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決意
しおりを挟む道を歩けば、人々は、自分たちに奇異のまなざしを向け、そらしていく。自分たちにふれないように、すっと距離をあけすれ違っていく。他人のその行為はもはや奈緒にとってなじみ深いものであった。
しかし、奈緒はここ数日、意識を新たにして、他人の反応というものを感じるようにしていた。それは奈緒の明子への友情によるものであった。
そして今日、やはりおかしいのだと奈緒は確信した。
やはりこの事態はおかしい。――明子はやはりおかしい。
明子の今日の出で立ちは、スウェットに膝丈のスカート、そしてダウンジャケットだった。そんな軽装備であるにもかかわらず、のんびりとした様子で、今も隣を歩いている。
奈緒は一度、明子を傷つけないように気を払いつつそれとなく「薄着で大丈夫なのか」と尋ねてみた。すると明子は笑って
「奈緒のおかげ」
と言った。その言葉は嬉しかった。しかし、それでも、いやだからこそ、自分への友情のために自らの命を危険になんてさらしてほしくなかった。
外は、危険がいっぱいだ。それなのに自らの装備を薄くするなんて、考えられないことだ。やはり、正気の沙汰ではないのだ。証拠に皆、明子を避けて行くではないか。
しかし、そう思ったところで、それを直接言葉にして指摘するのは、やはり奈緒には躊躇われた。明子は自分がおかしいということを気にしている。恥じている。それでいて、やめることができないのだ。その事を先の諍いで、奈緒は知った。そして、そんな明子の理解者になろうと、決意したのだ。
世界が明子を奇異の目でとらえても、自分だけは、明子の側にいるのだ。その決意は奈緒の中で、いっとう輝かしく、かたい友情の証であった。
しかし、今の状態を放置することはできない。明子の狂態を受け止めるのも友情なら、今の状態を放置することができない、今の奈緒の気持ちもまた友情なのである。
なぜなら、命がかかっているからだ。明子の狂態を受け止めてやりたい。しかし、明子の命を守りたい。奈緒にとって一番大切なのは、明子なのだから。
明子を傷つけずに、察してもらう。そのためにできることは何だろう。
奈緒は、巻いていたマフラーに薄く隙間を作り、風を送った。知らぬ間に汗ばんでいたらしい。冬の外気は奈緒の湿ったマフラーと肌を冷やした。奈緒はあわててマフラーを強く巻き付けなおした。
その日の夜、奈緒は決意した。明子に自分がいかに危険であるか気づいてもらうのだ。今度こそ明子を傷つけない。そして明子を守ってみせる。
そのためには、自分がそれとなく明子に危険だと示す必要がある。奈緒は決意をある固めた。
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