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小鳥の試練
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船のタラップから足を伸ばして光陽と共に船を降りると、そこは港のヨットハーバーの桟橋だった。
今まで、海の真ん中にいたと思っていたのにいつの間に移動したのだろう、と感心しながら周りを見渡す。
昼休みのその場所は、観光客やお昼を取っているサラリーマンやOLで結構賑わっていたが、誰も光陽と咲夜に気づいた様子はない。
いつの間にか光陽の手に収まっていた’スキーズ’の船の模型が、彼の手から消えて、収納ブレスレットに収まった。
「そこまで送っていくよ。そうだ、手作りの料理に拘らないなら、夕食のお弁当は僕が用意するから買い物を楽しんでおいで。」
と言われて、お弁当の件は喜んで任せることにしたが、送っていくという言葉には遠慮した。
「頑張ってお仕事早く済ませてね。じゃあ今夜楽しみにしているわ。」
とそこで別れた。
久しぶりに街に出て可愛い生活雑貨を見たり、服をチェックしたりして休みを楽しんだ咲夜は、5時ごろ携帯に光陽から電話がかかってきた時、駅前の大型書店にいた。
店を出て電話に出ると、光陽から仕事が終わったから迎えにいく、そのあたりで待っていてくれ、と言われて駅前のロータリーで待つことにした。
(案外早くに仕事が終わったのね。)と弾む心で彼を待っていると、
「そこの可愛い君、よかったらお茶でもどう。」と若い男が声をかけてきた。
今日何回目かのナンパに、またか、とうんざりしながらも、「待ち合わせだから、ごめんなさい。」と、にっこりキッパリ断る。
大抵の男は咲夜の背の高さとキッパリした態度にあっさり引くのだが、今回のは案外しつこかった。周りにたくさんの人目があるにも関わらず、
「彼氏、来ないじゃん、俺いい店知ってるんだ。メシ奢ってあげるよ。」
と、ナンパであまり断られたことがない、俺イケメンだろ、という態度が見え見えの男で、確かに見た目はいいほうなのかもしれないが、あなたの態度は最低よ、と思っている咲夜になぜかしつこく迫ってくる。
咲夜がどう穏便に断ろうか、と考えていると解決法がバイク音と共に現れた。
白と青の見事な流線型の大型バイクは咲夜の近くのロータリーに止まると、バイクに負けない背の高い男が、均整のとれた長い脚を黒のジーンズに包んでバイクを跨ぎヘルメットを取る。
漆黒の柔らかそうなウェーヴ掛った髪、鼻筋の通った高い鼻、形のいい唇。金と緑の美しい宝石のような瞳。その青年は超がつくほどの美青年だ。
今日はバイクに乗る為か黒の革ジャンに黒のジーンズ、茶色の革のブーツを履いていて野性味が加わったその立ち姿はしなやかな黒豹のようでため息が出るほど様になっている。
ロータリーのあたりが一瞬静かになり、咲夜にちょっかいをかけていた男でさえ、光陽に見惚れている。
彼は咲夜を見つめると、一言、
「咲夜。」
と低いがはっきり通るバリトンの美声で愛しい名前を呼ぶ。
(ああ、光陽ってなんて存在感なの!)
咲夜が高鳴る胸と共に彼に会えた喜びを全身で表し、花の香りを纏い彼の名前を呼びながら光陽の側に寄り添うと、どこからともなく、そこら中から溜息が漏れた。
咲夜は気にもしていないが、女性らしいカーブを持つ身体に可愛らしい春ワンピースをまとった咲夜は清楚ながらも素晴らしい美人だ。
光陽に会ってからは、彼に恋する乙女心が咲夜に色香を匂わせ、光陽と並ぶと二人はロマンス映画のワンシーンのような美男美女のカップルだった。
「光陽。」
光陽は咲夜の腰を長い手で優しく抱き寄せると、
「待ったかい?」
と聞きながら、人前だというのに、気にもせず唇を寄せてくる。
とっさに二人の周りにプライバシー結果を張った咲夜を強く抱き寄せ、彼の唇が咲夜に重なり、舌で唇をなぞって僕を入れてと誘ってくる。
彼を受け入れた咲夜は、二人の熱い舌が絡まり甘い唾液を交換すると周りの事は頭から一切抜け、彼で頭が一杯になる。
「んっ・・・」
なんども角度を変え唇を重ね、お互いの身体に手を回し、二人の甘く深い口づけは長い間続いた。
