桜髪の乙女は元兄上様、魔女で絶対な悪役令嬢へと堕落す。弟を奪うために

書くこと大好きな水銀党員

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悪役令嬢になる前の兄上

もてあそばれる兄上

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 エルヴィスは実の母親と一緒に商店へと足を運ぶ。道外れのお店に顔を出すと店員の女性が落ち着いたの表情で笑みを向けた。紫のドレスを着た女性がエルヴィスの母に深々と頭を下げる。

「大店長。こんにちわ」

「こんにちわ。フィン店長。今日はお客で着たわ……この子の衣装にとね。最近、頑張ってるらしいじゃない……組で出すこと出来ないから。褒美として買いに来たわ。私の懐でね」

「ありがとうございます」

 エルヴィスの母親上。クローディアは服屋を営んでいた。そんな大きい組織ではないがそこそこ利益をあげているとのこと。今ではクローディアの名前で店を出すだけになっており、今では店を持つこともなく。問題などの解決にいそしんでいる。

「大店長。娘さんですか?」

「ええ、可愛い娘の衣装にね」

「……」(逃げたい)

「……可愛い、まだ若々しいので羨ましいです」

「あら、これ可愛いデザイン。でも今の時期には合わないわね……。そうね、ちょっと暗い色が好きなのね」

「はい大店長、それは私の新作です。確かに今の時期は春らしい、明るい色がよろしいでしょうが……時に華やか過ぎるのも鳴りを潜め。静かな女性をと思い作って見たのです」

「……大人な女性をと言うことね」

「ええ、若い人には似合わないかもしれません」

「いいえ、これを一着。あとそれとそれを家に贈って。それと今から下着を見ます。よろしいですね?」

「お買い上げありがとうございます。どうぞ、奥に試着室がございます」

 エルヴィスは背筋が冷える。逃げようとしたがしっかりと母親に手を握られていたため、振りほどこうとする。

 しかし、母親の手は離れず鋭い眼光を向けた。

「エルヴィス。ヒナトへのお小遣い。そして……二人ともあの別宅に住むことを許しているのよ? わかってるよね?」

「母上……」

「そんな子猫みたいに震えないの……大丈夫。私がしっかりとおめかしを教えてあげるから」

「何故これ程までに俺は苦行を……」

「ヒナトのためよ」

「なら、仕方ないのか……俺も男です。腹を決めましょう」

「なに言ってるの女でしょ?」

「……」

 エルヴィスは大きなため息を吐き、育ちつつある胸を張った。

「容姿は変われど、中身は変わってはおりませぬ。母上」

「……ふふふっ!! エルヴィス……どこまで強情になれるかしら?」






 昼どき、黒服にスカート、赤いヒールを履き。レースの手袋。羽織など大人しいがよくみるとしっかりとした手芸の服に身をつつんだエルヴィスの目は虚ろに虚空を見ていた。

 お店にあった衣装をそのまま着ての外出。そして、恥ずかしいと思う心は壊れていく。心の痛みは次第に薄まる。何度も何度も血を出しても傷が塞がるように。

「クローディア様。メニューはこちらです」

 飲食店の店主が笑顔でメニューを用意する。それをクローディアは受け取り愛娘に差し出す。

「エルヴィス……何が食べたい?」

 満面の笑みで。楽しそうに差し出しそれに険悪な表情をエルヴィスは向ける。

「母上……楽しそうですね。そこまで俺を辱しめて楽しいのですか?」

「娘と一緒に衣装を選ぶこと。お昼を一緒に取ることの何がつまらないと言うのかしらね? 忙しいからね……いつも。たまにはいいじゃない。あとここは小麦粉がメインよ。米はないわ」

「……はぁ」

 エルヴィスは首を振って諦めた雰囲気でメニューを手にして口を一文字にし、じっくりと考えたあとに1つ2つ頼む。

「ハムのホットサンドにローズティー。食後にタルト2つ。あとお持ち帰りでタルト6つ用意してください」

「私も同じものでいいわ。ただタルトは1つね」

「かしこまりました」

 店主がメニューをエルヴィスから受け取り下がる。その気品と大人しさに好印象を持つ。若く綺麗な少女と。

「エルヴィス。あなた……いえ。何でもないわ」

「……タルトは家で晩御飯の後に食べるのです」

「そう」(ふーん、ヒナトの目もそう悪くないのね)

