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拓夢の話9

やっと…

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「凛」
やっと、その手を掴まえれた。

「離して」凛の言葉にイライラする。「何で、逃げんの?」聞いても、こっちを見てくれない。答えてくれない。

「凛、話ししよう」そう言ったのに、首を横に振られる。「何で?」って聞いたら「嫌です」と言われた。俺は、その言葉に引き下がりたくなかった。凛は、俺の顔を見る。抱き合う事が怖い行為だった事、嫌いにさせないでと言われてしまった。しゅんが、現れて俺を凛から離した。複雑だった。わかっていたのに、俺は凛を傷つけた。
傘を返せとしゅんに言われたけど、頭の中にうまく入ってこなかった。「拓夢君」明日花ちゃんの声が聞こえて俺は階段を駆け上がった。

「はぁ、はぁ、はぁ」

「鍵開いてたよ」

「ごめん、しゅんが来てて」

俺は、明日花ちゃんを家に連れて行く。

「何か用事だったの?」

「うん!バンドの事で」

「そっかぁ!」

玄関で、虹色の傘が目に入った。絶対、渡さない。俺は、傘を見つめそう思った。

「もうすぐ、帰るね」

「大丈夫?雅俊」

「うん、お酒抜けてるから」

「また、何かあったらいつでも来ていいから」

明日花ちゃんは、俺に抱きついてきた。

「拓夢君、好きな人はもういいの?」

「どうかな?わからない」

「もし、次、雅俊に殴られたら…。私、暫く泊めて欲しいの。だけど、好きな人がいるなら」

「大丈夫!もし、そうなったらおいで」

俺は、明日花ちゃんの背中に手を回して抱き締める。

「ありがとう、拓夢君。私、そろそろ行くね」

「送る?」

「ううん、ここでいい」

「気をつけて」

「ありがとう」

明日花ちゃんは、ドアを開けて出て行った。俺は、それを見届けて鍵を閉めてキッチンに向かう。ダイニングのスマホを取って、ベッドに寝転がった。

電話帳から、しゅんを見つけて発信した。

プルルル、プルルル、プルルル、プルルル…。

コール音が空しく響く。拒否された気がする。それでも、何度も何度もかける。

「お掛けになった番号は…」電源を切られたか、電源が落ちたかだ…。

「くそっ」

俺は、ベッドにスマホを叩きつける。凛にかける勇気がない。
あの目や、涙を見たら…。今の俺が凛を傷つける存在なのがわかるからかけられなかった。

俺は、泣きながらベッドに横になった。どれくらいそうしてたかな?

ピンポーン

インターホンの音で、目が覚めた。俺は、インターホンを取りに行く。

「はい」

「星村さん、管理人です」

「あー、はい」

俺は、玄関を開けに行く。

「こちら、修理しないといけませんよね」

「はい、お願いします」

「見せてもらってもいいですか?」

「はい」

そう言って、管理人さんは、ポストを見ている。
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