桜髪の乙女は元兄上様、魔女で絶対な悪役令嬢へと堕落す。弟を奪うために

書くこと大好きな水銀党員

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悪役令嬢になる前の兄上

二人の休日

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「兄上、デートがしたいです」

「却下、まだ寝惚けているな。朝からぶっ叩かれたいか? 熱々のホットサンドメーカーがあるぞ」

「どうぞ。ぶっ叩いてください。差し出す頬を変えるだけです」

「……俺が折れるまでやるつもりなのか。デートは婚約者としな」

「いませんよ。あと……訓練なら、よろしいと思いませんか?」

 早朝、ホットサンドメーカーを使いトーストを挟んで火の魔法を使い焼く薄着のエルヴィスが呆れながらもしっかりとヒナトの話を聞く。

「休みなのだろう? 体を休め……勉強も1時間ぐらいにしてほどほどに」

「……ご褒美が欲しいところです。そうだ……母上のお店へ行くのはどうでしょうか? 兄上の社会勉強にいいでしょ」

「あとは実戦のみ。飛び込んで学ぶさ」

「ウェイトレス?」

パン

 エルヴィスが頭を優しく叩く。

「兄上、店員の気持ちを知ってこそでしょうに……」

「あんな恥ずかしい服は嫌だが? 俺は……いや、そうか!! その手が!!」

「兄上?」

「ああ、なんでもない。ちょっと思い付いただけだ。そうなんだ……俺は俺なんだよ。ヒナト」

「……何も思い付かないです」

「いいんだ。ほれ、ささっと朝食を食べな」

 エルヴィスはホットサンドを皿に盛り付ける。そのまま紅茶を入れ、ヒナトの目の前に用意する。ヒナトは手を合わせ神に祈ったあとに口にする。

「美味しいです」

「そうだろ。ごはんもいいが……パンもまた良いものだ」

「……」

 ヒナトはごはんを食べながらいつもいつも。エルヴィスの料理できる腕の原因が自分であることを思い出す。最初は食べられない物だったが一瞬で上達したのだ。

 そんな過去の事を思いだしながら、ヒナトは朝食を平らげる。

「なにニヤニヤ食べてるんだ? ヒナト」

「いいえ、兄上。美味しゅうございます」

「そっか、美味しいか。しっかりと食べなさい」

(本当に……甘い人だ)

 ヒナトはその優しい声にいつも癒されていた。性別が変われど変わらない兄上に元気つけられる。

「……デート諦めます」

「ん? 許可もしてない」

「そうですね。では、ごちそうさまでした」

 ヒナトは立ち上がり、剣を握る。

「どうした?」

「日課と魔法を少々練習です。兄上も一緒にお願いしたい。魔法が理解が難しくて」

「……しょうがないな。1時間だけだぞ。休日は休むためにある」

「はい」

 真面目な声のヒナトにはエルヴィスは怒らず。そのままエプロンを置き、縛った長い髪を解く。桜色の髪が靡き、ヒナトの目線を釘つける。

「どうした? 俺の髪が長いのは昔からだろ? 切る時期を失ったな」

「……はい。そうですね。もう切らなくてもよろしいのでは?」

「切って欲しくないのだろう?」

「……」

「なら、切る理由もないな。ほら、ちゃちゃっと済ませるぞ」

(結局二人っきり許容してくれるんですよね)

 ヒナトは口を押さえて視線変えるがエルヴィスは全く気にせず。そのまま、ブーツに履き替え外に出るのだった。





 ヴェニス家のお庭。鉄板が立てられた場所に二人は立つ。魔法で少ししか錆びない鉄柱が何本も立ち全てに傷がついており長い訓練の日々が詰まっていた。

「……スカートで出て来てしまった。ズボン買うの忘れた」

「外でてから言うんですね。それ」

「午後買い物行く。思い付いた事をそのまま実行するのに時間がかかるからこのままで耐える」

「何を思い付いたのやら……あっ兄上兄上!!」

「なんだ?」

「これです。思い出しません?」

「眼に映らない」プイッ

 一本の鉄柱にヒナトが立ち、横に一と何本も傷がついた物を指差す。エルヴィスはため息を吐きそれに近付く。一の後に数字が書かれておりそれが名前と日付であることが二人にはわかっていた。

