど。
ミスカさんはたぶん、鳥のアニマで濃い藍色の髪はよく見ると羽根に近い質感でふわふわしてて軽そう。ポニーテールみたいに纏められた髪の束にはあの時は藍色に見てていたけど、実際に見ると光で青っぽく見えてた黒い羽根が混ざって纏められている。羽根は耳の後ろの生え際からも生えていて耳飾りみたいに見える。金色の目はつり目なのが笑っているお陰でちょっと上がっているのが、鳥より獣っぽいな…とか思ってみたり。……うん、この人凄い“美人”だと思う。と納得した。でも、僕はやっぱりあっくんの方が綺麗だなってちょっと思ってしまった。……違う。今はそんな事考えてる場合じゃなくて、あっくんの事、聞かないと……!

「よ、…よろしくお願いします……それで、あの…あっく……アズルくんはアンシャルで働いている、っていう認識で合ってるんですか…?その上着と腕章は……アンシャル財閥のものですよね?」
「……あぁ。合ってる。俺とアズはアンシャル財閥で働いてる。と言っても普通の財閥の職員とは違うが。あ、後、無理して呼び方変えなくていい。オマエにとって、アイツは“あっくん”なんだろ?」

僕があっくんの呼び方を変えるとミスカさんはそのままで良いって言ってくれた。……正直、とても有難かった。
あっくんが、遠い存在になっているのを昔みたいに呼ぶ事で僕は、安心したかった。まだ、あっくんは僕の知るあっくんだと、思いたかった。過去に縋っている、なんて何だか、良くない事のように思えるけど、今の僕はそうしないと怖くて仕方なかった。

「はい……で、その……アンシャルで働いているのは分かりました……でも職員と違うってどういう事なんですか?」
「俺とアズはアニマ関連の問題で武力を必要とした場合に動く“エージェント”っつーもんでな。まぁ簡単に言えばアンシャルお抱えの“戦闘員”だな」

“エージェント”……お抱えの、戦闘員。ミスカさんが言った事をちゃんと理解する為に呟く様に言っていた言葉を繰り返す。戦闘員って事はあっくんは、アンシャルでずっと戦っているんだ。僕と再会する前から。ずっと立って医務室の白い壁に寄りかかっていたミスカさんは僕を気遣ってベッドに座ってる僕の隣に座る。

「……まぁ、探してた幼馴染がまさか戦闘員やってるなんて、想像もつかねぇよな…」
「……あっくんは施設に居た頃から、喧嘩は好きな子じゃなかったので…あっくんは、本当に優しい子だった、から……」

もっと、ちゃんと探してあげれば良かった。早く見つけてあげられたって何か変わるのか、って言われたらそれまでだけど、もしもっと早くに再会出来てたら……きっと傷付き続けてるあっくんの心に寄り添ってあげる事は出来る。視界が滲んで、ぎゅっと自分の服を握りしめている両手の甲にぽたぽた、涙が落ちてくる。僕が泣いたって仕方ないのは分かってるんだけど、それでも止まらなかった。僕が泣いているのに気が付いたミスカさんは
自分の着てたロングコートの懐から白くて小さく畳まれた布を渡してくれた。ハンカチ、なのかは分からないけれど、それを受け取って涙を拭く。

「ぐすっ……すみません、泣き出したりなんかして。」
「いや、気持ちはわからんでもないからな。俺にまで気を遣わんでいい。」
「……あっくんが、どうしてエージェントになったのか、とか、なんで戦う力があるのかとか……聞いても、いいですか」
「……スマンが、そこはアイツの過去が関わってくるからキツめに口止めされて話せん。…知りてぇなら本人から聞き出すしかねぇ。」

アイツが大人しくオマエに過去を話すとは思えんが。肩を竦めながらミスカさんはそう言った。そんなに、僕に知られたくないもの、なのかな……
あっくんの、過去……その過去は施設を出た後のあっくんの過去って事で。……聞き出すしかない、なら話すまで傍に居れば、良いんだ。やっとここで会えたんだから。

「直ぐには無理だと思うので……いつか話して貰えるまで傍に、居ようと思います。……あ、そうだ。ミスカさん…僕に聞きたい事があるって言ってましたよね?」
「おう、そうしろそうしろ。アイツは勝手に1人で突っ走るからな。っと、そうそう。オマエに聞きたかったのは……ソイツの事だ。」

ケタケタと笑いながら、ミスカさんはそう言ってくれた。正直、流石にそれは止められるかな、って思ったんだけど。そんな事はなかったみたい。そんな中で僕はミスカさんが“聞きたい事”について聞いてみたら、ミスカさんは僕が首から下げてるペンダントを指差していた。
これは、あっくんが施設を出る時に僕に渡してくれた
少し白く濁った中に青白い光が見える石だ。とても綺麗で何よりあっくんから貰った初めてのプレゼントだった事もあってずっと大切に持っていたもの。中学生位になってから針金と革紐でペンダントにしていつも身につけてる。時々ヒビとか汚れとかが付いていたりしたけど、
僕があっくんの事を思い出したりして握り締めていたら、いつの間にか直ってたりした。…直ってたのは気のせいだとは思うんだけど。

「これ、ですか……?これはあっくんから貰ったもので、ずっと身につけてるんです。これを見てたり、触ったりするとあっくんを思い出して…暖かい気持ちになれるので。」
「…ははぁ、なるほどな。遠目から見てそうなんじゃねぇかとは、思ってたが……オマエ持ってるソイツはアイツ……アズの心晶コルだ。しかもオマエは“ザイル”ときた。そりゃ傍に置いとかねぇ訳だ。」

僕が手のひらに乗せたその石をまじまじと見たミスカさんは驚いた様な、呆れた様ななんとも言えない表情で笑ってそう言った。心晶コルとザイル、と言う言葉に僕は数秒遅れてから、驚いた。いや、だってそれ…

「え、ちょ、待って下さい…!心晶コルって……アニマが持つ特殊器官ですよね!?僕がこれを貰ったのって…8歳とかその辺ですよ?その頃のあっくんだって…5歳、位で…」

心晶コルはアニマと言う種族だけが持つ“特殊器官”。見た目は宝石とかいわゆる鉱物の形をしていて、アニマはこれを持っているから身体能力が高かったり、僕達、人間にはない“異能いのう”を使える。だから人間はアニマを未だに恐れている風潮が残っている。……何よりその心晶コルと言う器官事態が、どういうものなのか謎が多いって言うのもあって、余計にだ。
それでも分かってる事も少ないけれどある。それが心晶コルの発生に関する事だった。

「アニマに関する勉強してりゃ流石に分かるか。そうだ、心晶コルの発生率が多いのは思春期以降だ。だが、アイツは幼い内に、心晶コルを発生させてた。……極めて稀なケースではあるがな。んで、アイツはそれを“自分の唯一無二のザイル”であるオマエに渡した。……アイツとんでもねぇな」
「ザ、“ザイル”って……アニマの精神負荷を、癒す人……ですよね?僕は、あっくんにそんな事……」
「した覚えがねぇ、ってか。当たり前だ。オマエは“ザイル”の素質はあるが、自覚してねぇ。それを見抜けるのは自分を“ザイル”として認識してるヤツか、アニマだけだ。」

通りでアイツから心晶コルの気配がしねぇ訳だ、とミスカさんは深いため息を吐きながら頭をガリガリと
掻いていた。僕は、驚き過ぎて頭がついていかなかった。だって、僕が……ザイル?そんな事言われても、戸惑う。
“ザイル”はアニマの心晶コルの力を使用した後に生じる精神負荷を癒す力を持っている人達の事だ。アニマにとってはその人達が居ないと精神負荷の蓄積で、廃人になってしまう、らしい。アニマにとっての“命綱”
そこから“ザイル”と呼ばれる様になったらしい。でも“ザイル”の数は少ない。と言うのも自分が“ザイル”と自覚しないままで居る人の方が多いからだ。人間の場合は特に。アニマは心晶コルを発生させているアニマだと心晶コルに隠れて素質を見抜きにくい、んだとか。僕も大学の中で勉強した位の知識しかないから詳しくは知らない。と言うより心晶コルと同様に不明な点が、多い。

「……ミスカさん、さっき“唯一無二のザイル”って言いましたけど、それは、どういう、事ですか?」
「特定のアニマとの相性が高いザイルの事だ。ただしそのザイルはその相性の高いアニマ以外への治癒力が低いのが難点だ。そんなもんはそうそう居ない。……普通は、な。」
「……何で、あっくんは僕に心晶コルを渡したんだろう…?」
「……それは、」

ミスカさんが何か言いかけた時に、ガチャ、と扉の開く音がした。音のした方を見てみるとそこには、アズルくん……あっくんが立っていた。少し疲れているらしく、何だか元気が無い様に感じた。あっくんはそのままこっちに歩いて来た。

「随分と遅かったなぁ、アズ。相当説教されたなオマエ。民間人を薬で眠らせて、ここに運んで来たなんて事すりゃ怒られるわな。」
「……御託はいい。話したんだろう。俺達の事を。」
「あぁ、話したよ。ついでにオマエの心晶コルとミツキがオマエのザイルっつー事も話して分かった。」

僕達の近くまで来て止まっていたあっくんは、ミスカさんの言葉を聞いた瞬間、コートに掴みかかって壁に思いっきり叩きつけた。ドン、と大きな音にびっくりしてあっくんに呼びかけようとしたけど、出来なかった。ミスカさんの怖いくらい、鋭く冷たい目で睨み付けていて、しかもグルル、と低い声で唸ってる。本気で怒っているんだ、あっくんが……そんなあっくんを僕は知らなくて、不安に思ってペンダントをぎゅっと握り締めた。
そうしたら、あっくんがは、と気が付いた様に僕の方を振り返った。その顔は凄く動揺していて、不安げだった。
その様子を見て、僕のペンダントがあっくんの心晶コルだと実感した。心晶コルはアニマや人間問わず心の動きを感じ取れる器官らしいから

「……伝わったか、ミツキの感情が。こんだけ近くに自分の心晶コルがあるんだ、分からない訳がねぇ。……寧ろ近くにない状態で今まで良く戦ったな。そんな状態のアニマは普通、生きていくだけでもやっとだってのに。」
「…………」
「ったく……背中痛てぇ……本気で殺る気だっただろオマエ……んで、ミツキと話して思ったんだけどよ、コイツ、アンシャルに連れてった方が良いんじゃねぇの?」

僕の方を見て固まってたあっくんは、壁に叩き付けたままだったミスカさんを無言で離した。顔は離した時に逸らされちゃったから、もうわからないけど。
そんなあっくんの様子を、心配で見詰めていたらミスカさんは僕をアンシャルに連れて行く提案をあっくんにしてた。あっくんは相変わらず、顔は見えないけど……握り締めてるペンダントから、凄くザワザワした感覚を感じた気がした。……ちゃんと僕がザイルって認識出来てないから、ちゃんとあっくんの気持ちが読み取れない、のかな。たぶん。

「……理由は」
「長い間、オマエが隠し続けてた心晶コルが見付かった。そんでそれは覚醒してないザイルの元にある。だったらアンシャルとしちゃ、心晶コルとザイルは保護しないとマズイだろ。今はまだ俺達しか知らないがバレたら狙われるのは確実だぞ。」
「…………ダメだ。それに本人の意思を聞いてないだろう。本人が拒否したら連れて行く事は出来ない筈だ」
「ここまで来て、往生際の悪いヤツめ。しかしオマエの言う事もその通りでもある。……どうする、ミツキ。」

ミスカさんはちらりと、僕の方を見て言った。ペンダントはまだ握ったままだから、何となく伝わってくる。あっくんの冷たく拒絶してる、感覚が。来て欲しくないんだ、やっぱり。……でも、僕は知ってるんだよ?あっくんが僕の事を思うから、そうして拒絶してきてるって。
ペンダントをまた、ぎゅっと握り締める。そうするとあっくんは僕の方を見て、ギリッと辛そうな顔をして噛み締めてた。伝わったんだね、僕の感情が。……ごめんね、でも、僕はちゃんと、あっくんと話がしたいんだ。

「……行きます。ちゃんと知りたいんです。あっくんの事も。ザイルの事も。……アニマという種族の事も。全部」
「……アズの顔見た瞬間から、そう言うと思ってた。さて、これでオマエの思惑からは外れたな、アズ」
「……ちっ」
「あからさまな舌打ちすんなよぉ……と、そういやオマエの先輩?が別室で目覚ますの待ってんだわ、知らせに行ってやんないと」
「え、先輩、居るんですか?」
「オマエが飛び出してたのを追いかけたら、ミツキがアズに抱えられて医務室に運ばれてったのを見たらしくてな。そのまま俺らに突っかかってきて大変だったわ。無事だってつったら、起きるまで待ってるって言うから別室で待ってもらった。」

先輩に心配かけちゃったんだ……でもまさか、追いかけてくるとは思ってなかったなぁ。絶対こういう時は逃げてると思ったのに、先輩。先輩に申し訳ないと思いつつも純粋に心配してくれたのが、嬉しかった。

「すみません、先輩が……その、」
「謝んなよ、元はアズがミツキを眠らせたからそうなった訳だし、非はこっちにある。とりあえずアンシャルに行く話は一旦置いといて、顔見せてやんな。」

んじゃ、知らせてくるなぁ、とミスカさんはヒラヒラと手を振って、医務室を出て行った。あっくんと話をしようと思ったけど……僕から離れた所の壁に寄りかかって、全然話が出来る感じじゃなかった。その後、ミスカさんと先輩が来て、僕は先輩に散々お説教された後にゲンコツされた。……先輩のゲンコツ、すっごい痛い。
僕が眠ってる間に事件は解決済みらしく、武装集団は捕まったみたい。先輩と僕は軽い事情聴取した後に、すぐに帰された。と言っても事情聴取をしたのはアンシャル職員の人で、僕と先輩があっくん達と一緒に居たのを知ってて、帰してくれたみたいだった。
……今日一日で色々とあり過ぎだ。流石に疲れちゃった。
僕は自分の家に着いた後、とりあえずお風呂とご飯済まして、倒れる様にベットで寝た。
……僕今日、寝てばっかだなぁとかそんなぐだらない事考えてる内に、睡魔に抗うことも無く、そのまま眠った。
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