やっと二人共、会えなかった時間はこれで充電出来た、と満足し、最後にお互い見つめあって唇を甘噛みしあって顔を離すと、二人の側から
「うっ」
とうめき声が聞こえた。
えっ何、とよく見ると、先ほど咲夜がとっさに張った結界は、周りから二人の姿は見えていても見えていないブラインドアイと咲夜が呼ぶもので、咲夜が光陽に気を取られていて、よく確認せず二人の周りに張ったため、咲夜の近くのロータリー側に立っていたナンパ男も結界の中に入ってしまっていた。
二人を真っ赤な顔で見ていた男は濃厚なラブシーンを見た後、気が高ぶったように赤くなって前かがみでトイレの方へ走り去っていく。
「気分でも悪くなったのかしら?」
と不思議そうな顔の咲夜に、男が結界内にいる事には気がついていたが、無視してラブシーンを見せつけた光陽はニヤリと笑うだけだ。
(咲夜を口説こうなど100年早い。)
ブラインドアイの効果は続いていて、夕方の5時過ぎの駅前ロータリーに堂々と大型バイクを停めていても誰も気にも留めない。
「光陽、仕事案外早く終わったのね。嬉しいわ。」
「咲夜の為に頑張ったんだ。褒めて欲しいな」
これは本当だった。仕事を終わらせば咲夜とのデートだ、と思うといつにも増して仕事が捗り、予定より一時間繰り上げて終わらせたのだ。
「お疲れ様、光陽。バイク姿、最高にかっこいいわ。」
「早く咲夜に会いたくて、愛機で飛ばしてきた。」
「いつもバイクなの?意外だわ、どこかのスポーツカーとかも似合いそう。」
「車にもなるよ。ただ、道の狭いヨーロッパや日本ではバイクの方が移動が楽なことが多いんだ。じゃあ行こうか。咲夜は車の方が快適か?」
「そうね、今日は私ワンピースだし、車の方がいいかな。」
と咲夜が言うと、光陽が何か聞きなれない言葉を口にする、とみるみるバイクが変形していき、二人乗りスポーツカーになる。
二人で車に乗り込み、昨日の夜訓練をした公園に向かう。
「魔道具なのね。」
「ああ便利な魔道具で重宝している。’ブローズホーヴ’略して’ブローズ’だ。’スキーズ’は僕の家、’ブローズ’は僕の乗り物みたいなものかな。」
なるほど、そう説明されると分かりやすい。
「連盟の仕事の関係で結構色んな場所に赴くから、根無し草みたいな暮らしが多い僕にとって、持ち運びできる家や乗り物は貴重な相棒なんだ。魔物が出るような場所は辺鄙なところも多い。」
なんとなくこの5年一人暮らしだった咲夜にも、光陽が言っている意味がわかる。
咲夜はもともと一人で行動するのが好きなタイプで、集団で行動するよりは一人が好きな性格だ。
そんな咲夜でも慣れ親しんだ我が家に帰るのはやっぱりホッとするのだ。
5年どころではない年月を過ごしてきた彼にとって、世界中どこにいても、親しんだ彼の家’スキーズ’に帰るのはやはり安心できるものがあるのだろう。
(彼と私ってなんか似てないようで、根本的なところが似てるのよね。)
と初めて会った時から感じていた、懐かしいような感覚の根拠が垣間見えた。
「そうね、帰る家があるとホッとするわよね。」
と咲夜が言うと、光陽は柔らかく笑って、
「咲夜に会う前は僕も満足していたが、今は僕が帰る家には咲夜がいてほしい。」
と咲夜の手を握ってきた。咲夜も彼の手を握り返し正直に感じたまま述べる。
「私も、光陽が帰ってくる家が私の家のような気がするわ。」
咲夜がそう言うと、彼は咲夜の手を口元まで持っていき、そっと手にキスをした。
彼のその仕草は、いつも交わす口づけのような情熱的なものではなかったが、今まで交わしたどのキスより咲夜の心の琴線に触れたような気がした。
「っっっ、はっ」
「よし、いいぞ咲夜、そのまま踏み込んで、そう、そこで受け止めるのではなく、受け流すんだ。」
「っ・・」
「そのまま力の流れに逆らわずスピードをつけて切りつける、よし。今日はここまでにしよう」
今日は昨日よりも、ずっとうまく動けた手応えを感じていた。光陽の訓練は厳しいが、指摘は的確で確実に自分の動きに無駄がなくなってきているのがわかる。
まだまだ、彼には到底追い付かないが、いずれ追いついてみせる、と咲夜は密かに誓っていた。そうして彼に実力を認めてもらえば、いつか彼が日本を去る時が来ても、自分をパートナーとして連れて行ってくれるかもしれない。
彼に、日本に滞在している期間だけの恋人として、置いていかれるのだけは嫌だった。