 その日付と名前はいつもエルヴィスのが先に来ていたが……いつかヒナトが上回り。ずっとヒナトが上へと上がっていく。

「兄上……どうですか?」

「……見えないと言っただろうが!!」ゲシ

「悔しいからと足踏まないでください。身長延びてませんか?」

「……延びてるな。2cmぐらいな」

 エルヴィスは護身用のナイフで刃こぼれを気にせずに傷をつけ、名前と日付を書き込む。

「兄上もどうぞ。あとナイフは刃こぼれをします」

「鈍器だからいい。俺はいい……変わらないさ」

「そんなこと、やってみないとわからないでしょう」

「まぁ変わらんだろう……ほれ」

 エルヴィスが鉄柱に近付く。するとヒナトはナイフを借りて傷をつける。

「あ、兄上……」

「やめろ。悲しくなる」

「し、身長のびてます」

「……は?」

「これです」

 エルヴィスは驚きながら傷を見る。すると3cmぐらい伸びており。目を見開く。

「気付かなかった!! 伸びてる!! 何故!?」

「えっと……この前測ったのが数ヶ月前……兄上。女になって身長伸びだしてませんか?」

「……悲しいこと言うな。男のままでも伸びた」

「……何年同じとこに印をしました?」

「さぁ、訓練をしよう」

 エルヴィスはナイフを返して貰い腰につけ直し首を振る。それに可愛いなぁとヒナトは思いながら背中へついていく。

「魔法だったか?」

「ええ、昨日。魔法でセシルに大負けしたのです」

「同じ戦場で戦うからだ。魔法は相手の得意分野だろう」

「……見てないから言えるんでしょうが。近付けなかったのです」

「ごめん……」

「いえ。ちょっとムッとしてすいません」

 ぎこちない空気が流れたのち。ヒナトはエルヴィスの手を握る。ぎこちない空気は一瞬でなくなり、いつもの緩い空気が戻ってくる。

「兄上がいないと勝てないかもしれません。一人じゃ無理です」

「……そうか。強敵なんだな」

 手を離し、エルヴィスは座り無地の紙を広げる。そして……ヒナトに問う。

「どんな魔法だったか覚えているか?」

「えっと……風を操り近付けさせない魔法で……」

 一生懸命に考えるエルヴィスに、ヒナトは大真面目に戦って見てきた事を全て語ったのだ。昔のように……戦って悩んで戦って悩んで対応策を練るのを行うために。





「出来た。たぶんこれだろう。これは風の魔法だ。押し返すぐらいの力は出ないだろう。だが、時間を稼ぐにはいいなこれ……初級魔方陣だ」

 紙に血文字で魔方陣を描いエルヴィスにヒナトはいつも尊敬をする。ヒナトは魔学に関しては非凡であり、非常に苦労して幼少は修学したのだ。だが、非凡でありながらしっかりとした知識はあり。紙の上の魔方陣の意味を知ることが出来た。

「流石、兄上……こんな感じの魔方陣です」

「なら、セシル君は初級魔法に力で大きくしただけだな。天才以上に生まれ持った魔法放出力だ。これが炎の魔法なら、都市の外では焼け野原にできるかな?」

「恐ろしいことを……」

「ふふ、安心するがいい。風を動かすだけ。炎はもっと小さくなる。まぁそれよりこれを使うから……押し返せる方法を考えな」

「はい」

 エルヴィスは魔方陣を頭に叩き込み。庭の端に立ち、手を振りかざす。

「では、行くぞ。ヒナト……そよ風程度かもな。俺では……」

「はい!!」

 そして、スカートを翻し、髪を靡かせて魔力を放つ。昔ながらの方法で……すると突風が吹き、透明な風が集まりヒナトを押し返そうとする瞬間。

 ゴバァン!!

 ヒナトが吹き飛び転がる。

「あぐっ!?」

「ひ、ヒナト」

 慌てて、ヒナトの元へ行くエルヴィスにヒナトはすぐに立ち上がり。驚いた表情でエルヴィスを見た。

「兄上……」

「大丈夫か!? すまん……加減を誤った……」

「兄上、加減を誤ったのですか?」

「加減を……おかしい。こんな、加減を間違えるなんて」

「兄上……変わった事ありますか? 前と」

「体が変わった……いや。ちょっと待ってくれ」

 エルヴィスはスッと手をかざし風を操る。暴風のように荒れ狂う風からそよ風のような風。そして強風へと戻す。その時になってエルヴィスは自分の手を見た。

「魔法……使いが上達してる。いや、放出量が段違いに上がってる。こんな……事が」

「兄上……」

「ヒナト……いや。そんな不満そうな顔をするな。安心しろ……大丈夫」

「もうちょっと風を強く。スカートの中、見えません」

「よし。大丈夫そうだな……一発ぶん殴るぞ」

「はは、大丈夫です。兄上、すごいじゃないですか……セシルと同じくらいですね」

 エルヴィスは手をニギニギした後にヒナトに言い渡す。

「……他言無用な。ヒナト」

「どうしてですか?」

「魔法使いのスカウトはお断りだ」

「わかりました。兄上……では、もう一度。今度も全力でお願いします」

「わかった。無理するなよ」

「……無理する目的見つけたので頑張ります」

 訓練は再開される。知らず知らず魔法の力が強まったエルヴィスによって。そして、ヒナトは目的を果たす事になる。





ギュウ

 風を越えて飛び付きヒナトはエルヴィスを抱き締めた。ヒナトの鼻腔に花の匂いが優しく撫でる。

「兄上、到達しました」

「よくやったと言いたいが。抱きつくな」

「ご褒美です」

「……もう……一人前で大きいのだからくっつくのやめろ。午後一緒に出掛けてやるからそれでいいだろ?」

「……」

「ああもう。よくやったよくやった……だから離れなさい!!」

「はい!! 兄上!!」

「たくぅ。何歳なってもお前のそこは変わらんな……婚約者が出来てもそんな事をしてたら嫌われるぞ」

「……変わらないですよ。ずっと」

「……んん。よくやった手前強く怒れない……ぶつことも出来んし。とにかくやめなさい」

「兄上は本当に甘いですね」

「つねることはできる」

「あたたたた」

 ヒナトは痛みに耐えながらも笑顔でお仕置きされるのだった。

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