リンゴの木の下で

小槻みしろ

文字の大きさ
上 下
10 / 10

十話

しおりを挟む
「それで? どうなったの?」
「お前の知る通りさ」
 
 私のおばあちゃんは、昔聖女だった。王宮に行って、たくさんの人を救ったらしい。
 王宮。その言葉を聞くたびに、胸が躍る。だから、正直不思議でならなかった。
 
「どうしておばあちゃんは、村に帰ってきたの?」
「それはね……」
 
 おばあちゃんは、そっと目を閉じた。
 
 リンゴの花の咲き乱れる下に、ティムは待っていた。私を見て、笑みを浮かべる。まるで昨日会ったみたいに。
 
「お帰り」
「奥さんは?」
「これから迎えるよ」
 
 ティムの下に駆け寄った。
 
「どうして?」
「だって――」
 
 ティムが私の頬をつつむ。
 
「あの人の涙をふけるのは、私だけだった」
 
 おばあちゃんの閉じた目から、涙が落ちた。手に持ったリンゴに伝う。
 
「いいえ、違うわね」
 
 おばあちゃんはふと窓の外を見た。おじいちゃんが埋められた、庭に……
 今日植えられた木は、いつ実をつけるのだろう。
 
「私が、あの人に会いたかったの」
 
 私はおばあちゃんの膝にそっと顔を寄せた。そして目を閉じる。夢を見るように……
 
「できるとか、できないとかじゃない。もう一度、リンゴの木の下で……あの人に会いたかったのよ」
 
 リンゴのあまい香りが、やさしく香っていた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ニタマゴ
2023.12.15 ニタマゴ
ネタバレ含む
小槻みしろ
2023.12.15 小槻みしろ

ニタマゴさん、読んでくださってありがとうございます!
人生難しいなあと、一喜一憂しながら書きました。嬉しい言葉の数々、とても励みになります(*^^*)
これからも頑張ります!

解除

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。