27 / 71
変わる関係、終わりの鐘
不登校の兄上
しおりを挟むその日、私は気だるげに起きた。髪はボサボサで……ただ無気力に朝日を浴び。そして……何もせずにいた。
使用人もいない。私が全てやっていたのだが……それも億劫になっている。
「はぁ……情けない。情けないですね」
そう、漏らし……弟がいなくなって一週間。本当に何もしてこなかった。とうとう学校へも行かず。何もかもどうでもよくなる。そう、ヒナトが登校を始めたのだ。
あの、『聖女』と言われる女性の従者として。
「はぁ……」
あれを見たときの勝ち誇った『聖女』の笑みとヒナトの無表情は何とも言えない気分になった。隣で歩いているのが私でないと言うのが胸に深く深く押し込んだ。
「はは……なんでしょうかね」
腕で目を隠し、自問自答する。何とも言えない感情が酷く私を苛む。感じてはいけない、考えてはいけない。それは遥かに紳士的ではなく。汚れているような感じであり、兄としては許せるものではなかった。
そう、私は……弟を失ってから。感情が不安定なのだ。学校へいけないほどに。
トントン
「ん? 誰かしら……屋敷の使用人かしら?」
母上、父上が心配で寄越した使用人かもしれないと思い髪を解かさずにそのままドアを開ける。すると……赤い髪できつめな表情の女性が立っていた。制服姿のその人は私を見るなり驚いた表情をする。
「エルヴィス!? まぁ、あのエルヴィスがこんな姿に」
「バーディス嬢……おはよう」
「おはよう!! 本当に元気無くなったのね!!」
「ええ……この前のがどうも引っ掛かって」
「そうよねぇ~『聖女』と一緒じゃねぇ~」
立ち話も何だかと言うことで部屋に入れ、椅子に私たちは座る。朝食は食べてきたらしく私は用意するのが億劫でそのまま話をする。
「バーディスは学校では?」
「そうよ、あなたと一緒に登校するか一緒にサボりましょう」
「いいんですか?」
「……いいんですよ。私の家も自由が効きますわ」
「……ありがとう。人恋しかったから」
「そうよねぇ~。そうそう、クラインからあなたに面倒をお願い言われてるしね」
「ヒナトから?」
「今はクラインよ。この前にね。あなたの近況を聞いてきたわ。まぁ落ち込みがすごいと言うと変に嬉しがってたので頬をぶってやったわ」
「……」
「あと、セシルとハルトも気になりつつ落ち込んでいたわね。クラインに対してのこの状況を」
「すいません」
二人には申し訳なくなる。せっかく、婚約しようといっていただいたのに全く関わっていないし、今の姿は不衛生で二人には吊り合わない。
「私に謝らないでよ」
「すいません……」
「……はぁ。あの自信満々だったエルヴィスがこんなになるなんてね。本当にクラインのこと好きね」
「……好きとかではないです。家族を失ったんです」
「失ってないでしょ。別に会えるでしょうに……避けてるのはあなたのように見えます」
「……」
ぐうの音も出ない。今は……何故か怖い。
「怖いんです。色々……」
「怖いのは私もよ。あの女は今、令嬢達を色んな方法で取り込んでいるわ。仲間が増えて、大きい学校の勢力になりつつある。色んな令嬢がヘコヘコ頭を下げているわ。神童として」
「神に愛された子……」
「ええ、知識も魔法も立派……私もあの子に頭を下げないといけないのかしらね。なんか目の敵にされて、他の令嬢にも目の敵になってるけどさぁ……聞けばセシルとハルトとも仲良くしたいんだそうですし、私じゃなくエルヴィスなのにねぇ~」
悪役令嬢と言われており、印象が悪い。結局、バーディスは学校に居場所が無くなりつつあるらしい。そんな愚痴を全て私は受け止める。
「何が『聖女』なんでしょうね。強欲女じゃない……セシルにもハルトにも近づいているし、見え見えなのよね」
「ふふ、セシルさんもハルトさんもモテるから」
「まぁ、でも……気をつけてね。エルヴィス」
「はい、バーディスさんもね」
私は少しだけ気が楽になった。色々と話が出来て少し、足にも力が生まれたようだ。
「……そろそろ。おいとまして家に帰るわ。ごはん食べなさいよね」
「はい……食べます。それで……もっと悩もうと思います」
「悩む?」
「……はい。私の胸に黒い感情があるんです。失ったからこそ大きくなって……懺悔したい」
「剣の教会に懺悔室があるわよ。学校で顔出したあとに行ってみるといいわ。私よりも崇高な方が聞いてくださるかもしれません。私には無用ですけどね。ふふふ」
「はい、考えておきます。ありがとう……バーディス」
私はそう言いながら……自分の心に目を向ける元気を取り戻して外行きの服に着替え。彼女と一緒に店を回ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる