7 / 54
王子(一人姫)のトラウマ
しおりを挟む「にしても……母上は本当に強烈でしたね」
「今もですね。熊を素手で引きちぎるとは……驚きです」
「それ、噂ではなくて?」
「ウリエル兄ちゃんは知ってるよね?」
「あれは剣で喉から刺し込み、頭の眉間にも刺した。二つの剣を使った戦いは子供ながらに勇気が出るものでした」
「………噂ではなかったのね」
「懐かしいわ~本当に~」
ロイドの膝上に座りながら頷くミェースチ。彼女は笑顔でロイドの喉元を刺す動作をする。
「眉間と喉をさせば死ぬわよ、どんな生き物。シュルティエも」
「にしても……ウリエルお兄様は何故、トラウマにならなかったのですか? 怖かったでしょう?」
「怖かったですがもっと怖いのを体験しています。皆さんもでしょ?」
「トラウマ……なにかあったかな?」
「トラウマねぇ~」
「俺はある。一つ母親のあれ、二つガブ兄さんの死。3つガブ姉のあれ」
「ミカエルちん……あなた……」
「姉さん。悲しんでも絶対に慰めない」
「嬉しい!! 二つも私なんて!!」
「……………」
((末っ子……諦めろ))
ウリエルとラファエルは末っ子にアイコンタクトをして諦めろと訴える。ミカエルは……悲痛な顔で舌を噛んだ。
「トラウマ……私ねぇ……お母さんは~もちろん」
「母上、ご存知です」
「ウリエルに同じく」
「お母様。大丈夫知ってる」
「お母さん。知ってるから話さなくていいよ」
「………すん」
珍しくショボくれる母親に4人の心は一緒になる。どうせ、皆の前で悪事をバラされたときの事だろう。みんなはわかっていた。父のロイドも静かに頷く。
「くっ……この屈辱も寂しさも全て……」
「全く関係ないがな!! ミェースチ!!」
「……そう?」
「……にしても。ミカエルのトラウマが母上か。僕もですね」
「ウリエル兄ちゃんも?」
「いえ……私もよ」
「ウリエルと同じくガブリエル……君もか……もしかして……あれか?」
4人は染々と思い出す。トラウマになったあの事件を。
*
来年、入学を控えたウリエルが9才のとき。二つ下で7才のラファエル。6才のガブリエルに5才のミカエルが呼び出された。幼いながらもしっかりと教育されたウリエルが3人を連れて来たのは寝室である。
そこには父上がおり、皆が不安そうな顔で怖面の父上を見る中。母上が皆に笑顔で語る。
「父上が謝りたいそうよ。復讐出来るチャンスよ」
「えっ!?」
ウリエルは母の声に背筋が冷える。
「………すまんかった」
父上の一声に4人は不思議がる。いったい何がどうなのかと。
「お前らの母を殺させたにはワシだ……恨んでいるだろう」
そう……父上が殺したことを地面に伏して謝り出したのだ。あの、皇帝が頭を下げる事に子供ながらわかる訳もなく。ウリエル以外は全く理解が出来なかった。
ウリエルは……震える目で母上。ミェースチを見ると避けそうな程の笑みを浮かべている。鬼がいるとウリエルは思った。
「さぁ……どうする? あなたたちの母親を殺した奴よ。どうする? ミカエルは……違うけどね」
「……うぅうううう」
ミカエルが分からず泣きそうになるのをガブリエルが抱き締める。1才しかかわらないのに泣くのを我慢してミカエルを守ろうとする。ウリエルは……ボーとし、ラファエルが手を握った事で我に帰った。
「まぁ……いいわ。復讐とは……こうするの!! 代わりに見せてあげる。これが復讐よ」
ゲシッ!!