だが、自分はまだまだ実力が足らず、彼から見れば子供みたいな年齢で、与えられる甘い言葉やキスに彼の好意以上のものを感じるものの、’好きだ’とさえ言われていない。彼にはすでに自分の気持ちを伝えてあるので、彼が自分をもっと知って、魅力を感じて、咲夜を丸ごと欲しがってくれればと思う。
彼のような魅力的な男性に、女性が群がらない訳がなく、いまは日本に就任しているせいで一人だが、本国に帰れば待っている人もいるかもしれない。
自分たちの寿命は普通の人間より長いせいで、長く生きれば時間の感覚が人と違ってくる、と母はいっていた。
日本に滞在する期間はきっと彼らの長い時間から見れば、人がちょっと寄り道する程度の感覚なのだろう。
それならその間に、できるだけ彼の側にいたかった。
咲夜は、身体を欲しがって貰うだけでなく、光陽に愛してもらいたいのだ。
それも行為の延長の愛の囁きではなく、彼と自分を縛る重い一生の誓いが欲しかった。
光陽は気軽に愛の告白をするタイプでは無い、と咲夜は思っているが、だからと言って女性を抱かない男性はいない。
彼の堂々とした態度や優雅な物腰、容姿だけをとっても、一夜だけの相手にも困らないだろう。
咲夜は母の言葉を鮮明に覚えている。
「特に魔物やその血を引くものは貞操観念が薄いものが多いのよ、そうでなくとも彼らの抜きん出た容姿と体力もあって、何人もの恋人、愛人を妻がいても持つこともあるから気をつけなさい。もちろん例外もたくさんいるけどね。だけど、彼らでも番いは一人なのよ。咲夜ちゃんも生涯の伴侶として番いが見つかるといいわね。」
咲夜には、母の言う番いが妻とどう違うのかよくわからない。だがこの数日光陽と過ごした時間で、咲夜は彼への好意がただの’好き’ではなく、もっと深い感情を伴って彼を愛し始めていることを自覚していた。
はっきり好きだと言われたことはないが、今、彼の興味を引いているのは咲夜だけなのだ。
ならば、その興味を、なんとかして愛に変えられないだろうか。
彼を知れば知るほど惹かれていく。だけど、どうやって彼を振り向かせればいいのか、経験のない咲夜にはその手段が思いつかなかった。
ただ、根が正直な咲夜は気持ちを隠すのが苦手だったし、好きな人には自分の気持ちを知っていて欲しかった。
(やっぱり、彼と一緒にいて、自分らしく気持ちを伝えるしか思いつかないわ。駆け引きとかできないし。)
自分の恋愛スキルの低さに悲しくなるが、自分はこうなのだから、しょうがないと割り切ることにした。
訓練が終わって二人して連れ立って、昨日の枝垂れ桜の近くまで来ると、平日だが時間が早いせいか、結構な数の若者のグループや、カップルなどが花見をしているのが見えてきた。
「今日は随分賑やかね、でもまだ場所は空いてるわ。」
「そうだな。あっちの方なら少し離れているし、静かそうだ。」
と、少し離れたところに歩き出すと、近くの枝に羽の綺麗な小さな鳥が停まり、可愛く囀った。咲夜の目が力に反応し小鳥を見つめると、
「あら、あなたもしかして、’雛ちゃん’?」
と咲夜が尋ねると、小鳥は可愛い声で、
「よう、久しぶり、咲夜、元気にしてたか?」
と答えた。咲夜は周りを見渡すが、そこは他の人たちからかなり離れており、一見咲夜と光陽が立ち止まって話しているようにしか見えないことを確認すると、小鳥が
「大丈夫だ、人には小鳥が囀っているようにしか聞こえない。それより、珍しい連れを今日は連れてるな。よお、あんた、この辺りじゃ見かけない顔だな。その上男前だ。我は’雛ちゃん’だ。」
と挨拶してきた。
「僕は、春日光陽と言います。よろしく。貴方のその姿、本体ではないですね。」
「ふん、流石だな、まあ合格だ。咲夜、随分強いの捕まえたな。」
「光陽は私に戦い方の訓練をつけてくれてるの。」
と、小鳥に答え、光陽に紹介する。
「雛ちゃんは、父の知り合いなの、小さい頃からちょくちょく可愛い鳥が父に懐いてたから、’雛ちゃん’と呼んだらなんだか、気に入られちゃって、時々こうして様子を見にきてくれるの。鳥になら何にでも化けられるのよね?」
「それくらい、我にとってなんでもない、咲夜が無事に過ごしているならいい。あんた、咲夜を悲しませたら我は黙っちゃいないぞ。穢れから咲夜を守り、忠信を尽くせ。」
