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平成最後のキス、令和最初のキス[scraiv、アルファ短編] 新着

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 時代は変わりゆく物。そして俺も変わって行った。あるきっかけから俺には奥さんが出来たのだ。挨拶や、色んな事があり一生独身だと思っていたが人生わからない物である。あの呪いの人形のお陰だろう。今も昔も。

「平成最後の日ですよ、月見里やまなしさん」

「平成最後の日ですね、月見里やまなしくん」

「……」

 俺はそっぽ向く。

「平成最後の日なのじゃ」

「そうだね!!」

「露骨じゃの!?」

 俺の嫁は変わった口調を俺の前だけ行う。非常に甘えん坊であり、愛の深さは呪ってやると言わしめるほどである彼女を特徴づける口調であり俺は安心感を得た。色々とあって俺は彼女の婿養子で結婚。名前も変わったが関係はそこまで変わっていない。

「平成最後じゃ……やりたいことをしよう」

「例えば?」

「平成最後晩餐……じゃ」

「今日の晩餐スッゴいカレーの匂いがするんだけど」

「……みよ!!」

 嫁が箱を見せびらかせる。黄金に輝くパッケージを満面の笑みで見せびらかせる。その可愛い動作に口を押さえる。にやけ面は不細工だろうから。

「35種類のスパイス&ハーブと厳選された原料の絶妙なバランスが織りなす“黄金の香り”。◯スビー!! ◯ールデンカレー!!」

「おお……ってお前が好きな料理じゃないか。しかし、流石か、ゴールデンウィークにかけてそのルーを買ったんだろう。洒落てる」

「………うん!!」

「ごめん。深読みした。そこまで考えてないな」

「……うん!!」

 畜生、俺の奥さん若いから余計に可愛く思う。

「まぁ、最後の晩餐はカレーに決まりました事をここに発表します。お米はなんと!! 絶滅危惧種ササニシキです!!」

「……ササニシキ?」

「えっ知らないの?」

「知らない」

「冷害で色々あった米だよ」

「……すまん。平成男児だから」

「平成だよ!!」

「まて!! 何年だ!!」

「……平成5年ぐらい?」

「まて、お前生まれてさえいないし俺はカブトムシ取ってる時代だぞ!!」

「知ってて当然でしょ!?」

「知らんかったわ!! お前……密林で買ったな」

「もちろん。美味しいらしいよ。飽きないお米」

「ふーん、まぁわかった。お前のカレーに対する熱い力を感じたよ。平成最後に」

「私もだけど……平成最後に美味しい晩御飯食べて欲しいって思っただけなんじゃ……じゃ」

「ああああああああああ」

 俺は可愛い嫁を抱き締める。悶える。

「くっそやろう!!」

「抱き締められた罵声を受けたのじゃが!?」

「たまらんのじゃぁい」

「そ、そうか……うむ。うううううう。あああ、気持ちいいなぁ。人形の頃では味わえんかったのじゃ」

 ひとりしきりに抱き締め撫で会い。落ち着いたときに離れた。

「じゃが、平成も多くの出来事あったのぉ」

「俺はめちゃくちゃあった。呪いの人形に呪われたままでビックリしてる」

「……何処か体が痛いのか?」

「胸の当たりが苦しいかな」

「なんじゃ、余と同じか……あのときからずっとじゃ」

「かわ余」

「かわ余か?」

「もちろん」

「へへ、照れ臭いの。晩御飯にするかえ?」

「する」

 俺と嫁は立ち上がり俺は嫁の腰に手を当てて台所に向かった。自然なボディタッチに照れることなく。逆にその手を掴み。手を握ってくる。

「あら、これじゃぁ、よそう事もできない」

「なら離せよ」

「もうちょっとじゃ」

 本当に俺は色々とバカになる。






「ご馳走さまでした」

「お粗末様でしたのじゃ」

「少し、晩御飯にしては速かったな」

「じゃぁ続きみるかの? プライム会員で良かったじゃろ?」

「お前、親の金で入る会員はうまいか?」

「極上のうまさじゃ。いやー恵まれた家だった。呪いとは無念じゃの。では続きから見ようか」

「そうだな」

 ◯S4を起動。持ってて良かったゲームも出来るお手軽映像出力機器。

「OP飛ばすか?」

「何を言うのか、全て見るに決まっているじゃろ」

「全部?」

「6話まで全部見たじゃろ。特殊EDもあるし苦痛でもないじゃろ」

「まぁなぁ……」

 流石は元有名監督。元の方はまぁ察しになったが。

「じゃぁ見よう」

 ソファーに座り二人で並んで同じアニメを見る。俺はそっと肩を重ね。体重を感じる。

「ふふ、甘いの」

「ふん」

 二人で肩を並べアニメを見る。出会ったあの日から全く変わらず。平成最後の日もこうやって二人で過ごすのだ。





 8話視聴。中々くるものがあり、俺は少し涙を流した。そして照れながら隣を見るとボロボロ涙が溢れる嫁の姿が……

「うわああああああん、ああああああああああああああああああああああ。わああああああああああああ」

 嫁が号泣、それも大きく声をあげて、涙が引きそこまで泣くのかと笑いながら頭を撫でる。

