(完結)見捨てられた令嬢は王子と出会う。[アルファ、scraiv専用]

書くこと大好きな水銀党員

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出会い

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「お前なんか生むんじゃなかった」

「何故、婚約破棄されたかわかる?」

「努力が足りないからよ」

 記憶の中の私は部屋で泣きながら母親の言葉を反芻していたと思う。

 婚約者から婚約破棄を言い渡されたのだ。もっと条件のいい婚約者がいるんだと言われたのだ。

 1度2度お会いしただけだったがそれでも夫に成る人を知ろうとお近づきになったがそれが良くなかったのかと自問自答していた。

 父は珍しく優しく、仕方がなかったねっと言い。祖父も私を抱き締めて慰めてくれた。しかし………母は………

「頑張ったのに…………どうして………」

 母親は厳しい人ではない。どちらかと言うと無視が多かった。私は使用人と祖父が面倒を見てくれていた。

 婚約者が決まった時、祖父だけが喜んでくれた。母親はそれでも無視した。

 学園で頑張っても母親は無視を続けていた。

「うぅううう………」

 母親の愛を知らず生きていた私は初めての母親の言葉に涙する。初めて声をかけられ言われた言葉は

 唐突に怒られたのだ。肩を掴まれて罵声を浴び、私は母親から逃げていた。

ドンドン!!

「どうした!?」

 部屋の扉を叩く音と唐突に祖父が顔を出してくれた。ベットに座り泣いている私を見つけ、優しく抱き締めてくれる。暖かい胸板に涙を擦り付けた。

「ああ、ああ。可愛い可愛い私のアメリアよ」

 私の名前を呼びながら優しく優しく。問いかけてくれる。

「お爺さま………私………」
「ああ、大丈夫。大丈夫だからね」
「うぅ、うん」

 私はそのまま。愛するお爺ちゃんの胸で泣き疲れ眠ったのだった。そう、記憶のおじいちゃんは優しいかった。


§


 婚約破棄から1ヶ月が立ち。私は部屋から出た瞬間使用人達が騒いでいるのが聞こえた。

 何事かと聞いた時。お爺ちゃんの身に何かがあったことを教えてくれた。その場に崩れる私を使用人は介抱してくれる。部屋の椅子に座り、放心した。

 あんなにも優しかったお爺さまが倒れた。

 意識不明で倒れ。そして…………もう二度と優しいおじいちゃんに出会えなくなった。

 四六時中泣いていたと思う。

 葬式でも泣いていたと思う。

 そして………また母は。

「良かった。怖かったの………安心した」

 そのあとは覚えていない。とにかく母に葬式で怒鳴り散らし錯乱した。

 お父さんが止めてくれたのは覚えている。

 だけど、実の父親に対してそれは酷いと思った。あんなにも厳しいながらも優しいおじいちゃんだったのに。

 だから、だろう。

 母が壊れていたことを知ったのは。私が壊れてからだった。


§


「………今日もまた………見ちゃった。うぅうう」

 起きて早々、私は過去の事を思い出していた。

 忘れたい。

 忘れたい。

 嫌な事も全て。忘れたい。

 母親に父親に褒めて貰いたくて学園で頑張てた。成績も悪くない。なのに、気付けば私は何も無かった。父親は何も言わない。母親も別宅に住んでいる。

 認められたかった。

 だから今日も小説を読んで童話の世界を旅をする。

 読んでいる間は全て忘れられるから。

 薬…………無くなった。先生に会いに行って買わないといけない。

 眠れなくなる。夜が怖くなる。

 今日は立てる。立てるから行こうと思うのだった。

 辛い日は立てなくなることもあり。吐き気もする日もある。ずっと風邪のような日もある。

 先生は言う。精神的な病気だと。

 私の母親と一緒だと。

 私は………壊れてしまった。なんで生きているのだろうか?

§ 


 父はそこそこの大きさの地方の領主様だ。婚約先は王国の貴族様だった。目上の方だったが、そのために婚約破棄も一方的だった。

 相手の事を考えず。一方的な断り方。

 それから私の生活は急変した。学園では指を差され。母親と喧嘩し、一番の味方だった祖父が死んでしまった。たくさんの出来事が一気に襲って来た。

 そして、足が立たなくなる。体が自分のではないように重い。立ちくらみが激しく。幻聴も聞こえた。

 私は悟った。壊れてしまったと。

 医者に見てもらい外傷はない。だが………母と同じように心の病だと告げられた。

 壊れてしまった私は学園へも行かなくなり。部屋で閉じ籠る日々を過ごす事になる。何もしないと楽だった。だが逆に勝手に涙が出る。思い出すのだ辛い日々を。

 そんな毎日を送っている時に父上が舞踏会に誘う。母親ではなく私をその日は誘ったのだ。


§


 私は舞踏会用のドレスを着込んだのは覚えている。薬でなんとか心を落ち着かして向かったのも。人混みも昔は大丈夫だったが今でも呼吸が乱れ苦しくなるほど辛い日もある。

 人とのふれあいがダメになっていた筈。

 そんな私でも婚約者を探して押し付けようとはしない父。もういっそ捨ててくれた方が何も背負わなくていい。舞踏会も結局………なんのために来たのかもわからない。

 宙にフンワリ浮いている私は。頭のなかで小説の世界に逃げていた。舞踏会の宴会場に顔を出したときこそこそと喋る声が聞こえる。

「あら………あの子」
「知ってる。婚約破棄されたんだって」
「ああ、あの貴族さまも病気持ちは嫌よね」

 聞こえる声で笑い合う。なんでこうなったのかわからない。わからないが、気にしてはいけない。気にしてはいけないと何度も言い聞かせた。

「…………」

 父親も何も言わない。だから………隅の席で私は読書をする。何も興味がわかなかった。心を閉ざしていたのだと思う。

 物語の王子は優しい。

 私は本の世界に没頭する。

 忘れたいから。

「あの………何の本をお読みですか?」

 私は本をテーブルの上に置き。震える声で聞く。

「えっと………どちら様でしょうか?」
「トラストです。トラスト・アフトクラトル」
「アフトクラトル家ですか」

 聞けば名門貴族様。私みたいな女性に話しかけてくれるのは恐れ多い。小説を手に取り中身を見る。

「………いいですよね。これ」
「はい?」
「あっ………いえ、すみません。好きなんですか?小説は」
「……え、ええ」

 何故この人はこんな端の机に?

「すいません。読書を邪魔しました。お名前をお聞きしてもよろしいですか」
「アメリア・ヴィス」
「ヴィス家………そうですか」

 私は正直に明かす。婚約破棄され、噂の渦中の人物であると。関わりたく無かったからだ。トラスト様は少し顎に手をやり考える仕草の後に席を立った。

「名前……覚えておいてください」
「はい?」

 席を立ち、彼は何処かへ行ってしまう。そして………私はまた。書に耽るのである。
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