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嘘つきは泥棒(初恋)の始まり⑪

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 学校でよくつるむ友人。タカナシ・ヒメから連絡があり、午後に遊びに行くことになった。学校は短縮授業。「それでいいのか学校?」と思うのだが。勉強の根本、学校の目的を知ると私は納得出来た。ようは「社会勉強」である。

「ヒメちゃん、こんにちは。この前は大丈夫だった?」

「うん、こんにちは、ヒムちゃんこそ大丈夫だった?」

「一応、大丈夫。ただ、もう住めないかな」

「だよね……安心できないもんね」

 綺麗なロングヘアーの清楚なヒメちゃんと私は駅前で待ち合わせして、そのままチョコレートクロワッサンがおいしい店内でくつろぐ。そこで私はwifiを繋げて株価チェックを行う。

「ヒムちゃん……株価見てるの?」

「うん、値動きから『事件なんかあるかなぁー』って」

「本当に不思議ちゃんだね」

「これが私だからね。それよりも吹奏楽はいいの? 授業ないなら部活は全力だよね」

「うん、大丈夫。辞めて来ちゃった」

「えええええ!? どうして」

「ピアノの勉強始めたの。先生雇ってね」

「えっ……ええ?」

「ヒムちゃんの演奏聴いてね。感動しちゃったの。だからさ、もう一度、もう一度。『夢を追いかけよう』と思う」 

「そうなんだ。嬉しい、本当に嬉しい」

 私は「忘れられたピアノの神様」がしっかりと残っている気がして嬉しくなる。

「だから、ヒムちゃんも一緒に目指さない? ライバルとして、もう一度挑戦したい。私さ……実はヒムちゃんの才能を妬んでたんだ。『私の才能じゃない』とかさ、謙遜がむかつくほどに」

「ごめん……本当にごめん」

 昔の私は悪かった。とにかく心が読めなかった。

「いいの。それよりも……私は嫉妬心を持って挑むつもり。だからさ、お願いできない?」

「私は……」

 自分の太くなった指を見る。非常に太く繊細な動きが出来る指を見ながら……唇を一文字にする。

「努力する。負ける負けないとかの次元ではないけどね。音楽を楽しみたいから。彼氏との時間のが大切だから。ヒメは違うんでしょ?」

「うん、どんな感じになるかわからないけど。でも、『いい演奏ができる』と思う。それとさぁ……彼氏って……もしかして?」

「そう、付き合ってる」

「本当に!? いついつ!?」

 タカナシが目を輝かせて聞いてくる。満面の笑みで玩具を手に入れたみたいな無邪気さが怖い。

「この前に……告白してね」

「そうなんだ。相手はもちろん?」

「想像通り、今……家の近くが爆発したから。居候してる。本当に怖いね」

「ああ、あの事件……大変だったね」

 事件があったのに、世の中は回っている。事件であった声明なんて雑音にしかなっていない。そして、それでも怪人は恐れられている。

「うん、付き合ってて良かった。ホテル暮らしになるところだったよ。一軒家で一人暮らし、いい物件だね。優良物件」

「そんな言い方……どっちから?」

「私から、私が胸の内をね」

「……付き合ってるってどんな感じ?」

「それはね……そう。ちょっと行ってみよう」

「何処へ?」

「楽器売り場、新居に買おうと思ってね」

 私はカフェオレを飲み干し、立ち上がりヒメの手を取る。そのまま、楽器展示も行ってる店に向かい。前調べした購入予定の電子ピアノを視聴させて貰う。彼女がピアノを習い直してくれる事も嬉しいので一曲プレゼントする。

「行くよ」

「久しぶりに生演奏だね」

「そうだね。行くよ、あなたの声を聞かせて」

 私はピアノの声を聞く。メーカーの努力が伝わる。いい声を出させたい努力が叩く鍵盤から伝わる。良いものだからこそ私は惚れ込む。

「本当に嫉妬する」

「……うん」

 ピアノを歌わせて、店に声を響かせる。この子のポテンシャルを出させてあげ、周りに人が集まり出してヒメに肩を叩かれた。気づいたときには10分以上時間が過ぎていた。

「やりすぎ」

「ごめん……この子凄く素直に歌うから……」

「最近、抽象的な表現するのブームなの?」

「ブーム、ピアノなんて変わらないと思ってた。でも、素材、作り方、努力。それを買ったお客様のすべて物語を内包してる一人の者だよ。調べたらさ、そう思ったんだ」

「敵わないなぁ……」

「その彼女を代わりに歌わせて貰えばいいよ。私にはその感情は偽物だから」

「それにしても……いい金額だね。ピアノ」

「うん、頑張ってる金額と思うよ。買えない訳じゃないからね」

「ねぇ、不思議なんだけど。どうやってそんなお金出てるの?」

「え? バイト」

「いつバイトしてるの? 私の家のバイトってそんなに高いバイトじゃないよね?」

 私は焦り出す。説明しにくい仕事内容に思い付く嘘は。

「お父さんもお母さんもいないから、支援が多いの」

「うーん、それでも凄いお金に無頓着だよね?」

「えっと……」

 私は苦笑いだけをする。言えるわけがない。人の記憶を喰って稼いでるなんて。

「よぉ、タカナシさんにヒム」

「あれ、マサキくん? どうしてここに? ヒム呼んだの?」

「呼んでない」

 マサキの顔をつまみ、偽物でない事を確認する。そのまま私は「ストーカー?」と聞くが彼は慌てて反論する。

「違う、ちょっと……店に用があって顔を出したんだ。そしたら演奏してる二人を見てさ」

「そうなんだ、なんで? 楽器を買いに来たの?」

「……俺の家にピアノないからさ。毎日毎日弾いてるだろ? だから、買おうと思ったんだ。ヒムのために」

「あ、私も買いに来たんだよ」

「だろうな。でもさ、お前……『ピアノ置いていい?』って聞いてなくね?」

「ヒムちゃん!?」

「事後承諾。だめ?」

「はぁ、いいよ。置ける場所はずっと確保してる。それがいいのか?」

「うん、店頭の奴で最後だからね。買ってから持ってきて貰う」

 ピアノから離れ、私は思い出したようにタカナシに紹介する。

「私の彼氏のマサキくんです」

「マサキです、よろしくお願いします」

「うん、知ってるぅ。マサキくん、ヘタレだったね」

 マサキに睨まれ、そのまま何を話したかを伝える。睨みは謝りになり、事実だからこそ何も言えなくなる。そして私たちは普通に話をしてマサキの家へ向かう事になる。本当に私は等身大の学生である嘘を二人につき続けるのだった。


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