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リゼの話

13日前ー

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「よし、始めよう」

今日は、ルカと一家心中をした魂を迎えに来ていた。

「悲惨って、やつだな!」

「確かにな…」

両親が死に、子供二人は生きるってのは残酷すぎるな!

「リゼ、どうぞ」

小瓶を持って、ルカが横に立つ。

父親は、すんなりと瓶に収まった。

「私、死にたくない」

母親は、ずっと話しかけてくる。

「どうして、この子達を残していきたくない」

「そうは、言われても困るんだよ」

「お別れしたい」

「無理だ」

「でも、何で…」

予定時刻完了まで、残り三分だ!

「あんたが、死なないならこの子が死ぬんだ」

俺は、息子を指差した。

「そんな…何故?」

「バランスを保つためだ!嫌なら、この子を連れていく」

「待って、行くわ!やってちょうだい」

「わかった」

俺は、母親の魂をルカに渡した。

小瓶に入った。

【お疲れ】

ブタが現れた。

「頼むよ!」

【了解】

ブタの持ってきた、小さなバスケットにルカは小瓶を入れた。

ブタは、飛んでいった。

「任務完了だな!お疲れ様」

「ああ、お疲れ様」

「じゃあ、俺は先に帰るよ」

「うん」

俺は、ルカがいなくなったのを見届けてCフォンを取り出した。

桜木杏奈の位置を検索する。

今日は、杏奈は違う場所にいた。

「赤ちゃん、やっと出来たの」

「よかったね、美佐ちゃん」

「本当だね!旦那さんと望んでいたもんね」

友人二人とお茶をしていた。

「杏奈も早く結婚した方がいいよ」

「そうだよね」

「そうそう!女にはタイムリミットがあるから」

「治療するのも、若いうちがいいんだって」

「そうだよね」

全然、楽しそうに見えない。

「杏奈、紹介しようか?旦那の友達」

「考えとく」

「青井さんと別れちゃったんでしょ?だったら、早い方がいいよ」

「そうだね」

二人は、杏奈が繰り返し浮かべる苦笑いにさえも気づかない。

「赤ちゃん、産まれたら抱いてね!二人とも」

「勿論だよ」

「うん」

友人二人と杏奈は、お別れをした。

鉛みたいに引きずるように歩く。

俺は、杏奈の手を取る。

気持ちが流れ込んでくる。

【赤ちゃん、赤ちゃん、私の赤ちゃん。知らないの、悪気はないの、あの子達には何も悪気はないの。だから、許さなきゃ!許さなきゃいけないのに、憎い。こんなに憎い。駄目よ!そんな事考えたら…。駄目、駄目。どうしたらいいの?私は、どうしたらいいの?赤ちゃん、教えて】

「杏奈」

俺は、杏奈を見つめていた。

夕方だから、杏奈はそのまま帰宅して行く。

さっきのお茶会が、杏奈をかなり傷つけたのがわかった。

杏奈は、赤ちゃんを殺した罪悪感に浸ってるのに、友人は赤ちゃんを出産するのか…。

俺は、また死神界に帰宅した。

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