「もちろんですとも。その役目を誰にも譲る気はありません。」
小鳥はその小さな胸を膨らませ、踏ん反り返って、
「よし、その言葉忘れるなよ。ところで咲夜、もう少し奥に歩いていくと、桜の木の数はここより少ないが、人気がなくしっぽりできる場所がある。我のお勧めデートスポットだ。」
と告げると、光陽に向かって、
「あんた、無事に辿り着けたら認めてやるぞ。さあ、我はもう行く。」
と飛び立とうとするので、咲夜は慌てて引き留める。
「えっ。もう行っちゃうの?一緒にお花見していかない?お弁当もあるのよ。」
小鳥はお弁当、という言葉でピクッと反応したが、頭を振って、
「いやいや、今日は餌付けされている場合でない。猫娘たちにも見つかると煩い、お弁当はまたの機会にご馳走してもらうぞ。」
と行って飛び立って行った。
咲夜は不思議そうに、
「雛ちゃん、今日は随分急いでいるのね。いつもは変わった事はないか?とか気にかけてくれるのに。」
と言うと、光陽は何故か心得たように、
「僕がいたから、だな。では、行こうか。」
と咲夜を促した。咲夜がまだ状況を飲み込めずに聞いてくる。
「何処へ行くの?」
「’雛ちゃん’お勧めのデートスポットだ。どうやら僕を咲夜にふさわしいか試したいらしい。こっちだ。」
と言って咲夜の手を握り木々の間を抜けて行く。5分ほど歩いたところで、目の前に小さな小川に橋が架かった場所に出た。
人気は流石にここまで奥まで来ると全くなくなっている。咲夜は目の前の橋が揺らめいていて何か結界のようになっていることに気づく。
「光陽、なんかこの橋変よ。違う場所に行きましょう。」
「いやここでいいんだ。咲夜、貴女の周りに防御の結界を張って。僕がいいというまで結界を解いて動いてはいけないよ。これから多分、魔物の輩かそれに準ずるものが出てくると思うが、手出しは無用だ。どうやら僕の試練らしいからね。」
咲夜を自分の後ろに歩かせ、光陽は橋を渡って行く。橋の真ん中まで来ると途端に周りの景色が崩れ、薄暗く周りに何もない風景が、目の前の火を吐く3メートルほどのトカゲと共に現れた。
「サラマンダーか。小手調べだな。フレイヤ、解放。」
と、光陽は呟くと、手に木片から細身の青く光る剣を具現させる。
直後、横っ跳びに咲夜から一気に20メートルほど離れ、サラマンダーと呼ばれた魔物が光陽に向き直るなり飛びかかる。光陽は慌てるでもなく剣を袈裟懸け、サラマンダーは剣を素早く避けるが、避けた先を見越して光陽は剣先をすでに構えて振り上げる。剣に斜めに体を真っ二つに切られたサラマンダーは音もなく散って行く。
「一匹。」
次々にサラマンダーが10匹ほど現れるが、瞬く間に光陽の剣がその体を次々と捉え、切り捨てて行く。サラマンダーが全て倒されると今度は剣を持った骸骨が何十体かいっぺんに現れ光陽を取り囲む。
「アンデッドか、生憎僕の剣に切り裂けないものはない、たとえそれがアンデッドでもだ。」
と言うと、高く跳躍して取り囲んでいたアンデッドの輪から抜け出し、斬りかかってくる剣を捌いて、一匹2匹とあっという間に切り裂いていく。その動きはまるで剣舞の様に優雅で無駄がない。最後の一匹を倒すと今度は、一際大きな黒いローブを纏って眼孔が炎に揺れている骸骨が現れ光陽に斬りかかる。その手は4本あり、それぞれが剣を携え斬りかかるが、その全てを光陽は裁ききり、切り返していく。そのうち一つの手が剣を捨て去り、杖に持ち替えると光陽に向かって雷の様なものを杖から撃ち放った。
「光陽、危ない。」
それまで彼に言われた通り、一歩も動かず結界の中で戦いを見守って居た咲夜は、咄嗟に叫んで光陽の周りに防御の結界を張った。同時に光陽も剣で手を切り落としながら、自分の周りに防御の結界を巡らしており、二人の結界が重なって杖から放たれた雷は倍の威力で放った骸骨自身に跳ね返り、骸骨は音もなく散っていった。
すると、薄暗かった景色が消え、二人は元の橋の上に立っており、そこから、遠くないところに桜の木がぼんやりと白く見える。
「咲夜、ありがとう、助かったよ。さあ行こう。」
剣を収め、力を縮小すると、咲夜の手を取って歩き出そうとした光陽に、
「お見事。これは褒美だ。受け取れ。」と声がしたかと思うと空から金色の羽が一つふわふわと舞ってきた。
