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帰宅と号泣[星の視点]

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朝、目が覚めた。

「氷雨、今日仕事は?」  

「兄さんの家に行くから、休みをとってる。」

「僕は、そろそろ帰るよ。」

時計を見ると、8時を回っていた。

「流星さんは、ついさっき帰ったよ。」

「そっか…。」

「お礼言いたかった?」

「うん、またここに連れてきてくれる?」

「うん、いいよ」

氷雨の優しさは、僕の気持ちを癒してくれた。

「本当に、駅まででいいの?」

「うん、大丈夫」

僕は、服を着替えながら氷雨に話した。

用意が終わり、秘密基地をでた。

駅まで、氷雨と並んで歩く。

雨は、もうあがっていた。

「星(ひかる)、いつでも呼んで。急いで、行くから」

その言葉が、嬉しくて泣いてしまった。

「泣くのは、ダメだよ。」

そう言って、氷雨は人から見えないように僕をしてくれていた。

「ごめん。嬉しかったんだよ」

涙を拭って、僕は笑った。

「それでも、ダメだよ」

氷雨は、僕の頭を撫でてくれた。

僕は、氷雨がいるだけでも幸せだったのを忘れていた。

「何かあったら、すぐ連絡をする事、忘れないで」

「わかってる」

僕は、氷雨に抱きついた。

「すぐに行くから」

「わかった。」

氷雨から、離れて手をふった。

何度も振り返った。

氷雨は、ずっとそこから僕を見てくれていた。

切符を買って、改札を抜け、ホームについた。

月(るい)の愛を失う事などないと思い込んでいた。

時計をもらってから、勘違いしていたのだ。

養子縁組の話をされて、なおさら勘違いをした。

だから、罰が当たったのだ。

電車が、ホームについて乗り込んだ。

窓の外の景色を見つめながら、家に帰って、月(るい)がいたらなんて声を掛ければいいのだろうか?

そればかりを考えていた。

最寄りの駅について、電車を降りた。

明日、お金をおろしにいこう。

ずっと、考えていたけど答えは出なかった。

家について、鍵を開けた。

靴が、なかった。

朝から、出掛けたのか…

帰ってきていないのか、わからなかった。

僕は、そのままリビングに向かった。

ドサッ…

机の上の絵を見て、スケッチブックの入った袋を落とした。

何で、この絵が描(か)けたの?

スケッチブックを広げる。

紛れもなく、月(るい)が僕を描(えが)いていた。

待って、頭の中に、僕の欠片があるの?

開かれて置かれたページを見つめていた。

嫌悪感を示した、月(るい)が、なぜ?

この指輪を探し、ノートを見たのか理解に苦しむ。

迷わず、捨てろ…。

なんて、酷いことがよく言えるよ。

出ていく?

お金がない、月(るい)はどこに行くのだろうか?

昨日、酷いことを言った。

会いたくない、会えない。

僕は、部屋にもどった。

月(るい)と一緒に生きていたかったよ。

泣いて

泣いて

泣いて


寝てしまった。

.
.
.
.
.
.

ザァーという雨の音で、目が覚めた。

リビングから、ベランダに出た。

雨すごいな…。

何もかも流れそう。

僕が、今いなくなっても流れて消えていきそう。

ダメだ

氷雨の事を、考えよう。

僕は、ベランダに座り込んだ。

雨に濡れるベランダが、僕の服を濡らしてく…。

もう、お互いに、縛られるのはよそうか…

月(るい)とさよならをしよう。

帰ってきたら、ちゃんと…。

僕は、ベランダに寝転がった。

生きていたくなくたって、生きていなくちゃいけない。

それは、氷雨がいるからなのがわかる。

氷雨がいなかったら、僕は生きることをやめた。

愛を失うって、そういう事だと思う。

氷雨がいてくれて、よかった。

冷たいコンクリートと雨が、僕を冷静にしてくれる。

月(るい)と終わらせたら、僕はこの市を出よう。

新しい場所で、新しい人生(みち)を歩こう。

その方が、月(るい)だって幸せになれる。

僕が、いない方が幸せになれるんだ。

「矢吹さん、何してるんですか?」

目を開けると、びしょ濡れの月(るい)が立っていた。

僕は、ゆっくりと起き上がった。

「丁度よかったです。別れ話をしましょうか?」




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