彩られる作品【仮】

三愛 紫月 (さんあい しづき)

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【心だけが、繋がらない。】

【心だけが繋がらない】⑮

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夏は、服を着替えて外に出た。

「里山さん」

「春やろ?」

その笑顔に心臓が破裂しそうやった。鍵を閉めた。

「春、行こか」

「うん、何て呼ばれてた?」

「夏」

「わかった、夏。行こか」

並んで歩き出す。

「電車で、二駅先に行きたいんやけど、春。」

「うん、ええよ」

電車に乗れるか試して見たくて、わざとそうした。

「春」

「うん」

「いや、何もないよ」

そう言った僕の手を握りしめてきた。

「えっ?」

「アカンかった?」

振り払われそうになって、夏は強く握りしめた。

「アカンわけない」

「よかったわ」

その笑顔に、夏は気持ちが止められなかった。

「好き」

「うん」

「僕、めっちゃ好き」

「うん」

「したい…。」

本音を言ってしまって、慌てて口をつぐんだ。

「俺もしたい」

「えっ?」

里山さんに言われて、夏は驚いた顔をした。

「ごめん、ごめん。冗談」

里山さんは、そう言って笑った。

駅についてしまった。

足が、ガクガクと震える。

改札にやってきた、息が苦しくて動悸が早い。

「大丈夫?」

「うん」

里山さんの手をさらに強く握りしめて、器用に改札を抜けた。

離れないように、自分の元に引き寄せる。

「夏、電車きてるで」

そう言われて、走って急いで乗り込んだ。

「はぁ、はぁ、はぁ」

電車の扉が閉じた。

冬と何度やっても乗れんかった、電車に乗れた。

不思議な感じやった。

動悸は、まだしていたけど…。

二駅進んで、降りた。

「どこ行くん?夏」

「内緒」

もう、春にしか見えんくなった。

「春、僕の事好き?」

「今?」

「ゆうて」

「好きやで」

恥ずかしそうに笑いながら、里山さんは言った。

夏には、里山は春にしか見えていなかった。

改札を抜けて、手を引っ張っていく。

予定では、プラネタリウムでも見に行って、展望台行ってとか考えていたのに…。

「近所でも、あったんちゃう?」

ラブホテルの部屋の番号を押していた。

「そうなんやけど」

わざわざ、電車に乗ってまで来る必要はなかった。

でも、この熱のままいってしまいたかった。

「アカン」

「いや、ええよ。大丈夫」

「春、行こう」

夏は、里山さんの腕を引っ張っていく。

ホテルの部屋に入った瞬間から、夏は里山さんにキスをしていた。

「待ってっっ」

「春、好き、好き」

冬に、ワンムをしろと言ったくせに、目の前の春にキスしていた。

ガタッ…

「イタッ」

「ごめん」

夏は、その声に我に返った。

「大丈夫」

「靴脱いで、上がろ」

「うん」

里山さんは、靴を脱いで上がる。

「手首、痛めたんやない?」

「大丈夫やから」

「ごめん。僕、がっついて」

「いや、ええねん」

「でも、彼氏がおんのに」

「結は、ちゃんとわかっとるから」

「わかってるって?」

里山さんは、スマホの待ち受け画面を僕に見せた。

「誰、これ?」

「片思いしてた、会社の先輩」

「どないしたん?」

「癌で、死んでん。15年前に…」

「それって?」

「結も同じやった。俺と同じで、好きな人亡くしてんねん」

「じゃあ、セフレ?」

その言葉に、里山さんは、笑った。

「ちゃうちゃう。10年一緒におるねんで。結の事、好きやで!やけど、先輩が忘れられへんってだけ。」

僕は、里山さんのように胸を張って、冬を好きだと言えない。

「そうなんやね」

「何か、萎えさせたよな。空気変わったよな」

そう言って、里山さんは笑った。

「冷静になっただけやから…」

「俺は、夏とそうなってもかまへんよ。覚悟は、してきとるから。結にも話してるし…」

「そんなん悪いよ」

里山さんは、スマホをとって指で動かした。

そして、夏にその画面を見せる。

「忘れられへん、先輩に似てるから…。ええねんよ」

さっきとは違って…。元気な頃の先輩は、僕ソックリだった。


待ち受けのやつれた先輩は、わからなかったけれど…。

「高校卒業して、一緒に働いて5年間片思いしてた。そやから、夏とキス出来て嬉しかった」

その言葉に、夏は固まっていた。

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