上 下
20 / 59
彼女の話2ー2

現実……

しおりを挟む
「ち……」

目を開けると、カチカチの床で寝ていた。

「葵、お腹すいたわ」

気色悪い男がいた!

千秋じゃない。

こっちが、現実だと言うの?

「わかった」

私は、起き上がって服を整える。キッチンに行って、冷蔵庫からブラウン液につけている鶏肉を取る。小麦粉をつけながら、剥げたフライパンに油を流し入れて揚げていく。

この家は、嫌い。

千秋と住んでいる時、私はよく絶望と切望を繰り返していた。ここ最近は、切望を繰り返していた。その結果、やってきたのが田辺葵の家だった。

私は、唐揚げを揚げてるのを見つめていた。あの家に帰りたい。千秋と住んでいた場所は、普通だったのだと今になって気づいた。
ご飯は、さっきの残りがあるから炊かなくていいか!

母乳を売って、娘を売って、この生活をどれだけ続ければいいの?

バットもないから、大きめのお皿にキッチンペーパーをひいて唐揚げをそこに並べていく。この唐揚げも、娘が稼いだお金なんだと思うと苦しくなる。

お野菜は、ほとんど買えなくて…。仕方ないから、玉ねぎの味噌汁を作った。
いつもなら、三つの野菜を入れてお味噌汁を作っていた。千秋との生活にもどりたい。

「お待たせ」

そのまま、唐揚げを出した。ご飯と味噌汁も渡す。

『いただきます』

そう言ったのは、寝惚けながら起きてきた雪那ちゃんだけだった。

ビールをプシュッと開けて当たり前のように唐揚げを食べている。この男は、「いただきます」さえも言わない最低な男だ!

お金を稼ぐ事もせずに、親の責任も果たさずに…。最低最悪な男だ!

「ママ、唐揚げ美味しい」

「よかった」

眠い目を擦りながら、雪那ちゃんは言ってくれる。

「麦茶、持ってくるね」

「うん」

冷蔵庫から、麦茶を取ってプラスチックのコップに入れてあげる。

「別の奴と結婚した方がよかったって思ってんのか?」

「何の話」

そうですと言いたい気持ちをグッと堪えていた。

「フッ!!お前みたいな売春婦もらってくれる奴いねーよ!」

そう言って、嬉しそうに笑っている。

「お前の両親が特にヤバいしな!」

そう言いながら、クチャクチャと唐揚げを食べる。
汚くて気持ち悪い男だ!

ただ、膝が悪いだけで働きもしないなんて!何ていう男なの…。

「ママ、食べて」

雪那ちゃんは、私の手を叩いて言った。

「うん!」

私は、唐揚げを口に含んだ。懐かしい味付け!千秋が作ってくれる唐揚げの味。

「美味しいね」

「うん」

私は、千秋を見つけたい!
千秋ともう一度人生をやり直したい。
そう思いながら、唐揚げを飲み込んだ。
しおりを挟む

処理中です...