「ごは!!」
母親が父上を蹴り、何度も何度も踏み潰す。容赦なく……何度も何度も踏み潰す。その行為に4人は震え上がった。
優しかった母親の姿はなく……ただただ。父上を苛める姿に涙が流れる。怖い……怖いと。だが……隣で大泣きしている3人を見てウリエルは唇を噛んだ。
「……お母さん……やめて!!」
ラファエルの手を離し……母親の前に躍り出て父上を庇うように手を広げた。
「げほげほ……ウリエル!?」
父上は口を切ったのか血を出しながら名前を呼んだ。
「父上……僕は……僕は……母親を知らないんです……でもでも……今……お母様が大好きで……そんなお母さまが……僕の代わりに怒るのは……嫌です。優しいお母さまに戻って……皆。お母さんが大好きです!! だから……だから……」
「………ウリエル。あなたは許せるの?」
「はい……優しいお母さんに戻ってくれるなら……」
ミェースチはそれを見て頭を押さえ……ため息を吐く。
「わかった……大人ね……ごめん。少し一人にさせて」
そう言い。ミェースチは部屋を出た。残された3人は無き。ウリエルの背中に大きい手が肩を掴んだ。
「ウリエル……許してくれるのか?」
「……僕は子供でわからないです。でも……お母さんが元に戻るなら。許します」
「う、うおぉぉぉ……」
ウリエルは父親に抱き締められ。ガブリエルとミカエル、ラファエルも同じように兄にくっついた。
ウリエルは泣きべそをかきながらも最後まで我慢したのだった。
*
「ウリエルはその時から兄だった。誰よりも素晴らしい兄だった……ぐす」
「そうだったわ。ウリエル兄さまが居たからね……うぅうぅ」
「ウリエル兄ちゃん。ありがとう……本当に……」
「………え、ええ……君達泣くのですか?」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!! うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!」
「あなた……うるさい」
ロイドが鼻水を垂らしながら号泣し、3人も啜り泣く。気まずいミェースチとウリエルは目線を合わせ。少し笑い合う。
「母上は……何故あそこまで徹底的に?」
「母親を殺されてる悔しさを代弁したつもり。殺すつもりだったわ。私なら殺す。だから……意外で……すぐには納得出来なかった」
「ははは……やはり母上ですね。ですが……復讐だけでは何も生みませんよ。確かにいけない事ですが飲み込む事でうまく行くこともあります。それに……父上はしっかりと罪を意識し十字架を一生背負う事を決めたのです。それでいいのです。罪を悔いる父上のその苦悩もわかってます」
「……私より大人ね。絶対に忘れられないわ」
「母上のお陰です。母上の復讐心は少し醜く見えています。あとは……母上が本当に実母のように大きい存在でしたからね。ミカエルが実母であることが羨ましい程に……だから、あのときはそんな母を見るのが嫌だった」
「そう……嬉しい。でも、実母よ」
「説明の流れです。私の母上はミェースチ・バルバロッサただ一人です」
「…………おかしいわね。何ででしょう。歳を取ったせいで。涙腺が緩いわ」
「ははは……母上。お願いですから泣かないのが僕だけはやめてください。収支がつかないです」
「あんな……根暗く。全く元気がなくて……小さかったに……ここまで大きくなって。うぅぅ」
「…………いつの話ですか?」
ウリエルは下唇を噛んだ。頼りにされるのは嬉しい。しかし、感動したかったのは僕だと思い。泣き出す家族を一人一人宥める仕事に従事しようと決める。
(くぅ……泣きそびれた感が拭えない)
ウリエルは先ず始めにラファエルを宥めるのだった。
1
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢となって復讐をっ!
杏仁豆腐
恋愛
公爵家の娘でありながら庶民の出身だった母の子として生まれたわたくしを蔑んできた令嬢たちに復讐するお話。
不定期更新となります。色々と見苦しい文章が続きますが暖かく見守ってくれると嬉しいです。感想お待ちしております。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
悪役令嬢の逆襲
すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る!
前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。
素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
婚約破棄を宣告した王子は慌てる?~公爵令嬢マリアの思惑~
岡暁舟
恋愛
第一王子ポワソンから不意に婚約破棄を宣告されることになった公爵令嬢のマリア。でも、彼女はなにも心配していなかった。ポワソンの本当の狙いはマリアの属するランドン家を破滅させることだった。
王家に成り代わって社会を牛耳っているランドン家を潰す……でも、マリアはただでは転ばなかった。
婚約破棄?悪役令嬢の復讐は爆速で。
ハチワレ
恋愛
「リリム・フォン・アスタロト! 貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの最中、婚約者である王太子エリオットから身に覚えのない罪を突きつけられた公爵令嬢リリム。隣には「真実の愛」を語るマシュマロ系男爵令嬢シャーリーの姿。
普通の令嬢なら泣き崩れる場面――だが、リリムは違った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる