ハッピーライフ

小槻みしろ

文字の大きさ
上 下
5 / 8

五話

しおりを挟む
「りいちゃん、部活やめたって、ほんと?」
「うん」
「何で?」
「向いてなかったし、しんどかったから」
「確かに、全然りいちゃん浮いてたもんねえ」

 キャハハ。
 真帆はスマホをいじりながら笑った。

「あっならさあ、りいちゃん放課後ヒマになっちゃうね?」
「何で?」

 聞いたものの、予想は出来ていた。

「は? まじで言ってんの」

 真帆は不機嫌になった。

「うん」
「あーそっか。ゲームでもしてるんだ? りいちゃんオタクだもんね」
「いや、ゲームもしない。あのさ、真帆ちゃん」
「何?」

 すいすい、真帆の指はスマホに夢中だ。

「私、部活やめるじゃん。真帆ちゃんは部活入ってるじゃん。だから、これから一緒には帰れないと思う。ごめん」
「……は?」

 真帆は、顔を上げた。不愉快、そんな顔だった。

「何言ってんの?」
「ごめん。でも、さすがに六時までは長いから、待ってられない」
「ゲームでもしてればいいじゃん。それか勉強とかさあ」
「ごめん。あと、LINEとか、電話もそんなにもう出来ないと思う」
「は?」
「勉強、もっと頑張りたいの」

 私は真帆の目を見て頼んだ。

「は? 何それ」

 真帆は、スマホを握りしめた。

「りいちゃん、さっきから自分の都合ばっかさあ」
「それはごめん」
「てゆーか何? なんか変じゃない? いきなり何キャラ? 何様なの?」
「ごめん」
「うるっさいなあ」

 真帆は向かいの私の椅子を蹴った。嘘みたいに音が響いた。
 真帆は冷たい目で私を見ていた。

「私のことなんてどうでもいいんじゃん」
「どうでもよくないよ」
「いや、いいよ嘘つかなくて。てゆーかさ、ほんと、りいちゃんそういうとこあるよね。人の気持ちわかんないってゆーか、空気よめなすぎってゆーかさ……そんなんだから、友達出来ないし、皆に嫌われてるんだよ?」

 真帆は、私を睨みつける。私は、ぐっとお腹に力をいれる。

「私だから、そーゆーの許してあげてるけど……ほんと、気を付けた方がいいよ?」
「そんな風に、言われたくない」
「は?」

 真帆の顔が紅潮した。この流れで、私が言い返したことはなかったからだ。机を指先で、トントントンと激しく突く。

「まじないわ。空気読めなくて、人のこと、苛々させて……その上、えらそうになったら、本当に、いいとこなしだから」

 真帆は、大きく目をむくと、それからふうと息をつき、そっぽを向いた。

「もういいよ。どっかいけば」

 真帆はまた、スマホをいじり出した。話しかけるなオーラが出ている。
 こうなると、もうどうにもならない。

「真帆ちゃん」

 無視だった。
 わかっていた。私がどんなに慌てて、謝っても、ずっと、気が済むまで――あるいは忘れるまで、真帆はそうしていた。

「ごめん」

 私は席を立った。
 そして、自分の席に戻った。
 真帆に

「悪いとこ直すから、嫌わないで」

 と、もう言わない。
 友達、ではあったと思う。
 友達ができない私に、声をかけてくれた真帆のこと、ずっと感謝してた。
 けれど、夜通しLINEしたり、電話したりするのは、正直苦痛だった。よくわからない理由で怒られて、無視されて、人格否定されるのもつらかった。
 真帆以外に友達はいなかった。これから、どうしたらいいか、わからない。
 でも、そんな気持ちしかわかない友情なんだ。
 だから……これでいいんだ。
 私は、廊下に出た。
 風が、さあっと吹き抜けて、気持ちよかった。

しおりを挟む

処理中です...