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正直者は英雄(失恋)の始まり⑩
しおりを挟む付き合ってはじめての初夜。定期的に行っている報告会をする。彼女はテレビを見ながら邪魔をせずに終わるのを待っていた。報告会は非常に重い内容から軽い内容まで幅広い。漏洩の危険性もあるが、彼女は怪人検査にも引っ掛からず。先生に紹介した。交友関係を示し、「嘘偽りのない」事を示す。なお、最近は漏洩が非常に多く。透明性を大事にしているらしい。「関係者」が見える位置にいることが大事なのだ。そんな中で、俺は報告会を終わらせ彼女に近づく。
「授業もこれでいいですよね? 現状、教科書は大人が書くため。面白くない。大人が楽しむ書になっている」
彼女も察したのか話を振る。テレビでは個人動画投稿で「世界情勢」などの詳しい解説が流れる。
「偏見だぞ」
「ん、終わったんだね」
「終わった。ちょっとコンビニいってくる。ないか買ってくるけど……」
「ん、なんでいくの?」
「オヤツ買いに」
念のため、道具が必要である。
「オヤツ? あるよね? キノコ、タケノコ、コンソメ、堅あげ。飲み物もあるし、行く必要ある?」
彼女のがキッチンの情報が正確で、俺のニュアンスでは察してくれなかった。
「いや、普通のアイスほしいじゃん」
「じゃぁ……一緒に行く。一緒に歩きたい」
「えっと」
俺が買いに行くのが何か口に出せずにいた。
「手を繋ぐのもいいよね?」
「一緒に出よう」
だが、甘えてくる彼女に押し切られて一緒に行くことになる。誰だって愛嬌振り撒かれたら負けてしまうだろう。
「うん」
俺は私服に着替える。荷物も軽くに留め、財布を手に、彼女の手を引く。
夜は涼しく、空気が重く。世の中で怪人が暴れている事を考えてさせられる夜である。彼女から手を絡めて、その柔らかく小さな手にドキッとした。
「かたぁい」
「……痛いなら離していいよ」
潰してしまいそうな手だ。怪人が嫌われる理由がこれだ……この手の先を失うのだから。
「この手すきだよ。努力しないとならない。豆が潰れて何度も何度も皮膚が硬くなった手。私の手もちょっとあれだからちょうどいいよ。指太いし……」
彼女は首を振りながら手を強く、女性と思えないほど強い手で握る。俺はその手を褒め返す。
「綺麗な手だよ。小指は力強さを感じる。まぁ、『二人ともいい手だな』と言うことだ」
顔を見つめあい、彼女はニヘっと笑い、俺は「やめて、その表情、可愛くて苦しくなる」と思うのだ。
「ごめん、顔が……」
「いや、可愛かったからいいよ。何度も見せて」
だが、嫌いな訳じゃない。
「ああ、だめ。緩む」
手を離して顔の頬をムニムニする。
「そんなに俺の事を好きだと思わなかった」
「こんなに好きだと思わなかった」
「「……」」
気恥ずかしく。会話が続かない。意識してこなかったからこそ、喋れた事もある。ただ、沈黙でも心地いい。
静かなまま、コンビニつくと手を離して商品を物色する。彼女はチラチラと俺を見ながら観察し、俺の姿に首をかしげる。本当に困る。どうすればいい。
「トイレ?」
「違う……いや……その……」
俺の歯切れの悪い話し方に彼女はおでこに指を差して考え、可愛く唸る。そして、気付いたのか店を移動。一個だけ箱を掴み。悪い笑みで俺に見せてくる。「察した」が恥ずかしくないのか見せびらかしてくる。
「これ、必要?」
あまりの度胸に俺は狼狽し、頭を押さえ何を言ったら言いかを悩む。
「いや、その……」
「買わないなら、いいよ?」
「え、いや、それは……」
「公安実動部隊法律、第1条。所属部隊員は成人として扱う。また、青少年保護外とする。犯罪だね。でも、『親しい仲での関係は不問』とする。合法だね。グレーゾーンだけど『恋人の仲、または婚約者』としての証拠、発言で注意だけで終わるから……大丈夫だよ」
