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喜与恵の視点

懐かしい思い出

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宮部さんが、帰ったのを見届けてから、私は声をかけた。

「宝珠(ほうじゅ)、お疲れ様」

「ありがとう、喜与恵(きよえ)。疲れたよ」

チュッと頬にキスをされた。

「軽いです。最近の宝珠は!」

「だって、直接そうなった仲でしょ?リバーシブルだっけ?ほら、勉強したし」

「もう、晩御飯作ります。」

私は、宝珠を叩いてキッチンに来た。

あの快楽を知ってしまったのに、待てと言われ続ける日々に、戻ってしまった。

半年間の交わりは、宝珠の記憶を戻すためだった。

能力者に戻らなくて、このまま一緒にいようと思っていた。

なのに私は、私の記憶のない事が寂しくなってしまったのだ。

礼珠さんが、鍵になり、天野神(あまのかみ)が救いだしたお陰で、宝珠は人に戻り、全てを忘れた。

私も、人に戻された。

いったんは、神社で預かっていたのだけれど、私も宝珠も能力がない為に神社から出て行く事になった。

私は、途中で嘘をついた。

「喜与恵は、私の何なのだ?」

何度も聞かれた結果。

「恋人でした。」

と嘘をついたのだ。
 
そして、私と宝珠は、糸埜(いとの)さんや美佐埜さんや三日月家の皆さんのお陰で、宝珠の家で暮らし始める事が出来た。

「喜与恵ーー。お腹すいた!」

「はいはい」

上條陸さんと伊納円香(いのうまどか)さんの紹介で、私はお掃除の仕事も始めた。

働いてる間は、三日月家の皆さんが、様子を見に来てくれていた。

幸せだった。

普通の幸せを手に入れたのだ。

でもね、酔っ払うと宝珠が泣きながら真理亜さんの名前を呼ぶのだ。

「真理亜ーー。真理亜」

暫くして我に返って、
「喜与恵、ごめん。変な事言ったね」って笑うのだ。

真理亜さんと宝珠の契約も、遥か昔から続く記憶も、知っている私としては、もうこれ以上嘘をつきたくなかった。

真理亜さんと宝珠を引き離す事も出来ないのだ。

「喜与恵、しようか?」

初めての交わりは、宝珠がニコニコと子供のように笑って言ったのだった。

宝珠とそのような関係に、なれるのはわかっていた。

でも、やっぱり違うって言われるのではないかと思った。

「どうすれば、いいのか知りません。」

「それね!満月湊(まんげつみなと)から聞いたんだよ。男同士は、そこを使うんだって。」

余計な事を言いやがって、満月の家は昔から子宝に恵まれにくいと聞いている。

満月湊は、ゲイだった。

満月百合は、レズだった。

多分、血筋を絶やさない為に三日月からまた養子をもらうのであろう。

そんな事よりも、宝珠にそれを言った事が問題なのだ。

「宝珠、明日にしましょう」

50歳にもなって、そのような場所を使うとは思っていなかったのだ。

「大丈夫、優しくするから」

能力者一族の見た目は、若いけれど体力は、年相応だ。

「怖いのです。宝珠」

ビジョンでは、私が宝珠にしている立場だったのに、現実は逆だ。

「リバーシブルって言ってね。どっちもやるのがいいって、湊が教えてくれたんだよ。」

もう一つ余計な事を教えた満月湊に怒りを覚えた。

「もう少しだけ、時間が欲しいです。」

「だったら、イチャイチャしよう」

一緒に住んで、三ヶ月目の出来事に私は酷く困惑していた。

「宝珠、その触(さわ)ってはみたいです。」

「じゃあ、今日は触(さわ)りあいっこしようか?」

「はい。私から先に…」

「わかった」

宝珠のにずっと触(ふ)れたかった。

こんな事は、二度と出来ないと思っていた。

私は、宝珠のに触(ふ)れる。

涙が込み上げてくる。

「喜与恵、泣かないで」

宝珠は、私の頬の涙を拭う。

40年間、ただ、宝珠を愛していた。

そんな、愛する人のそれに触(ふ)れられる事がこんなにも嬉しい事だと知らなかった。

「涙がとまらないね。喜与恵」

「すみません。」

「いいよ。拭ってあげるから」

宝珠が、私が触(ふ)れていて膨らんでくる事が嬉しい。

愛しい。

「ずっと、宝珠だけを見てきたのです。ずっと、こうする事を夢に見てきたのです。」

「嬉しいよ、喜与恵」

宝珠は、私に優しく笑いかける。

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