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珠理と希海の視点

普通ではない…

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「それでも、うちもわかるねん。彼の気持ち。体だけでも繋がっときたい気持ち。それでも、やったらアカン事やん!うちが好きなんやったら、彼女と一緒にならんかったらよかったやん。そんなに、子供がおらなアカンの?子供が、おらんかったら人生は幸せではないん?」

宮部さんは、うちの手を握って首を横に振ってくれてる。

「希海ちゃんって、呼んでいい?」

「はい」

「希海ちゃん、今、うちとおるん息しやすいやろ?」

「はい」

「うちもやからわかるで!皆、わかってくれんもんな!命や命やゆうて、責められたやろ?」

「はい」

「責められたないよな!欲しくないもんは、欲しくないんやもんな。」

「はい」

うちは、宮部さんの頭を撫でる。

「どうして、私や珠理さんは、悪者にされるのかな?授かれない人の気持ちを考えなさいと母親に言われた。私達のような存在は、生きていく価値はありませんか?」

「さっきも、ゆうたやん!うちらは、本能に抗ってるんやって!それに、命ってわかってるんやで!でも、うちらみたいな選択をとる人間を世の中は容赦せんよ!不倫や殺人と同じや!お腹の命を傷つけるような人間を許してくれんよ。産まれてこないでって思う、うちらの痛みなんてわかってもらえへんよ。」

宮部さんは、ボロボロ泣いてる。

「私、悲しくなかったんです。お腹の命がいなくなっても、駄目になっても…。何でって言われても、答えられない。」

「わかるよ!うちも悲しなかったもん。むしろ、嬉しかったんやもん。だから、あいつにゆわれた。珠理は、悲しないんか。何で、そんな風に笑えるんやって…。」

「珠理さん、わかります。」

「ありがとう。うちも希海ちゃんの気持ちわかるよ。むっちゃ、わかる。うちは、あいつにゆわれた。俺が死んだって珠理は悲しくないんちゃうんかって、そんなわけないやん。うちは、あいつが死んだら悲しいし。お婆ちゃんが、死んだ時も泣いた。豊澄がいなくなった時かて、この胸が引き裂かれた。赤ちゃんを亡くした事を悲しまへんかったうちは、誰の命も悲しまへんような最低な人間に思われてるんかな」

「珠理さん…」

宮部さんは、うちの手を握りしめてくれる。

「体を交換できるならしてあげたい。喜与恵君とかわってあげたい。喜与恵君なら、幸せにする。赤ちゃんが出来たら、あの妊婦さんみたいにニコニコしてお腹を撫でたはずだよ。それが、出来る人に子供が授かればいいと思ってる。だから、交換してあげたい。」

「うちかて、湊と体をかえてあげたい。湊なら、幸せにしてあげれる。子供を大切にしてあげれる。うちなんかと違って、愛を注いであげられるんがわかる。何で、神様はこんな酷い事しかせんのやろうね。」

宮部さんと一緒に泣いてしまう。

「珠理さん、どうしようも出来ない事が世の中にはあるんですね。それでも、歩み寄れたら違ったのでしょうか?」

「歩み寄られへんよ。精神病んでたんやない?うち、湊の妹が入院してる場所で幽体と話した事あんねん。うちと同じ種類の人間で、入院させられて薬いっぱい飲ませられて、産んだんやって!むっちゃ怖くて毎日死にたかったって!それを薬で抑えつけられとったらしいねん。」

「それで?」

「自殺したってゆってたわ。退院して家帰ったらおるやん!気ぃ狂ったってゆってた。だから、うちに産まんでよかったねって笑ってたわ。お腹の中で、別の生命体が生きてる事の気色悪さは誰にも理解されんかったって。可愛くないって、ゆったら旦那さんに酷い事ゆうたアカンってゆわれたって!周りに説得されて、子供を産む道を選んだけど…。産まんかったら、自殺してなかったってゆってたわ!」

「そんな…」

「病院では、鬱病って診断されたらしいよ。ほんなら、うちもそうやねって幽体にゆうたら!病気やなかったって事でしょ?って、聞かれたから…。うちは、頷いた。その幽体は、妙に納得しとったで!自分は、赤ちゃん見ても一度も可愛いって思った事なかったって!誰の子も、自分の子も…。」

「どうしても、好きになれないものがあるって事ですよね。それを病気にされるのですね。」

「世の中の人は、子孫繁栄が本能に組み込まれてるから。うちらみたいな人間は、特殊なんやで。だから、しゃーないんよ。」

「普通とか当たり前にはずれてるんですよね」

「そやな!それでも、そこにははいれんのやから」

うちは、宮部さんの頭を撫でる。

その枠に、入れない自分でどれだけ苦しんだのだろうか?

うちと同じなんやな。

苦しめられたんやな。辛かったんやな。

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