彩られる作品【仮】

三愛 紫月 (さんあい しづき)

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待てを言われた僕達は…。

【待てを言われた僕達は…】②

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ポタポタと顔にかかる雫で目を開ける。

「悪い!アイス垂れた」

「ふざけんなよ、凛音」

俺は、起き上がってティシュで顔を拭いた。

「気持ち良さそうに寝てるからさ!はい」

「寝起きに、こんなん食わねーだろ?」

「食べるよ!海斗」

二つに割ったアイスの片割れを口に入れられた。

「あー、もう夢見てたのに」

「いい夢?」

「嫌、そんな事ないわ」

あれから、父親は一度も帰宅して来なかった。

20歳の夏、【弟が出来ました。】と言う謎の写真入りの葉書が届いたのだ。

あんなにも、セックスに嫌悪感を示していた父親は、息子には『待て』を言い続けているのだ。

「意外に上手いわ。寝起きだけど」

「よかったな」

「なぁ、凛音。別れていいんだよ」

「何で?」

「セックスしたいだろ?」

「僕を野獣だと思ってる?」

「そうじゃなくて、凛音まで童貞じゃなくてもいいだろ?」

「初めては……海斗がいいに決まってるだろ!言わせんなよ」

「凛音…でも、俺」

「わかってるよ。母親のセックス見てから無理なんだろ?そりゃあ、僕だってしたいけどさ。無理にとは言わないよ。だから、いつかそうなろうね」

「うん」

10年も一緒にいるのに、あの話を出来ていなかった。

凛音と付き合って、すぐに父親から電話が掛かってきて、風呂は、はいれるのか?添い寝は、出きるのか?深いキスはいけるのか?ハグは出きるのか?腕は、組めるのか?
父親に、たくさん質問した。

とにかく、セックスさえしなければ大丈夫だとしか言われなかった。

一年付き合った頃に、凛音が俺のそこを手でしてくれたけれど、何も起きなかった。

だから、俺は凛音の事もしてあげたのだ。

きっと、この10年。

凛音は、苦しんでるはずなんだ。

何にもないよ、平気だよって顔してるけど…。

本当は、辛いんだ。

「海斗、ボッーとしてどうした?」

凛音は、アイスクリームで汚れた手を洗うために立ち上がって俺に言った。

「嫌、何でもない」

「そう」

凛音は、手を洗いに行った。

暫くして、戻ってくると俺の隣にピッタリ張り付いて、スマホのゲームをしている。

クルクルと円を描(か)くように動かしながら、輪っかを繋げていくというゲームにはまっている。

「それ、楽しい?」

「うん、楽しい」

「本気で言ってる?」

「本気で言ってるよ」

「ここ、半年。ずっとそれだね」

「うん」

「何で?」

「話ながらでも、出来るから」

「凛音、あのさ…」

「別れないから…。」

「えっ?」

「会社の先輩の奥さんみたいな事、言わないでよ」

「どういう意味?」

「子供が出来ないから別れようって言われてるって!先輩は、別れないからって言ったって。僕も海斗と別れないから…。セックスだけが全てみたいな関係に思われてるなら、違うから。確かに、10代の時は海斗にそれを求めたと思う。だけど、あれから10年だよ!もう、そんなのどうでもよくなるぐらい一緒にいるだろ?海斗は、セックスしなきゃ、僕といたくないのか?」

「ごめん。俺、間違ってた。俺は、凛音とセックスしなくても一緒にいたいよ。ごめん。」

「いいんだよ。」

凛音は、俺の手を握りしめてくれる。

「これだけでも、充分だから」

そう言って、笑ってくれる。

凛音に嫌な言葉ばかりを話させてる。

セックス、セックス、って俺の頭がおかしいだろ。

あの日、父親に言われてから一歩も動けてないのは俺なんだよ。

凛音じゃない。

海斗は、凛音の肩に頭を置いて、涙を流す。

今すぐにでも、打ち明けてしまいたい。

そして、楽になりたい。

でも、ウイルスがいます。何て、言ったら、凛音は俺から離れるんじゃないのか?

こうするのも、キスするのも、お風呂に入るのも、添い寝するのも、抱き締め合うのも、やめるんじゃないだろうか…。

それだけじゃなくて、別れようって言われるんじゃないのか…。

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