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エピローグ【拓夢の話1】

束の間の夢を見させて

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「拓夢、ありがとう」

そう言って、顔を見つめてきた凛に俺はキスをしてしまった。

「んんっ…」

「ごめん」

俺は、水栓レバーを開いて、手を洗う。

「さっきから、それ」

凛も、手を洗ってから俺を見つめる。

「駄目だよ。よくない」

「そうだね」

二人で、煩悩を掻き消す。

「全部落ち着いたら!あー、違う、違う。もう、終わったんだから」

「拓夢、やっぱり私、帰った方がいいよね」

「いやいや、帰らなくていいから…。凛は、いていいから」

「拓夢、そんなに必死にならなくていいから」

「ごめん。何もしなくていいから、いてよ。お願いだから」

「うん」

「お風呂沸かしてくる」

「うん」

俺は、お風呂を洗いにやってくる。お風呂を洗って、スイッチを押してから、俺は洗面所の鏡にうつる自分を見つめる。

「駄目だぞ」俺は、鏡の自分を戒めていた。弱い所につけいるなんて最低なやり方だ。そんな事をして凛を手に入れたって何の意味はないんだ。それに、ちゃんと、終わらせたんだ。

俺は、洗面所の床に座る。本当は、凛に傍にいて欲しかったのは俺の方だった。まっつんが、何かを知っていて、智から聞かされた音声。落ちていた俺の前に、凛がいたんだ。あの日みたいに凛がいた。だから、迷う事なく俺は凛を家に泊めたんだ。

「最低だな」小さく息を吐いて立ち上がった。それでも、凛が欲しい気持ちを捨てられないままキッチンに戻った。

「沸かしてよかった?」

「うん」

「先、入って!タオル出すから」

凛は、お皿を洗い終えていた。

「危ないから、一緒に入るよ」

「大丈夫、俺は明日入るから」

「拓夢」

「どうした?」

「龍ちゃんを失うと思ったら、頭の中にある映像が流れてきてね。それを消せないの」

凛は、俺の手を引っ張る。

「失わないよ!大丈夫だから…」

俺は、右手で凛の頭を優しく撫でる。

カチッてあの日みたいに、何かがハマった。

『忘れたい』

いけない事なんてわかってる。煩悩にまみれては、いけない。流されちゃいけない。

なのに…。

なのに…。

俺達は、あの日みたいに惹かれ合う。まるで、磁石みたいだ。俺は、凛の頬に右手を当てて引き寄せてキスをした。

「んんっ」

「ごめん。今日で、最後にするから」

凛は、その言葉に蕩けるような眼差しを向けてきた。いいよって意味だと思った。俺は、凛のガーデンを脱がす。早送りみたいなスピードで俺達は重なりあった。キッチンから、どうやってベッドに来たかも覚えていなかった。

「ハァ、ハァー、ハァ」

聞こえるのは、互いの乱れた呼吸音だけで…。お風呂は、もう沸いているのがわかっていた。
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