薮原なこと

真田奈依

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第七話 恩を仇で返す

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(全部で何通よ……)
(しかも内容が全部、私へのダメ出し……)
 画面に並んだ時間は、深夜。
 次々と短い攻撃が投げつけられている。



 件名:今後はこうすべきです
 1:49
 私の提案ですが、案内手順は次のように変えるべきですよ。
 1. 書類棚 →
 2. PC操作 →
 3. 社内ルール →
 4. 書式の確認
 この順番の方が、分かりやすいです。

 件名:余計な混乱を避けるために
 2:05
 今日は何度か分かりにくい説明があったせいで、私の業務に支障が出ました。
 そこは反省してほしいです。

 件名:念のため
 2:42
 東山さんの仕事のやり方そのものを見直すべきだと思います。
 派遣に説明しているつもりでも、内容が曖昧で伝わりません。

 件名:最後にもう一点だけ
 3:12
 あと、帰り際の「明日もよろしくお願いします」という言い方ですが、あれは上から目線に聞こえました。
 もう少し柔らかい表現の方がよいかと。
 私からは以上です。



 翌日、薮原は何食わぬ顔で出勤してきた。
 東山は距離を置くしかなかった。

 そしてある日、薮原は大きなミスをした。
 処理を誤り、担当部署を巻き込む事態に。
 違う派遣会社から来ている相沢はそれに気づき、「大丈夫、ここは私がフォローしておくから」と、肩を貸した。
 相沢は優しく頼れる人物で、薮原にとっては“恩人”と言ってもよかった。
 ――しかし。
 後日、問題の原因を問われたとき、薮原は平然と言い放った。
「あたしじゃありません。相沢さんのミスですよ」
 その場にいた人々は耳を疑った。
(え? 助けてもらったのに……)
(あのとき見てたよね? どうして平気で嘘を……?)
 相沢は顔を引きつらせた。
 自分が庇った相手に裏切られ、それどころか“悪者”に仕立て上げられていたのだ。
 恩を仇で返す――そんな裏切りを、他ならぬ本人がやってのけた。

 それから職場では、こんな言葉が囁かれるようになった。
「恩知らずで、人の善意を踏みにじる行為……あれ“薮原なこと”だよね」
「親切にした途端に背中を刺してくる感じ、まさに」
「助けてくれた人を悪者にして、自分だけが助かろうとする。恐ろしいわ」
 その評判は、日に日に濃くなっていった。

 やがて――また薮原が失敗した。
 書類の提出期限を過ぎ、部署全体に迷惑をかけるレベルのミスだった。
 しかし今回は――。
 誰も動かなかった。
 誰も近づかなかった。
 誰も声を掛けなかった。
「親切にした人を平然と悪者にする人なんて、もう助けない」
 そう、皆が心の底で決めていたからだ。


 その夜、東山のスマホにメールが届いた。

 件名:職務怠慢です
 9:09
 正社員なら派遣社員をフォローするべきです!!!

 その晩も、メールが26通ほど連投された。
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