「気持ちわかる!! わかるよぉ!! そういう事なんだよね!! 大好き人に尽くすのって良いことなんだよね!! ああああああああああああああ」

 とにかく嫁は号泣し、俺は困惑しながらOPを見る。まぁ元は同じような存在だったわけだし。

「うわああああああん………」

「そろそろOPおわるな」

「うん」ピタ

 嫁が真剣な目になる。お前の涙腺凄いな。






 11話視聴。

「◯かばあああああああああああああああああああああ」

「わ◯◯ばああああああああああああああああああああ」





 12話視聴。

「わか◯ああああああああああああああああ」

「みど◯ちゃあああああああああああああん」

「うわあああああああああああああああああ」

「みんなああああああああああああああああ」





 視聴後。

「これをクールみてた人、本当によく11話から1週間待てたね」

「あああああうううう。ずびずび」

「いや、良かった良かった。楽しかったな」

「あぶあぶ」

「おい」

「まって……涙が止まらない……」

「そっか」

 俺は余韻に浸りつつ目を閉じた。そして、手の上に嫁の小さい手が重ねられる。

「……好き………」

 目を開けるタイミングと返答の機会を逸した。口が塞がってしまっている。







「もう、あと少しで平成おわるね」

「終わるな。終わる前に出来事を思い出してみないか?」

「うーん。この平成の最後の時間に終わる? 数分で終わるわけ無かろう数時間かかる」

「終わるだろ?」

「終わるわけないでしょ!! 出会いも長いのじゃ!!」

「浜辺、告白、そのまま持ち帰り」

「そんな、さっぱりしたのはいやじゃぁ!!」

 俺はほっぺをつねられる。やさしめなつまみだ。

「……じゃぁあのときどうやって浜辺に来てたんだよ」

「タクシーじゃ。金の力じゃな。おこづかいのパワーじゃ」

「寒くなかったのか?」

「無茶苦茶寒かったのじゃ。はよう、こいよと思たの……そしてすぐに抱きつき暖めたのじゃ」

「それであんなに震えてたのか」

「待つのは苦行じゃった……」

「来なかったらどうしてたんだよ」

「電話して怒ったのじゃ」

「浜辺に向かって良かった……それよりも」

 俺は冷や汗を拭い立ち上がる。そして、冷蔵庫から箱を取り出す。

「それは!!」

「平成最後のデザートです。◯ティックファクトリーで買ってきました」

「知ってたのじゃ~。ちょい紅茶を沸かすの」

「うむぅ」

 ケーキとタルトを皿に出して用意し、紅茶を淹れて分ける。夜中のデザート、太ることを考えずにいただく俺たち。

「そういえば体重を気にしないな」

「気にしない訳じゃないけど、そこまで太らないから」

「本当か? 測る? 測る?」

「だから、体重計持ってくるんじゃないのじゃ!!」

 俺は体重計を風呂場脱衣場に戻す。お前の役目は彼女を苛めるために存在している。ありがとう。

「まぁ、全く気にしないわけじゃないのじゃが……うむ。細いのがええかの?」

「ちょっと太い方が……まぁこれはどうでもいいからケーキ食おう」

「余、大好き!! クリーム大好きじゃ!!」

 俺はショート、イチゴタルト。嫁はチョコレートショートにモンブランである。

「ショート食べたい。あーんして」

「あーんとか……日頃してないだろ」

「平成最後のあーんですじゃ」

「じゃぁ、あーん」

「あーん」

 俺はショートケーキを切りわけ嫁に口に入れる。ハムハムとフォークまでしっかりとなめとり。頬を持ちながら美味しいと言う彼女は微笑み。そして俺はフォークを見る。

「間接キスなのじゃ」

「今さら……そんなので恥ずかしくなるのは」

「大人なのじゃ」

「じゃぁ、今さらじゃない理由を今ここで示そうか?」

「……なんなのかの?」

「顎をまず持ちます」

「……」

「目を閉じるのを確認したら、近付きます」

「……」

「最後に平成最後のキスの前に俺に言いたい事は?」

「深い物をお願いします」

 平成最後のキスはイチゴの風味でちょっと甘い匂いがした。





 0時、平成が終わり。令和と言う新しい時代が始まる。区切りを越えた俺の腕に嫁が収まり。とにかく擦ってくる。

「平成おわったのじゃ」

「終わったな」

「終わったのじゃ……ええ時代じゃった」

「いい時代だったか?」

「結婚出来たのじゃ……夢は叶ったかの?」

「なら、いい時代だったわけだ。いい時代だったな……」

「ねぇ、みぃくん。令和になりました。初めてのワガママ聞いてくてくれると嬉しいのじゃが」

「聞いてやろう!!」

「もう一回キスをお願いします」

「今さっきしただろう……」

「何度でも気持ちいいのじゃ!!」

「じゃぁ、もう一回な」

「令和になってもずっと好きじゃぞ」

 俺は唇に触れ深く時間をかけて味わう。そして、少し離れ嫁は俺に首を回した。

「今日はお休みじゃろ? みぃくん」

「そうだな。休み」

「じゃぁ、いっぱい構って。私が眠くなるまで」

「もちろん、そのつもりだ」

 始まったばかり。俺は求めるままに彼女を抱く。これからもずっと。
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