「わあ、綺麗な羽ねー、触ってもいい?」
咲夜はその赤金色に光り線香花火の様に小さな花の様な尖火を出している羽に、そっと触れる。
その羽を光陽は片手で掴んで、しげしげと見る。
「これは・・・もしや。。。」
その顔は驚きを隠せないという風情で珍しく目を見張りながら、何か考え込んでいる。
「咲夜、’雛ちゃん’は父の知り合いだと言っていたな。」
「そうよ、小さい頃は黄色い雛に化けてくれて、それはとても可愛かったのよ。」
光陽はため息をついて、片手で眉間を抑えながら、
「随分と、大層な保護者がついてるんだな・・・君が今まで無事に育った訳がだんだん分かって来たよ。」
と言いながら羽をブレスレットに仕舞い、今度こそ咲夜の手をしっかり握って、橋を渡りきった。
光陽は手の羽を見ながら考えていた。
( この羽はまちがいなく、不死鳥と同類の物だ。確か不死鳥には東洋に番いが居たはず、美しいものには目が無いと聞いていたが。あの小鳥の本体の正体なのか、たまたま手に入れて持っていたのか、・・たぶん前者だな。僕にも本体が見えなかった時点で力の強い魔物だというのは確かだ。その知り合いだという咲夜の父もただの人間ではないのだろう。ん、まてよ、不死鳥の番いだとすれば本体は雌だ。・・・)
あんな強い伯母が目を見張らせていたのなら、咲夜の両親がいなくても、下手な相手は咲夜に手が出せなかっただろう。
(ある意味、彼女には感謝だな。)
こうして二人で’雛ちゃん’お勧めのデートスポットに赴いた。
今まで、海の真ん中にいたと思っていたのにいつの間に移動したのだろう、と感心しながら周りを見渡す。
昼休みのその場所は、観光客やお昼を取っているサラリーマンやOLで結構賑わっていたが、誰も光陽と咲夜に気づいた様子はない。
いつの間にか光陽の手に収まっていた’スキーズ’の船の模型が、彼の手から消えて、収納ブレスレットに収まった。
「そこまで送っていくよ。そうだ、手作りの料理に拘らないなら、夕食のお弁当は僕が用意するから買い物を楽しんでおいで。」
と言われて、お弁当の件は喜んで任せることにしたが、送っていくという言葉には遠慮した。
「頑張ってお仕事早く済ませてね。じゃあ今夜楽しみにしているわ。」
とそこで別れた。
久しぶりに街に出て可愛い生活雑貨を見たり、服をチェックしたりして休みを楽しんだ咲夜は、5時ごろ携帯に光陽から電話がかかってきた時、駅前の大型書店にいた。
店を出て電話に出ると、光陽から仕事が終わったから迎えにいく、そのあたりで待っていてくれ、と言われて駅前のロータリーで待つことにした。
(案外早くに仕事が終わったのね。)と弾む心で彼を待っていると、
「そこの可愛い君、よかったらお茶でもどう。」と若い男が声をかけてきた。
今日何回目かのナンパに、またか、とうんざりしながらも、「待ち合わせだから、ごめんなさい。」と、にっこりキッパリ断る。
大抵の男は咲夜の背の高さとキッパリした態度にあっさり引くのだが、今回のは案外しつこかった。周りにたくさんの人目があるにも関わらず、
「彼氏、来ないじゃん、俺いい店知ってるんだ。メシ奢ってあげるよ。」
と、ナンパであまり断られたことがない、俺イケメンだろ、という態度が見え見えの男で、確かに見た目はいいほうなのかもしれないが、あなたの態度は最低よ、と思っている咲夜になぜかしつこく迫ってくる。
咲夜がどう穏便に断ろうか、と考えていると解決法がバイク音と共に現れた。
白と青の見事な流線型の大型バイクは咲夜の近くのロータリーに止まると、バイクに負けない背の高い男が、均整のとれた長い脚を黒のジーンズに包んでバイクを跨ぎヘルメットを取る。
漆黒の柔らかそうなウェーヴ掛った髪、鼻筋の通った高い鼻、形のいい唇。金と緑の美しい宝石のような瞳。その青年は超がつくほどの美青年だ。
今日はバイクに乗る為か黒の革ジャンに黒のジーンズ、茶色の革のブーツを履いていて野性味が加わったその立ち姿はしなやかな黒豹のようでため息が出るほど様になっている。
ロータリーのあたりが一瞬静かになり、咲夜にちょっかいをかけていた男でさえ、光陽に見惚れている。
彼は咲夜を見つめると、一言、
「咲夜。」
と低いがはっきり通るバリトンの美声で愛しい名前を呼ぶ。
(ああ、光陽ってなんて存在感なの!)
