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喜与恵の視点

初めて…と今…

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涙がとまらなくて、止められなくて…。

「食べてみてもいいですか?」

宝珠(ほうじゅ)は、ビックリした目を私に向ける。

「今日は、触(さわ)るだけにしよう。」

宝珠も恐れているのがわかった。

「はい、勿論ですよ。」

私は、宝珠の目を見つめて頷いた。

「ぁぁっ、喜与恵」

「気持ちいいですか?」

「うん」

宝珠は、私を見つめてくれる。

「喜与恵、私もやってあげるよ」

そう言われて、宝珠に触(さわ)られるだけで身体中が熱を持ち出す。

「私の目を見て、喜与恵」

「はい」

照れながらも、宝珠の目を見る。

そんな風に、不器用に手探りで、私と宝珠は愛し合った。

「喜与恵、よかったよ」

「私もです。宝珠」

好きな人との初めてが、こんなに嬉しいものだとは思いませんでした。

それからは、もう私と宝珠は猿みたいでした。

しかし、身体は歳には勝てません。

一日中、家にいる宝珠と働きだした私とでは体力が違いすぎます。

求められて、こたえる方に変わりました。

リバーシブルの意味がわかりました。

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「喜与恵、どうしたの?何か、考え事?」

「二人で過ごした日々を思い出していただけだよ。」

「もう、喜与恵と同じ家に住めないんだよね!神社から引っ越したら?また、家にくる?」

「行くわけありません」

「どうして?」

「わかってるくせに、聞かないで下さい」

「ごめん。意地悪しちゃったね」

キャラが変わりすぎて戸惑う。

もっと、三日月宝珠はお堅い人だと思っていた。

なのに、記憶を失った三日月宝珠は、お堅い人ではなかった。

そして、記憶を取り戻してからも私にはお堅い人ではなくなったのだ。

「喜与恵、怒ってるの?」

「別に、怒ってません。」

「あっ!!わかった。宮部さんと話してたからヤキモチ妬いたんでしょう?」

「それは、ありません。」

「どうして?」

「宮部さんは、宝珠を好きじゃないですから…。」

「最初からわかってた?」

宝珠は、寂しそうに目を伏せた。

「光珠(こうじゅ)さんの事ですか?」

「見せてもらったから、二人の事」

「そうでしたか…。」

「安心だった。光珠なら、許せた!任せられると思った」

「その通りでしたね」

私は、ニコッと笑った。

「それでも、私ならよかったのにと思った瞬間はあったんだよ。」

「そうですよね。」

「でもね、見た時に気づいたんだよ!あー。私といるより宮部さんは幸せだってね。宮部さんをあんな風に笑わせてあげられるのは、光珠だからだね」

「分身みたい。私は、幼き頃からそう見えていた。宝珠と光珠は、二人で一つみたいだと…。」

「私も気づいていたよ。大きくなった光珠が、私を宝珠と呼び慕った時から気づいていた。この子は、私の分身のような子だと…。能力が、強くなっていくにつれてさらにそう思った。」

宝珠は、私を自分の腕の中に引き寄せた。

「喜与恵、だからこそ、喜与恵は取られたくなかった」

「何を言ってるの?」

「あの子は、私の真似をした。だから、真理亜は会わせなかった。そしたら、真理亜に似た幽体を見つけてきた。だから、喜与恵だけは取られたくなかった。でも、喜与恵はあの子になびかなかった。幼いあの子に嫉妬するなんて、私は馬鹿だったんだよ。」

「宝珠…。」

「宮部さんを、諦めると決めた瞬間から喜与恵は失いたくないと思った。私は、嫉妬深い人間だ。喜与恵を誰にも渡したくない。喜与恵も、そう思ったのだろう?」

私は、目を合わせないようにした。

「ちゃんと、自分の口で言ってごらん。」

「私も、宝珠を渡したくない。」

ボロボロと涙が、流れ落ちてくる。

「よく、言えたね。」

私の髪を撫でてくれる。

「掃除の仕事は、もうすぐ終わりだろう?」

「はい。こちらにもどってくるので」

「そのまま、人として生きればよかったのではなかったか?何故、記憶を戻したのだ?」

宝珠は、私の目をジッと見つめる。


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