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結末なら知っている

亮の話④

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譲には、不妊の事も友人への苛立ちも何でも話せた。

「もしも、治療してたら、こんな日が手に入るって思ってた?亮は?」

「嫌、無理だったと思う」

「俺達夫婦、変に真面目だもんな」

「そうだな!」

「追い詰められてただろうね」

「うん」

「それに、もし治療して出会ってたら、亮と葉月ちゃんとここまで仲良くなってなかったよ」

「そうだよな!」

譲は、ケーキを口に運んだ。

「旅行も行けてないよな!」

「そうだね」

長期休みには、俺達は二泊三日旅行に行っていた。

「大人になって、親友が出来るって思ってなかったよ」

「俺もだよ」

俺達四人は、親友になったんだ。

同じ痛みや苦しみを感じた関係だった。

「ネットでね」

「うん」

「治療してるもの同士が争ってるのを見たんだ」

「里依紗ちゃんと離婚してから?」

「そう!私はいくら使ってるからとか、タイミング療法は不妊治療じゃないとか、顕微鏡じゃない人は話しかけないでとか、二人目不妊は話しかけないでとか…」

「うん」

「それ、読んでたら悲しくなっちゃったんだ。俺」

「何か、わかる」

俺は、そう言って頷いていた。

「里依紗の気持ちを分かりたくて読んだのにさ。何か、ダークサイドに引き込まれた気がしたんだ」

「うん」

「この中でも、仲良くなれないんだから、子供がいる人と子供がいない人は仲良くなれるわけないって思ったんだ」

「うん」

「いくら使ったから凄いとかじゃないと思ったし、一人目不妊も二人目不妊も同じ気持ちだと思った。辛さや悲しさは、みんな同じなのに…。どうして、傷つけ合うのかな?って」

「うん」

「だから、俺。亮と葉月ちゃん夫婦に出会って驚いたんだ」

「何で?」

「俺達の話を全部聞いて!二人は、辛かったねって言ってくれただけだったから…」

そう言って、譲は笑っていた。

「人間って、傷つけ合うように出来てるのかもな」

「亮のその極端な考え方、俺は好きだよ」

「だって、そうだろ?誰かより、少しでも優位にいたいんだよ!いたくないって言うやつがいたら、俺は偽善者だと思うよ!誰かと比べて、上に立ちたい。だから、叩き合うんだと思う」

「そうかも知れないね」

「だけどさ、案外。そいつが、一番の親友になるかも知れないのにな!」

「確かにね」

「でも、俺だって今はこんなだけど!昔は、子供がいる連中大嫌いだったわけだから!その譲が見た、ネットの書き込みと変わらないよ」

「俺だって同じだよ!だけどさ、同じ悩み同士なら、せめて優しくしたいじゃない」

「まあ、それは綺麗事ってやつだな」

俺は、そう言って譲に笑った。

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