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喜与恵と宝珠の視点

ジッとしろ

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宮部さんが、いなくなってから光珠がソワソワしている。

「ジッとしろよ!気が散る」

「わかってるよ。わかってる」

右に左に、動いてる。

麗奈ちゃん以来の、本気の恋に堕ちたのがわかる。

「甘い飲み物飲んだら、落ち着きますよ」

雅さんに、コーヒーを差し出された。

「あまっ!!!」

「ハハハ、雅は甘いのが大好きだから、砂糖水でしょ?」

モカさんが、笑っていた。

「あんな、光珠さん。初めてみたな!」

「そうか!私は、久しぶりだ。」

麗奈ちゃんが、妊娠して出血した時もあんなんだった。

病院で、右に左に動いていた。

結果的に、大丈夫な出血だった事でホッとしていた。

あの頃を見ているようで、少しホッとしていた。

もう、光珠の心を揺さぶる人は現れないと思っていたから…。

宮部さんが、もどってきて皆に送られて帰った。

家に着いた私に、喜与恵が話す。

「本当は、渡したくなかったんでしょ?」

「誰を?」

「希海ちゃんの事だよ。」

「あー。もう、すんだことだよ」

「私を成木さんに売り渡そうとしたくせに!!」

「ぶぅたれないの!喜与恵」

私は、喜与恵の頬を両手でつねった。

「宝珠は、だいたいズルいんだよ。私の気持ちを知ってるくせに、そうやっていろんな人に色目を使って!私を成木さんに渡そうとしたり」

私は、ビールを取り出す。

喜与恵は、ずっとついてくる。

「そういうところが、いけないんだよ。宝珠は、優しいから!人に勘違いをさせるし。そういうところが、よくないんだよ!成木さんとだって、キスした相手で」

「うるさい」

「んんっ」

「喜与恵は、うるさい。」

「そんな事したら、私が喜ぶと思って。」

「喜んでるよ!」

私は、喜与恵を抱き締める。

「もう、宝珠はズルい!」

「そこが、好きなくせに」

「もう…」

喜与恵は、私の胸に顔を埋めながら怒っている。

よかった。あの方の血を多量に飲めば、誰にも触(ふ)れられなかった。

私は、喜与恵をギュッと抱き締める。

「息苦しい。」

「ごめん」

「そうじゃない。病院で、働くのもうしんどかった。」

「赤ちゃん?」

「うん。沢山見るんだ。産婦人科あるから…。辛くて、辛くて、堪らなくて、耐えられなかった。息苦しい。」

「上條さんには、話たの?」

「うん。聞いてくれたよ。私の気持ちもわかってくれて…。だけど、苦しかったの。ずっと、苦しいの。赤ちゃん、欲しい」

「明日、会う人は喜与恵の気持ちがわかるよ」

「成木さん?」

私は、喜与恵の顔を覗き込んだ。

「成木さんじゃないよ。喜与恵は、嫌がるかもしれないけど。」

「それって、誰?」

「明日には、わかるよ。」

「私も飲みます。」

喜与恵は、私からビールを奪った。

「なんだよ、喜与恵」

「やめて、もう」

「一緒に居るときは、息苦しくない?」

私は、後ろから喜与恵を抱き締める。

「息苦しくないよ。」

「赤ちゃんが、欲しいから。私との性行為をしたくなくなったんだね。」

「もう、やめて!」

喜与恵は、私を叩いた。

「喜与恵、ちゃんと話そう」

「いいです!」

私は、冷蔵庫からビールを取り出して喜与恵の隣に座った。

「喜与恵、女の子だったとしても私が無理だったよ。」

「わかってる。わかってるから!」

喜与恵は、むくれながらビールを飲んでる。

「喜与恵、ごめんね。」

「謝らないで」

「喜与恵は、私じゃなかったらいいお父さんになれた。」

「宝珠以外の人間との子供なんていらない。」

「喜与恵、私を好きにさせてごめん」

「謝らないで!嫌だ。謝られたくない」

「わかった。」

私は、喜与恵を引き寄せて抱き締める。

「愛してる?」

「愛してるよ」

「不安なの、宝珠。不安で堪らないの」

「愛してるよ。喜与恵」

私は、喜与恵を抱き締める。

安心出来ないのも、子供を望んでるのも知っている。

口だけじゃ足りないんだよね。

喜与恵…。

「宝珠、私を愛していて。ずっと…。」

「ヤキモチ妬きだね」

私が、後ろから抱き締める腕を喜与恵はギュッと掴んだ。

「嫌い?」

「好き、ヤキモチ妬かれるの好き」

「宝珠」

「好きだよ、喜与恵。大好き」

「明日になったら、息苦しさはマシになる?」

「なるよ!絶対になる。」

「本当に?」

「本当になる」

喜与恵は、私の首に腕を絡ませる。

私は、喜与恵を誰にも渡したくない。

それだけは、信じてよ。
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