「母上? 何か?」

「いいえ、生まれもった物なのね。気にしないわ……お仕事ばっかりしててごめんなさいね」

「気にしてませんよ。ヒナトと一緒でしたので寂しさはございませんでした。稼いでくれる分、幸せな時間を過ごせている事を理解してます。ありがとうございます」

「母上に対してこの前のように砕けてもいいのですよ」

「くそったれ母上。よくも……」

「タルト抜きね?」

「だから、砕けた言い方出来ないんですよ?」

「ふふ、ふふ……」

 クローディアは口元を隠して笑い。エルヴィスは苦笑いをする。良くも悪くもそんな関係である。

「そうね。そう……仮面被ってるのね」

「ええ、被るのは良いことです。大人に都合のいい子であれば優しくしてもらえますから」

「本当にあなたは私に似たわね。いいえ、あの人かしら? まぁいいわ……そんなことよりもそろそろ知りたいでしょうね。細かな事情を」

「事情……この状況なら。ヒナトの仕業でしょう」

「ええ、そうね。提案はヒナト、実行もヒナト。黙認私達。理由は簡単、私の娘と……ヒナトちゃんへの償いかな」

「償い? 償いですか? ヒナトの母親を落とした事なら気にすることもないでしょう」

「いいえ、違うけど。あなたは忘れてるのかしら?」

「……忘れてませんが。心を入れ替えたのは知ってます母上」

「……う~ん。本当に子供っぽくない言い回しね。まぁ、でも……覚えているなら、1つヒナトのためを思っての事よ」

「ヒナトに甘い……母上、それではヒナトのためになりませんよ」

「あなたがそれを言う?」

「甘いだけではだめです。時に厳しくするのも大切です」

「ヒナトの事になるとそう熱くなるのね。いつも」

「……大切な弟ですから」

 エルヴィスは口を閉じ店員を見つめた。ちょうど紅茶が先に出てきたのを勘づいたのだ。

「大切な弟。私にも、夫にも大切な子よ。まぁヴェニス家の跡取りはあなたになるけどね」

「……えっ? 本当ですか?」

「女店主のがいいでしょ? あの人に女性向けを運営させられないわ」

「それもそうですよね。店長の中からとかでは?」

「……女ってプライド高いのよ。跡取り争いは男よりも激しい。特に男が絡んでると尚更」

「はぁ、軽率な考えでした。すいません母上……結局娘が欲しかったと言うことですね」

「そうよ。婚約者を選んでも良かったわ。今になって娘が必要になった。あなたが父親の稼業を継ごうとしたのを見てね」

「父親はお怒りには?」

「浮気の子供、ヒナトにそんな怒れる? 私にも」

「……」

 エルヴィスは理解する。家庭内の順位に……母上、父親、ヒナト、自分と言うことを。しかし、エルヴィスは悲観することはなかった。何故なら養子と言う立場のヒナトが実の子である自分よりも上に来ている事で口元を緩ませる。そこまで来れたのだと。

「……なるほどです。母上の意見もわかりました。学園にもお金を出す理由だけお伺いしましょう。俺は未熟ですか?」

「いいえ、働けるでしょう。でもね縁は大事、作ってきなさいそこそこ使える縁を」

「そうですね。商売してきます」

「ふふ、期待してるわ。私の跡取りに」

「お客様、ホットサンドです」

 納得するエルヴィスは店員が持ってきたホットサンドをナイフとフォークで丁寧に食べ、頬に手を置いて喋らず楽しみ。優雅に午後を過ごすのだった。

「このあと学校へいくわよ」

「……!?」

「ヒナトちゃんに見せに行くわよ」

 エルヴィスは優雅に午後を過ごせなくなった。

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