初めて聞いたような条文にドン引きする。何を調べてるんだ彼女。おれは直球でお返しする。
「なんか、やりたいの?」
直球。「相手に同意を求める情けない男なのでは?」とも考えてしまう。
「夢を聞いてる癖に質問返すの?」
追い込む感じが素晴らしい。目を閉じて悩み、苦しみ、男として深く欲と向き合っていた。
「一応、買っておこうね」
「うぐ、なんで余裕そうに……しかも、詳しいし」
「私は賢いのです」
一騎当千のヒーロー様の情けない姿に私は満足する。ただ、私は情けない事に帰りは手も繋げなくなってしまったが。
*
私は朝イチ、爆音で起こされる。慌てて玄関を飛び出た時、多くの人が同じようにしており煙の方向を探し、そして見つけたあとに頭を抱えた。
「私の家!?」
マンションの一角からモクモクと煙が登り、そのまま数発の爆発が起き続け、私は頭を抑え家に入り、スマホもって電話する。電話先では欠伸の声にイラッとしながら声を荒げる。
「ドラゴン、大丈夫!!」
「ふぁああああん、どうしたのよ? 声を荒げて……工事? 悲鳴? 怪人でも現れたの?」
「正解かも!! そこ爆発してる!! 逃げて!! 窓の外に避難梯子ある!!」
とにかくわからないが逃げる事が一番であり、私は叫ぶ。彼が起きてこないのも変だが、今はありがたい。
「わかったわ」
連絡を終えて、私は彼を起こしに行く。全く反応のない彼を叩き起こす。ここから見るに熟睡していた事で非常に疲れている事がわかる。だが、今は関係ない。
「ああ、その……おはよう」
「おはよう、大変だけど……落ち着いて私の話を聞いて」
「眠い」
「怪人の襲撃っぽいのが私の家で起きてる」
「……は?」
流石彼である。一瞬で顔を起こし、私をはね除けてパソコン起動とスマホの画面を操作する。そのまま、私を見たあとに情報をまとめたのか喋り出す。
「状況は不明だけど……確実に公安員を狙った襲撃なのは確実。あのマンションは非常に厳重な警備をしていたけど……公安員に安否確認と緊急メールが来てる」
「なんでそんな緊急なのに寝てたの?」
「眠りが深いんだよ……俺」
「学校どうする?」
「リモートだろうけど、それよりも……家は?」
「姉さんに連絡済み。逃げてる。君が寝てた間に終わったの。大人だから大丈夫、とにかく今はテレビで情報を集めよ」
「そうだね」
私はスマホからメッセージで「避難する」と連絡があり、ドラゴンとマインドの言葉を信じる。
二人で情報を集めると「怪人の犯行声明」と複数の「公安員」が亡くなった事が報じられる。それを見ながら私は彼に抱き締められる。
「どうしたの?」
「たまたま家に来たけどよかった」
「……そうだね」
私はその暖かさが嬉しい。しかし、逆に苦しくなる。怪人としていつかバレるその日。これが一瞬で亡くなるのだ。だからこそ、「今を大切に」と思うが。「失うのが怖い」とも思う。複雑な気持ちが周り、私は彼の手をはね除けてキスをする。
無理矢理だった。無理矢理に私からして、忘れないように刻むようにする。
「その気持ち、私も感じてる事だからね。だから絶対に『生き残って』ほしい」
「わかった。無茶苦茶しない。でも、無理かもしれない……」
「ええ、ヒーロー。本当に私だけのヒーローになってほしいのに……『それは違うよ』と言う私もいるの」
「独占欲じゃないか?」
「そう、さぁ制服着替えよ。着替えるのさ、別室じゃなくていいよね」
「それは……」
「付き合ってるんだからいいでしょ」
私の押しの強さに彼はタジタジになる。そのまま、リモートの授業が始まる中で大事件が起きても進む日常に「歪んでるなぁ」と私は思うのだった。
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