咲夜が高鳴る胸と共に彼に会えた喜びを全身で表し、花の香りを纏い彼の名前を呼びながら光陽の側に寄り添うと、どこからともなく、そこら中から溜息が漏れた。
咲夜は気にもしていないが、女性らしいカーブを持つ身体に可愛らしい春ワンピースをまとった咲夜は清楚ながらも素晴らしい美人だ。
光陽に会ってからは、彼に恋する乙女心が咲夜に色香を匂わせ、光陽と並ぶと二人はロマンス映画のワンシーンのような美男美女のカップルだった。
「光陽。」
光陽は咲夜の腰を長い手で優しく抱き寄せると、
「待ったかい?」
と聞きながら、人前だというのに、気にもせず唇を寄せてくる。
とっさに二人の周りにプライバシー結果を張った咲夜を強く抱き寄せ、彼の唇が咲夜に重なり、舌で唇をなぞって僕を入れてと誘ってくる。
彼を受け入れた咲夜は、二人の熱い舌が絡まり甘い唾液を交換すると周りの事は頭から一切抜け、彼で頭が一杯になる。
「んっ・・・」
なんども角度を変え唇を重ね、お互いの身体に手を回し、二人の甘く深い口づけは長い間続いた。
やっと二人共、会えなかった時間はこれで充電出来た、と満足し、最後にお互い見つめあって唇を甘噛みしあって顔を離すと、二人の側から
「うっ」
とうめき声が聞こえた。
えっ何、とよく見ると、先ほど咲夜がとっさに張った結界は、周りから二人の姿は見えていても見えていないブラインドアイと咲夜が呼ぶもので、咲夜が光陽に気を取られていて、よく確認せず二人の周りに張ったため、咲夜の近くのロータリー側に立っていたナンパ男も結界の中に入ってしまっていた。
二人を真っ赤な顔で見ていた男は濃厚なラブシーンを見た後、気が高ぶったように赤くなって前かがみでトイレの方へ走り去っていく。
「気分でも悪くなったのかしら?」
と不思議そうな顔の咲夜に、男が結界内にいる事には気がついていたが、無視してラブシーンを見せつけた光陽はニヤリと笑うだけだ。
(咲夜を口説こうなど100年早い。)
ブラインドアイの効果は続いていて、夕方の5時過ぎの駅前ロータリーに堂々と大型バイクを停めていても誰も気にも留めない。
「光陽、仕事案外早く終わったのね。嬉しいわ。」
「咲夜の為に頑張ったんだ。褒めて欲しいな」
これは本当だった。仕事を終わらせば咲夜とのデートだ、と思うといつにも増して仕事が捗り、予定より一時間繰り上げて終わらせたのだ。
「お疲れ様、光陽。バイク姿、最高にかっこいいわ。」
「早く咲夜に会いたくて、愛機で飛ばしてきた。」
「いつもバイクなの?意外だわ、どこかのスポーツカーとかも似合いそう。」
「車にもなるよ。ただ、道の狭いヨーロッパや日本ではバイクの方が移動が楽なことが多いんだ。じゃあ行こうか。咲夜は車の方が快適か?」
「そうね、今日は私ワンピースだし、車の方がいいかな。」
と咲夜が言うと、光陽が何か聞きなれない言葉を口にする、とみるみるバイクが変形していき、二人乗りスポーツカーになる。
二人で車に乗り込み、昨日の夜訓練をした公園に向かう。
「魔道具なのね。」
「ああ便利な魔道具で重宝している。’ブローズホーヴ’略して’ブローズ’だ。’スキーズ’は僕の家、’ブローズ’は僕の乗り物みたいなものかな。」
なるほど、そう説明されると分かりやすい。
「連盟の仕事の関係で結構色んな場所に赴くから、根無し草みたいな暮らしが多い僕にとって、持ち運びできる家や乗り物は貴重な相棒なんだ。魔物が出るような場所は辺鄙なところも多い。」
なんとなくこの5年一人暮らしだった咲夜にも、光陽が言っている意味がわかる。
咲夜はもともと一人で行動するのが好きなタイプで、集団で行動するよりは一人が好きな性格だ。
そんな咲夜でも慣れ親しんだ我が家に帰るのはやっぱりホッとするのだ。
5年どころではない年月を過ごしてきた彼にとって、世界中どこにいても、親しんだ彼の家’スキーズ’に帰るのはやはり安心できるものがあるのだろう。
(彼と私ってなんか似てないようで、根本的なところが似てるのよね。)
と初めて会った時から感じていた、懐かしいような感覚の根拠が垣間見えた。
