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人形師

見えています。

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「柊真琴さんは、宝珠君の愛する人でしたか…。」

「見えるのですね?」

「はい、文字が浮かんでいるので!彼女との子供を望んだのですね。彼女も同じだった。」

その言葉に、私は目を伏せた。

「柊真琴さん、そっくりな人に23歳の時に出会った。」

その言葉に、喜与恵は驚いて私を見つめている。

「誰にも言っていない事でしたか、すみません。やめましょう」

「いいんです。続けて下さい」

私は、喜与恵の手を握りしめる。

「彼女と結婚し、子供が欲しいと思った。彼女も了承をした。どうしても、既成事実を作らなければならない仕事を彼女がしていた。丸一年間したけれど、彼女は妊娠しなかった。彼女は、検査にいこうと話した。けれど、宝珠君は自分が原因だとわかっていた。罵倒され、罵り合いを繰り返して別れたのですね。」

「はい」

「彼女は、別の人と付き合って3ヶ月で妊娠した。」

「はい」

「宝珠君は、苦しんだ。死ぬ事も考えた。」

喜与恵は、私の手を握りしめた。

「自分なら、上手く出来ると思った。師匠とは、違って。きちんと子育てが出来る気がした。」

私は、ゐ空さんの言葉に涙が流れてくる。

「でも、子を授ける能力を持ち合わせていなかった。絶望した。上手く出来なかった事に、酷く絶望した。それからは、完全に望みを断ち切る生き方をした。それでも、時々子供が欲しい気持ちと欲しくない気持ちが波のように襲っては消えいった。」

「その通りです。」

私は、ゐ空さんにそう言った。

「宝珠君、人間は本能のせいで苦しめられるんだね。思考を持ち、鈍感になっていってるのに、そこだけは動物のままだ。だから、苦しめられる。役に立たないのに、何故するのか、したくなるのか…。抗えない本能に身を委ねながら、君はいつもそう思っていたね。」

「はい」

ゐ空さんは、私の中を全部見ていた。

「幽体の中で果て、喜与恵君との行為をして、残る感情はいつも空しさだ。キスだけの時より、それは酷く暗い。自分は、誰も幸せに出来ないように思えてくる。さっさとこんな人生を終わらせたくなる。皆が手にして入る家族をもちたかったあの頃が甦ってきて苦しめられる。それでも、身体が反応をする。」

「その通りです。」

私の中の鍵のかかった部屋をゐ空さんは、簡単に開けた。

いつもなら、ブロックして見せないようにしているのに…。

ゐ空さんの能力には、ブロックは意味をなさなかった。

私は、涙がとめられない。

「宝珠君の周りにある文字を読んだだけだよ。でもね、宝珠君。喜与恵君も同じ事を思っているんだよ。」

「えっ?」

私は、喜与恵を見つめる。

「男だけど、喜与恵君は宝珠君と家族を持って幸せになれる夢を見ている。叶わない願いに苦しめられる。身体を重ねた一瞬の幸せよりも、終わった後の、身体に絶望する。二人にとっての、それは苦しみと絶望。ならば、必要なのだろうか?人形とすれば、諦められるのかな?そもそも、何故…。そこまで、苦しんでいるのにしようとするのだ。」

ゐ空さんは、私達二人を見た。

「お互いを愛しているからだね」

そう言って、笑った。

「ゆっくり、話し合いをしたらどうかな?答えが、どっちになっても私は尊重するから」

「あの、宮部さんと光珠の事も全てわかってるんですね?」

ゐ空さんは、頷いた。

「戻ってきたら、光珠君と二人で話をするよ。私は、彼に伝えたい事がある。」

「そうですか」

「あぁ。そうだ!二人にこれをあげるよ。」

ゐ空さんは、棚から何かを持ってきた。

「これ、可愛いね」

掌にスッポリ収まる赤ちゃんの人形を2体渡された。

「二人の子供にしてあげてくれないかな?」

「いいんですか?」

「あぁ、お金持ちの子供が欲しいと言って造ったんだけどね。出来た瞬間に、いらない。可愛くないと言われてね。小さいから、お喋りできないしね。動くよ。でも、たいした事は出来ないんだ。それなら、車の玩具の方がマシだと言われてね。」

ゐ空さんが、トントンと小さな赤ちゃん人形を叩くと目をパチリと開けた。


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