桜の季節に失くした恋と…【仮】

三愛 紫月 (さんあい しづき)

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それぞれの結末

美鶴と上條

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伊納いのうの事、ありがとうございます。」

「いえ、別に俺は何もしてませんよ。」

「手紙、読んだんですよね?伊納」

「うん、そうだね」

「なんか、前より幸せそうでホッとしました。」

「そう、見えるならよかった」

美鶴みつるさんも、ですよ。何か、吹っ切れました少し」

そう言って俺は、伊納と凌平を見ていた。

「そうかもね。なんか、気づいたら円香を愛してたのに気づいたんだ。もちろん、美花が一番なのは変わらない。だけど、想い出にしていこうって、やっと思えた」

「やっぱり、肌を重ねてると違うんですかね」

「そっか、まだ上條君は浜井君としてなかったんだね」

「はい、やっぱりするべきかな。凌平は、いいって言ったんですよ。でも、何か結斗をまだ忘れたくなくて」

美鶴さんと俺は、お酒をクーラーボックスに冷やしていっていた。

「それは、忘れる事になってしまうのかな?」

「ならないですか?」

「少なくとも俺は、美花を今でも手繰り寄せられる。人間は、同じ形の人なんかいないよ。」

「でも、俺が使うのはそっちじゃないし」

「口だって使うだろ?」

美鶴さんは、笑っていた。

「確かに、そうですよね」

「それに、そっちだって、皆同じじゃないよ」

「そうですよね」

俺は、頭を掻いて笑った。

「五木君とは、どれだけしたの?」

「一ヶ月するかしないかですね」

「そこからは、誰とも?」

「はい、一度もないです。」

「それは、怖いね。俺でも、怖いよ。俺は、美花を失くして円香とそうなったのは15年後だった。それでも、怖かったから…。上條君は、その倍だろ?怖すぎるよね」

「そうですよね。俺、怖いんだと思います。だって、凌平の倍ですから」

「でも、浜井君だって相当怖いと思うよ。実際、俺と円香もそうなった日はお互いに泣いたから」

美鶴さんは、そう言って伊納を見つめていた。

「やっぱり、怖かったんですね」

「ああ、最近まで、ずっとお互いのパートナーの名前を呼んでいたよ。目を瞑って抱かれてるのは、抱いてるのは、その人だって思っていたかったのかもしれないね」

「そうですよね」

「何、落ち込んでるの。怖いのは、同じなんだから…。怖いって言えばいいと思うよ。」

美鶴さんは、俺の肩を叩いてくれた。

「結斗を失くしてから、初めてだったんです。こんなに、また誰かと居たいって思ったの。冴草さんが、入院して一週間ぐらいしたあたりから俺は、凌平に惹かれ始めたんです。勿論、冴草さんが目覚めるって信じてたから気持ちは隠し通すって決めてたんですよ」

「うん」

「でも、お葬式での凌平の姿を見たら…。我慢できなくなって。結局、初七日に告白なんかしに行って。それから毎日通って、今があるんです。だから、怖いんだと思います。」

「違ったらって、意味?」

「それは、お互いにですね」

「確かに、俺もお店のお客さんに聞いた事あるよ。付き合って一年後にしたら、体の相性悪かったから別れたって。サイズが小さかったらしい」

美鶴さんは、笑っていた。

「そういうの、怖いですよね」

「俺は、それは体の関係に重きを置いてる人の発言に思ったんだけどね」

「違うんですか?」

「違うでしょ?だって、その一年間何してたのって話じゃないのかな?そんな事で嫌いになってしまうぐらい相手に魅力がなかったのかな?そうじゃなくて、そもそも別れたかっただけじゃないのかな?その為の言い訳の一つにしか俺には感じなかった。上條君、俺は、円香がご飯を食べてくれるだけで多幸感に包まれるんだよ。しなくたって、気持ちいいんだ。そんなのない?」

美鶴さんの言葉に俺は、笑って頷いた。

「俺もあります。凌平をすっぽりこの腕に包み込むだけで、気持ちいいんですよ。何もしていなくても、身体中を快感が走るんです。」

「それが、多幸感だよ。それが、あるなら体の関係なんて俺には無意味に思えるんだけどね。それでも、相手が先を望んでるなら進むべきじゃないかな?怖いのは、浜井君も同じだと思うから」

「そうですよね。頑張ってみます。俺も少しは、先に進んでみます。」

美鶴さんは、笑って頷いてくれた。

「本当に伊納の相手が、美鶴さんでよかったです。伊納は、この先もあのおまじないに縛られて生きていくんじゃないかって思っていたから…。」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。俺は、おまじないのせいじゃないと思ってるよ。大人になっていく円香に必要とされなくなる人生は嫌だったんじゃないのかな?」

「通過する恋ってやつですか?」

「そうだね。誰しもが、そうでしょ?学生時代と同じ人とずっと一緒にいる人なんてどれだけいる?成長する過程の恋を繰り返して、結婚するんだよね。蝶がサナギからかえるみたいにさ。」

「そうですよね。あの人は、その一つになりたくなかったんですね」

「人の気持ちは移ろいやすいってよく言うでしょ」

そう言って、美鶴さんは笑った。

「じゃあ、そろそろ円香達の所に行ってくるよ」

「はい」

美鶴さんは、コンロの方に向かって行った。


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