「そうね、帰る家があるとホッとするわよね。」
と咲夜が言うと、光陽は柔らかく笑って、
「咲夜に会う前は僕も満足していたが、今は僕が帰る家には咲夜がいてほしい。」
と咲夜の手を握ってきた。咲夜も彼の手を握り返し正直に感じたまま述べる。
「私も、光陽が帰ってくる家が私の家のような気がするわ。」
咲夜がそう言うと、彼は咲夜の手を口元まで持っていき、そっと手にキスをした。
彼のその仕草は、いつも交わす口づけのような情熱的なものではなかったが、今まで交わしたどのキスより咲夜の心の琴線に触れたような気がした。
「っっっ、はっ」
「よし、いいぞ咲夜、そのまま踏み込んで、そう、そこで受け止めるのではなく、受け流すんだ。」
「っ・・」
「そのまま力の流れに逆らわずスピードをつけて切りつける、よし。今日はここまでにしよう」
今日は昨日よりも、ずっとうまく動けた手応えを感じていた。光陽の訓練は厳しいが、指摘は的確で確実に自分の動きに無駄がなくなってきているのがわかる。
まだまだ、彼には到底追い付かないが、いずれ追いついてみせる、と咲夜は密かに誓っていた。そうして彼に実力を認めてもらえば、いつか彼が日本を去る時が来ても、自分をパートナーとして連れて行ってくれるかもしれない。
彼に、日本に滞在している期間だけの恋人として、置いていかれるのだけは嫌だった。
だが、自分はまだまだ実力が足らず、彼から見れば子供みたいな年齢で、与えられる甘い言葉やキスに彼の好意以上のものを感じるものの、’好きだ’とさえ言われていない。彼にはすでに自分の気持ちを伝えてあるので、彼が自分をもっと知って、魅力を感じて、咲夜を丸ごと欲しがってくれればと思う。
彼のような魅力的な男性に、女性が群がらない訳がなく、いまは日本に就任しているせいで一人だが、本国に帰れば待っている人もいるかもしれない。
自分たちの寿命は普通の人間より長いせいで、長く生きれば時間の感覚が人と違ってくる、と母はいっていた。
日本に滞在する期間はきっと彼らの長い時間から見れば、人がちょっと寄り道する程度の感覚なのだろう。
それならその間に、できるだけ彼の側にいたかった。
咲夜は、身体を欲しがって貰うだけでなく、光陽に愛してもらいたいのだ。
それも行為の延長の愛の囁きではなく、彼と自分を縛る重い一生の誓いが欲しかった。
光陽は気軽に愛の告白をするタイプでは無い、と咲夜は思っているが、だからと言って女性を抱かない男性はいない。
彼の堂々とした態度や優雅な物腰、容姿だけをとっても、一夜だけの相手にも困らないだろう。
咲夜は母の言葉を鮮明に覚えている。
「特に魔物やその血を引くものは貞操観念が薄いものが多いのよ、そうでなくとも彼らの抜きん出た容姿と体力もあって、何人もの恋人、愛人を妻がいても持つこともあるから気をつけなさい。もちろん例外もたくさんいるけどね。だけど、彼らでも番いは一人なのよ。咲夜ちゃんも生涯の伴侶として番いが見つかるといいわね。」
咲夜には、母の言う番いが妻とどう違うのかよくわからない。だがこの数日光陽と過ごした時間で、咲夜は彼への好意がただの’好き’ではなく、もっと深い感情を伴って彼を愛し始めていることを自覚していた。
はっきり好きだと言われたことはないが、今、彼の興味を引いているのは咲夜だけなのだ。
ならば、その興味を、なんとかして愛に変えられないだろうか。
彼を知れば知るほど惹かれていく。だけど、どうやって彼を振り向かせればいいのか、経験のない咲夜にはその手段が思いつかなかった。
ただ、根が正直な咲夜は気持ちを隠すのが苦手だったし、好きな人には自分の気持ちを知っていて欲しかった。
(やっぱり、彼と一緒にいて、自分らしく気持ちを伝えるしか思いつかないわ。駆け引きとかできないし。)
自分の恋愛スキルの低さに悲しくなるが、自分はこうなのだから、しょうがないと割り切ることにした。
訓練が終わって二人して連れ立って、昨日の枝垂れ桜の近くまで来ると、平日だが時間が早いせいか、結構な数の若者のグループや、カップルなどが花見をしているのが見えてきた。
