ふたりの愛らぶyou

三愛 紫月 (さんあい しづき)

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いくつもの顔

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3月9日。

美咲さんの最後のお店にきていた。

貸し切りだ。

栞さんも美咲さんが辞める日まで待っていた。

明日から、栞さんもいなくなる。

今日は、美咲さんと栞さんのパーティーだった。

「今までありがとう。乾杯」

お店の方達に笑いながら美咲さんが言った。

「月(るい)の事、よろしくね。」

栞さんが、僕に話しかける。

「はい。」

「化け物に飲まれかけたでしょ?月(るい)は、何も話さないけどわかる。お兄さんに何かしようとしたんだって」

「はい。死ぬつもりだったって」

僕の言葉に栞さんは、納得した表情をした。

「でも、何か約束したんでしょ?化け物が、その部分を上手く食べれないのがハッキリとわかる。ありがとう、月(るい)と居てくれて」

そう言って、笑ってくれた。

「僕の方こそ、月(るい)が居てくれてよかったです。」

僕は、月を見て笑っていた。

「じゃあ、まやたく君ともお別れしてくるね」

栞さんは、そう言って行ってしまった。

美咲さんは、従業員の方と話している。

月は、晴海君と華君と話していた。

僕は、その光景を見ていた。

月が生きて笑ってるそれだけで充分なんだよね。

月の化け物が、破壊と衝動性をもっている事を僕は知ってる。

僕も、僕の化け物が破滅と衝動性をもってるのを感じている。

今ここで見えてる顔だけが、その人ではないのだ。

「難しい顔しているね」

いつの間にか、美咲さんが来ていた。

「こないだは、ありがとうございました。」

「ううん。月君が帰ってきてよかったよ。何か考えていたの?」

「今、ここに見えてる顔がその人ではないんだよねって思ってました。」

「そうだね。人間っていくつも顔をもってるよね。優君のように真っ直ぐな人でも、仕事の時と今の顔は違う。一部分を切り取って、こういう人だと決められたくはないよね。」

「そうですよね。僕は、月の顔をいくつ知ってるのかな。」

ワインを飲みながら、月を見ていた。

「全部知りたい?」

「わかりません。」

「全部知ったうえで一緒にいる人ってどれくらいいるのかな?俺は、全部知りたくないかな」

「どうしてですか?」

「がっかりしたくないし、知らない顔がある方が、楽しめる。俺しか知らない顔。別の誰かしか知らない顔。そんな顔があったっていいと思うんだよ。」

「そうですよね。」

「知らない顔がある、それは悪いことではないよ。一緒にいるから全部をさらけださなきゃいけない事もない。ただ、俺にしか見せない顔もある。それが一番嬉しい事でしょ?」

「そうですね。それが、一番です。」

僕は、月の全部を知りたいわけじゃない。

全部の顔を知って一緒にいたらどうなるのだろうか?

僕しかしらない月(るい)がいる。

お兄さんしか知らない月がいる。

栞さんしか知らない月がいる。

家族しか知らない月がいる。

それで、いい。

一緒にいるからって、全部を見れなくたって見せてくれなくたっていいんだ。

僕も月(るい)に全部を見せれてはいないのだから…。


美咲さんが去った後、僕に話しかけたのは月だった。

「今日で、終わるんだね」

「うん」

「椚(くぬぎ)さんと一緒に居た時と違うよね。詩音」

「そうだね」

「このお店、大好きだったんだね」

「そうだと思う」

「でも、それよりも大好きな人に出会ったんだよね」

「うん」

月が、笑ってくれる。

お兄さんといる時は、こんな穏やかな顔をしてなかった。

僕と同じだ。

苦しくて、痛くて、辛くて、悲しくて、それを人を好きな気持ちだと思っていた。

でも、月を感じて違うのかもしれないと思った。

優しくて、暖かくて、退屈。

同じ感覚で、押し寄せてくるトキメキ。

眠くなる愛。

でも、ずっと一緒にいるってこうじゃなきゃダメだねって思う。

氷雨に対しての感情を一生味わう考えただけで、ゾッとする。

お爺ちゃんになっても、あれだったら。

怖すぎる。

月(るい)が、僕の手を握りしめた。

「何か、食べようか」

そう言って、ビュフェの所に連れて行ってくれる。



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