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極悪令嬢に堕ちる
片目と傷面の令嬢、秘密主義の商人
しおりを挟む私は最近、大人しくしていた。学園内で別室を用意をしてもらい。監視の元で清く正しく令嬢ぽく振る舞っていた。だた、高圧的な令嬢のように威を放っているわけではないのに個室で一人。ボーっとする。
「平和ねぇ」
そう、何もなく平和であった。妹たちは私に従うが個人主義でもあり。個々が自由に学園を謳歌しており。時に利己的に。時に利他的に。『魔女の夜』であることを忘れずにいれば自由にしてもいいとしている。聖女のようにたくさん連れ回るのは威を必要とする場面のみ。毎日では疲れてしまう。私も妹たちも。
トントン!!
「はい、居ますよ」
「姉貴入ります」
「エルヴィス姉上。お久しぶり」
戸を叩き、入って来たのは傷面のメグルと片目を金の刺繍、呪文が描かれた眼帯を着けたロナだった。仲のいい親友となった二人が遊びに来たのだろう。
「エルヴィス姉貴。大変です」
「……遊びに来たわけじゃないのね」
「エルヴィス姉上にはお遊びでしょう。ふふふ」
「……」
私のイメージは一人歩きをし、今では悪魔となっている。満月の夜に血を啜るなど言われており恐れらていた。それは吸血鬼でしょうと言うツッコミはあるが。悪であるには変わりはない。
「なに?」
「ロナから……ロナ」
「ええ、私がこの前まで元居た学園に帰り、信用の出来る者を選別し、アウルムライトの名に置いてこの学園に今帰りました」
「めでたいことじゃない。おかえり」
「ただいまです。姉上」
「……それはいいことでは?」
「姉上、続きがあるんです。実は『聖女』のバックにシルバーライト家が入り。シルバーライトの令嬢……それも訓練された令嬢です。私のように」
「ふーん」
「……姉上への対抗としてと思いますわ。私が姉上と契りを交わした結果。姉上に権力を持ってしまうことを恐れています」
「全く。姉貴にビビって面倒事を」
「それでそれで……あなたたちはどうしたい?」
「シルバーライトは宿敵。アウルムライト家としては権力として後塵でしたが逆転をし、権力を少し奪いたいと思います。ええ、エルヴィス姉上を利用して……お願いをします。護衛」
「わかった。かわいいかわいい妹だもの。メグル!! あなたに彼女と協力をお願いします。責任は私が取ろう」
「はい、姉貴。この剣に誓って」
私はメグルとロナに任せる。信じて待つしか今の私には行えない故に。
「バーディスやルビアちゃんにも声をかけなさい。抜け駆けは怒られるわ。今度はここが戦場になるようね」
「はい、わかりました姉貴。ロナ行こう」
「ええ、ありがとうございますわ。姉上」
「なぁに。私には見ているだけ。責任を取りに頭を下げに行くだけよ」
「……そんなことさせませんわ。アウルムライト家として」
「ああ、姉貴に恥はかかせません」
「ふふ、期待するわ」
そう言いながら二人は去り。私は大きくため息を吐く。
「……うーん。うーん」
偉そうな事を言って返したが。遊んで行かないかと言えば良かったと後悔する。というよりも……
「打倒『聖女』となってるけど。私の目的って……ヒナトを奪う事なのよねぇ……」
私は今の噂の『聖女』に哀れみを抱く。余裕がある私は……余裕があるために可哀想な子と見下す。ズル賢い臭いがするため。
「……そういえば聖女とはなんなのか。詳しく知りませんね。久しぶりに呼んでみましょうか……彼を」
私は魔石を取り出し、それに魔力を流して相手を呼びつけた。そう、アントニオ商会の会長を。
*
「お呼びいただきありがとうございます。エルヴィスお嬢様」
「アントニオさん、お忙しい中でありがとう。その席にどうぞ」
私は紅茶を出し、机に置く。アントニオはそれを受け取り啜り、くつろぐ。
「お仕事はどうですか?」
「ぼちぼちです。エルヴィスお嬢様の商品の売り上げも上々でございます」
「それは良かった。いい杖でしょ」
「ええ、安く頑丈で。魔法の触媒としては微妙ですが殴れるのがいいですね」
「まぁ、低位魔法使い向けですし。ですので高級の魔樹ではなく鋼を使ってます。呪文も刻む言葉も擦れにくく。折れませんしね」
私は飾られている試作品を眺めてコンセプトを思い出す。古い魔法使いにはすこぶる不評だが。新米魔法使いには喜んで貰えている。
「古い人や、投資など、お嬢様のような資金潤沢な商人の魔法使いは居ませんでしたしね。嫌われてるでしょう」
「商人の癖に、新参者の癖にと言われます。慣れております」
「なるほど……でっ、私をお呼びした理由はなんでしょうか?」
「金貨一枚で情報を売って」
「金貨一枚ですか。情報を売ったあとで見積りします。いいですね?」
「……いいわよ」
私はケチることは出来なかった。仕方なく、質問をする。
「『聖女』ってなに? 詳しく聞こうと思ってね」
「知っておられるかと思いますが?」
「……噂が正しいかを知りたい。癒し手として非常に素晴らしいと聞きます」
「癒し手と言うよりは新たに生み出す者であると言えると思います。欠損した肉体を治す事が出来るのです」
私は顎に手をやる。そして……心辺りのある魔法名を溢す。
「創造?」
「近い物でございます。完全にと言うよりは欠損を治す力です。教会の中で一番であり、その魔法は誰よりも上です」
「……ふーん。力はあるんですね。やっぱり……押し上げるための戯れ言じゃないのね」
「何度もお疑いしてますね。お嬢様」
「ええ……何度も確認する」
納得したくないのだろう私は。
「逆にお嬢様もおかしい力をお持ちです。その悪魔の紋章は」
「……そういえば私は私の事を知らないわね。アントニオさん。あの本はなんなの? そして……あの本は消えてしまったわ」
アントニオから貰った本はいつの間にか私の手から消えており。鍵のついた箱の中で燃え尽きていた。
「それをお答えするには金貨足りなくなりますよ? 私はエルヴィスお嬢様がそれを聞くにはまだ若いと思います」
「……どれぐらい所望? そしてアントニオさん。あなたは何者?」
「………お嬢様。私はただの『聖女』と同じ運命の者でございます。紅茶美味しゅうございました」
「あっ答えなさい!!」
「見積り出すその日に説明いたします。お嬢様」
アントニオは席を立ち、そのまま部屋を出ていく。私は『もう』とため息を吐いて。腕の紋章を見つめる。
ハートのような紋章を私は見続け。本の内容を思い出す。そう、空想の冒険物語を思い出し違和感を感じるのだ。
「もしかして……実話?」
私は……恐ろしいヒントを得たような気がし、立ち上がり。『老人会』が所有する図書館へ向うのだった。
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