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結末なら知っている

里依紗の話②

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「最後に見た人がね」

「うん」

「素っぴんでボサボサヘアで、必死に走ってく子供を赤ちゃんを抱いて追っかけてたの」

「うん」

「結婚した時はね、私も必死だったし欲しかったから憧れてた。かっこいいと思ってた」

「うん」

「でも、二年目にそれを見た時。色褪せていた。カッコ悪くてダサいと思った。髪ぐらいとかせばいいのに、子供の手ぐらい握っておきなよ!なりたくないって思った」

「里依紗」

「あんなに、汚い母親になりたくないって思っちゃったんだ」

私は、涙が止まらなくて…。

譲は、手を握りしめてくれていた。

「もちろん、みんなじゃないよ。だけど、私は、必死だったから…。そっちなんじゃないかな?って!未来の私がいたんだよ!そこに…」

「里依紗、子供に縛られて生きるのはやめよう。もう、自分を苦しめないで」

「譲」

「治療すれば、里依紗はもっと自分を追い込む。それだけ、真面目な性格なのを俺は知ってる。だから、俺は治療をしようとは言わなかった。だって、里依紗は頑張ってしまう人だってわかってるから…。俺ね、色んな人のsnsみたよ!里依紗と別れてから暇で」

「うん」

譲は、そう言って私の手を擦ってくれてる。

「幸せそうに治療してる人もいたけど、追い詰められていってる人も見た」

「うん」

「俺、里依紗はそっちだって思ったんだ。治療したら追い詰められてく、期待して期待して駄目だった時…。里依紗は、どうなるのかなって思ったんだ」

「譲」

「昔、二人で見た映画の主人公が言ってただろ?」

「覚えてるよ」

私と譲は、一緒に口に出していた。

『切望すればする程、君が死んだ後の絶望に耐えられなかった』

懐かしくて笑ってしまった。

「俺は、里依紗もそれだと思った。あの主人公は、彼女が死んでいく病気で、生きて欲しいと毎日願ってて、最後は死んでしまった。その絶望は計り知れなくて、最後まで一筋も希望がない終わり方だったよね」

「でも、譲はそれを見て人生みたいだって言ったよね!誰かの人生そのものだって…。希望なんて見つけられない時があるって」

「そうだね。だから、俺は里依紗に治療はして欲しくない。絶望色に染まって欲しくない。だって、みんなが授かれるわけじゃないだろ?」

「そうね。従姉妹は、無理だったわ」

「みんなが、必ず勝てるゲームなら俺は勝負するよ」

「ゲームじゃないわよ」

「例えばだよ!勝てる勝負ならするべきだよ。でも、負けるかもしれない可能性があるなら俺はしない。臆病者だから…」

譲は、そう言って泣いていた。
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