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執事長の復讐

お嬢様旅に出る

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 空間が歪み中から緑の髪をした綺麗な人が現れる。場所は屋敷のバラ園。その女性……魔王はガセボと言う中庭にあるベンチのような場所に向かい座る。


「早くついちゃった」


 鼻を掻きながら魔王は赤いバラ園を眺める。その中で……ふと存在が感じられて背後を見た。すると……眼鏡をかけた魔法使いが明るい表情で魔王を見た。


「そっちは大丈夫でしたか?」

「はい……大丈夫でした。あなたは?」

「なんとかなったよ」


 魔法使いは魔王の隣に座る。すると……時計の針が動く音が聞こえ。最初からその場に居合わせたかのように執事長が現れる。


 執事長が現れると同時にガセボのテーブルの上に紅茶とカップケーキが現れ。二人は驚いた。


「流石ですね……美味しそう。いただいても?」

「見事な転移です」

「ありがとうございます。どうぞお召し上がりください」

「あなた……アーン」

「人前でするものではないですよ。執事長……ありがとう。いつも」

「ありがたきお言葉です」


 陛下が紅茶を啜り。深いため息を吐いた。


「はぁ……なんとかなった。執事長はこれからの事は予測済みかい?」

「お贈りしました書面が予想でございます」

「すまない……確認不足だった。後で読ませていただくよ。でっ……君からなにかあったよね」

「うん……執事長。王国へ娘と一緒に旅をしてください」


 執事長は目を細めた。


「わかります。何故という表情でしょう。理由は簡単です。ね? あなた」

「そうですね。早く……」

「孫が見たい」

「婚約者を決め。内政に尽力し……」

「……」

「あのね。わかるかい?」

「ごめんなさい。でも……見たくないですか?」

「まだ若いので流石に……」

「私は8年で出産しました。大丈夫です」

「君は人では無かった」


 執事長は静かに二人の仲を微笑ましく見守る。戦場では敵をも泣かせるほどの猛将の二人だが……いたって普通な所もあるのだ。


「かしこまりました。婚約者探しを行います。確かに……私が用意した婚約者候補は全てダメでした。そこは……やはり。自分の足でということなのでしょう」

「婚約者の事になると饒舌ね。執事長」

「……申し訳ありません。夢ですから」

「夢ですか? どのような夢ですか?」


 執事長は銀時計を見て時間を伺いながら話を始める。


「お嬢様の晴れ姿を見たいと思っております。拾っていただいた恩を返すために……その瞬間まで信じて働いております。泣く用のハンカチもオーダーメイドで作り保管し……お嬢様用のドレスもお作りしております」

「私たちより……ちょっと期待してない?」

「……お恥ずかしながら」


 クスクスと笑い会う3人。もし、側近オオコとお嬢様アモンが居れば執事長が笑っていると驚いただろう。


「では……内政は私が引き継ぎますので執事長はお願いします」

「可愛い子には旅をさせろと言います。執事長……2度目の旅ですのでそう手はかからないでしょう」

「かしこまりました。では任務を拝命させていただきます」


 執事長は頭を下げて皿と飲み干したカップとともに消える。そして……残された二人は二人だけの時間を過ごす。


「娘は彼の事がいいらしいのですが……勇気が出ないそうですね。誰に似たのでしょうか?」

「ふふ、あなたです。私は好意をはっきり見せてました。執事長はあんな見た目ですが若いですし大丈夫でしょう」

「そうですか……私に似ですか。それよりも……姿を変えて仕えている。いい人ですね本当に」

「はい。だから……娘にチャンスをあげたんです。どっちに転ぶにしても大きく成長するでしょう」


 魔王は陛下の肩に顔を寄せる。昔からそうしていたように。








「お嬢様。お嬢様の母上がお会いしたいと申しております」

「お、おう……いいですよ。いれて……」

「こんにちはーアモンちゃんんんんん!!」


ムギュウウウ


 執務室で内職している時に背後から強く掴まれる。やわらかな母の匂いに本物であることがわかった。


「お母様!?」

「本当に可愛くなって……ふふ」

「あ、暑いですお母様!!」

「お嬢様、魔王様。私はこれで失礼します。なにかありましたらベルでお呼びください」


 おじさまは親子仲を見届けて部屋を出た。出た先で伺っていた側近と出くわして二人で何処かへ行ってしまう。色々な話し合いだろう。羨ましい……


「アモン。執事長に迷惑かけてませんか?」

「か、かけては……」

「執事長が嘆いてました。婚約者を見つけず。仕事も手が疎かにしていると」

「あ、ああ~」


 執事長が報告しているのを失念していた。


「なので……状況も落ち着きました。執事長とともに婚約者探しの旅をしなさい。王国で」

「へっ?」

「執事長には話したわ。一度行ってる国でしょ? 安心して送れるし……アモン」

「は、はい。お母様」


 私はピンッと背筋を伸ばす。


「二人きりで旅をする事ができるの……内職は私がするから。アモンちゃんは楽しんできなさい。ごめんね……色々と無理させちゃって。大丈夫……アモンちゃんは私たちの子。冒険者として名を馳せた私たちの子だから遊びに行けるのも簡単です」


 お母様がウィンクし、歳よりの幼げな表情で私を見た。お姉さんのような容姿なお母様の願ってもない提案に何度も何度も頷く。


「いく!! いく!!」

「一応王国偵察もお願いね」

「うん!! いく!!」


 語彙力が無くなりそうなほどに行く行くと言葉を口にし。私は母に頭を下げた。絶対に頭が上がらない程の出来事だ。


「では、二人でお願いね」


 お母様は笑顔で手を振り。空間の歪みから別の場所へ向かうのだった。


「…………んんんんんん!!」


 私は一人になった瞬間に両手を挙げて嬉しさのあまりに叫ぶの我慢しtたのだった。

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