彩られる作品【仮】

三愛 紫月 (さんあい しづき)

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シークレット作品②

【温度】⑲

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ブー、ブー

「はい」

『いっちゃん、何かあった?』

「彪伍、助けて」

『どうしたの?迎えにいくよ』

「俺、また…。ごめん、忘れて」

『いっちゃん、逃げよう』

「彪伍」

『近くまで行くから、何も持ってなくていいから…。とりあえず、逃げよう』

「彪伍」

『メッセージで、住所送って!すぐ、行くから』

「ありがとう」

彪伍と電話を切って、一輝は服を着る。

昨日と同じ服だ。

音を立てないように、ゆっくりと家を出た。

スマホからメッセージを彪伍に送った。

一輝は、フラフラしながらも歩く。

「いっちゃん、大丈夫?」

近くの公園で、彪伍が待っていた。

「彪伍」

「いっちゃん、行こう」

そう言って、手を繋がられた。

悪意も欲望もない

ただ、ただ、一輝を助けてあげたいだけの気持ちを感じる。

一輝は、彪伍の手を強く握り返して泣いていた。

歩いて、歩いて、彪伍の家にやってきた。

「服、僕のでもいい?」

一輝は、ずっと泣いていた。

彪伍は、一輝の涙を拭ってくれる。

「ごめん」

「シャワー入る?湯船いれる?」

「湯船、浸かろうかな?」

「わかった!沸かすから」

一輝は、彪伍を抱き締めてしまった。

「ごめん」

「ううん、大丈夫」

彪伍を抱き締めてると、このまま彪伍の体温とこの場所を流れる温度に身を任せていたいと思った。

「彪伍、ありがとう」

「ううん」

彪伍は、一輝の髪を優しく撫でる。

「ごめん、汚(きたな)いから」

離れようとした、一輝の背中に彪伍は手を回した。

「汚(きたな)くないよ。いっちゃんは、息してるだけでいいんだよ」

そう言って、背中を擦ってくれる。

「俺、玩具のままだよ。帰ったらいたんだ。それで、何度も何度も…。愛してるって言われてさ」

「また、そんなんされたの?いっちゃんは、玩具じゃないよ。人間だよ。」
 
彪伍は、一輝をずっと抱き締めてくれていた。

画面が切り替わって花香ー

ブー、ブー

「はい」

『花ちゃん、どこにいる?』

「泉…助けて」

『迎えに行くから、近くまで』

「ううん、気にしないで」

『メッセージで住所送って、行くから…。何も持ってこなくていいから』

花香は、泉と電話を切って立ち上がった。

昨日のままの服を着た。

音を立てないように、ゆっくりと家を出る。

フラフラしながらゆっくり歩いて行く。

「花ちゃん」

ちょうど、泉が現れた。

「泉」

「行こう、逃げよう」

そう言って、泉は花香の手を引っ張っていく。

花香を助けたいだけの泉の気持ちが嬉しくてついていく。

歩いて、歩いて、花香の家に着いた。

「お風呂いれるよ」

「泉」

花香は、泉に抱きついてしまった。

「花ちゃん、大丈夫だから」

「あのね、帰ったらね。」

「うん」

「孝輔がいてね」

「うん」

「私ね、また玩具になったの。愛してるって言われてね。何度もね。だから、私汚(きたな)い。だから、やっぱり、帰る」

泉は、離れようとする花香を抱き締める。

「花ちゃんは、汚くない。それに、玩具でもない。花ちゃんは、人だよ。息してるだけでいいから…。私といようよ」

そう言って、泉は花香の背中を擦ってくる。

泉といるだけで、花香は痛みを失くせると思った。

お風呂に浸かる、一輝と花香の映像が映る。

2つに分けた画面に、二人が映る。

湯船に浸かりながら、一輝も花香も泣いていた。

二人は、同じ言葉を考えていた。

洗っても、洗っても、綺麗にならない身体。

愛してるって言われたら、単純に喜んでしまう身体。

本当は、何もかもわかっていた二人。

一年半前から気づいていた。

触(ふ)れ方が違っていた。

求められ方が違っていた。

本当は、愛してるって嘘だって気づいていた。

でも、臭いものに蓋をしながら二人は一緒に生きるのを選んだ。

だって、子供が欲しいと思う程に愛した相手だったから…。

死ぬまで生きて行こうって決めた相手だったから…。

二人は、泣きながら左手の薬指の指輪を外した。

「さよなら、孝輔」

「さよなら、桜」

さよならと口に出しただけで、涙が止まらなかった。

あんな酷い言い方をされて、酷い扱いを受けたのに、まだ愛してるなんて馬鹿みたいだと思った。

でもね、一輝も花香もわかる。

こんなに、お互いの子供が欲しいと思った相手なんて、この先見つかるはずがない。

思い合えていたなら、どんなに美しい愛だっただろうか…。

でも、違ったのだから…

もう、気持ちは失くしてしまおう。

明日、帰ったら、離婚届を持って、土下座して頼み込もう。

もう、許してもらいたい。

愛がないのなら…

この手を放して欲しい 

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