天使ムニエル

真田奈依

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4 半年前

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 今日は仕事が休みなので、娘のところに来た。電車と地下鉄を乗り継いで1時間。娘が暮らすアパートに着いた。今の時間は仕事に行っているはず。合鍵でドアを開けた。玄関ドアを開けるとすぐキッチン。
 生活感がないほどきれいに片付いていた。鍋も新品同様。料理はしていないようだ。
「ちゃんと食べているのかしら」
 娘は高齢介護施設で介護福祉士をしている。離職率の高い職種にもかかわらず、娘は不満を言うこともなくずっと続けている。好きな仕事らしい。
 あたしに似ないで背が高くてすらりとした体型でありながら力もある。自分より大きい男性利用者の立ち上がり介助もそつなくこなしているのが意外だった。
「だけどあんな細い腰で大丈夫なのかしら。腰を痛めて辞めた人が何人もいるっていうのに」
 職場に近いアパートを借り、髪は手入れが楽なショートヘアにしている。毎日が忙しく、食事にかける時間が惜しいと言う。朝はコーヒーだけ、昼はバナナ、夜は栄養ゼリーだなんて…… でも不摂生なわりに肌はきれいだった。それはまだ若いからだ。いずれツケがくる。
 元々小食ではあったけれど、身体が資本の仕事なので心配。それで時々、様子を見ながら料理を作りに来ていた。もうすぐアラサーのいい大人なんだから、過保護かもしれないけれど。
 娘は食べることに興味がない感じだった。2ドアの小さな冷蔵庫に、料理の材料になるものが入っていることはなかった。冷蔵庫を覗いてみた。今日もスポーツドリンクとか、ぶどうしか入っていない。
 奥の部屋に入ってみた。7畳半ほどのフローリングの部屋に、ベッド、サイドテーブル、全身が映せる鏡。物が少ない印象がする。掃除が楽なように物を置いていないのだろう。整理整頓されていた。忙しいながらもきちんと生活しているのは、我が子ながら偉いと思う。
 今日は早番って言っていたから、夕方には帰って来るわね。部屋を掃除し、枝豆を茹でて、冷やし中華と麻婆茄子を作った。冷やし中華なら食べやすいと思うの。でも、冷たい物ばかりじゃ夏バテするからね。冷蔵庫にしまって、部屋を出た。喫茶店でフルーツパフェでも食べて息抜きしたら、帰ってお父さんの晩ご飯作らなきゃ。

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