「今日は随分賑やかね、でもまだ場所は空いてるわ。」
「そうだな。あっちの方なら少し離れているし、静かそうだ。」
と、少し離れたところに歩き出すと、近くの枝に羽の綺麗な小さな鳥が停まり、可愛く囀った。咲夜の目が力に反応し小鳥を見つめると、
「あら、あなたもしかして、’雛ちゃん’?」
と咲夜が尋ねると、小鳥は可愛い声で、
「よう、久しぶり、咲夜、元気にしてたか?」
と答えた。咲夜は周りを見渡すが、そこは他の人たちからかなり離れており、一見咲夜と光陽が立ち止まって話しているようにしか見えないことを確認すると、小鳥が
「大丈夫だ、人には小鳥が囀っているようにしか聞こえない。それより、珍しい連れを今日は連れてるな。よお、あんた、この辺りじゃ見かけない顔だな。その上男前だ。我は’雛ちゃん’だ。」
と挨拶してきた。
「僕は、春日光陽と言います。よろしく。貴方のその姿、本体ではないですね。」
「ふん、流石だな、まあ合格だ。咲夜、随分強いの捕まえたな。」
「光陽は私に戦い方の訓練をつけてくれてるの。」
と、小鳥に答え、光陽に紹介する。
「雛ちゃんは、父の知り合いなの、小さい頃からちょくちょく可愛い鳥が父に懐いてたから、’雛ちゃん’と呼んだらなんだか、気に入られちゃって、時々こうして様子を見にきてくれるの。鳥になら何にでも化けられるのよね?」
「それくらい、我にとってなんでもない、咲夜が無事に過ごしているならいい。あんた、咲夜を悲しませたら我は黙っちゃいないぞ。穢れから咲夜を守り、忠信を尽くせ。」
「もちろんですとも。その役目を誰にも譲る気はありません。」
小鳥はその小さな胸を膨らませ、踏ん反り返って、
「よし、その言葉忘れるなよ。ところで咲夜、もう少し奥に歩いていくと、桜の木の数はここより少ないが、人気がなくしっぽりできる場所がある。我のお勧めデートスポットだ。」
と告げると、光陽に向かって、
「あんた、無事に辿り着けたら認めてやるぞ。さあ、我はもう行く。」
と飛び立とうとするので、咲夜は慌てて引き留める。
「えっ。もう行っちゃうの?一緒にお花見していかない?お弁当もあるのよ。」
小鳥はお弁当、という言葉でピクッと反応したが、頭を振って、
「いやいや、今日は餌付けされている場合でない。猫娘たちにも見つかると煩い、お弁当はまたの機会にご馳走してもらうぞ。」
と行って飛び立って行った。
咲夜は不思議そうに、
「雛ちゃん、今日は随分急いでいるのね。いつもは変わった事はないか?とか気にかけてくれるのに。」
と言うと、光陽は何故か心得たように、
「僕がいたから、だな。では、行こうか。」
と咲夜を促した。咲夜がまだ状況を飲み込めずに聞いてくる。
「何処へ行くの?」
「’雛ちゃん’お勧めのデートスポットだ。どうやら僕を咲夜にふさわしいか試したいらしい。こっちだ。」
と言って咲夜の手を握り木々の間を抜けて行く。5分ほど歩いたところで、目の前に小さな小川に橋が架かった場所に出た。
人気は流石にここまで奥まで来ると全くなくなっている。咲夜は目の前の橋が揺らめいていて何か結界のようになっていることに気づく。
「光陽、なんかこの橋変よ。違う場所に行きましょう。」
「いやここでいいんだ。咲夜、貴女の周りに防御の結界を張って。僕がいいというまで結界を解いて動いてはいけないよ。これから多分、魔物の輩かそれに準ずるものが出てくると思うが、手出しは無用だ。どうやら僕の試練らしいからね。」
咲夜を自分の後ろに歩かせ、光陽は橋を渡って行く。橋の真ん中まで来ると途端に周りの景色が崩れ、薄暗く周りに何もない風景が、目の前の火を吐く3メートルほどのトカゲと共に現れた。
「サラマンダーか。小手調べだな。フレイヤ、解放。」
と、光陽は呟くと、手に木片から細身の青く光る剣を具現させる。
直後、横っ跳びに咲夜から一気に20メートルほど離れ、サラマンダーと呼ばれた魔物が光陽に向き直るなり飛びかかる。光陽は慌てるでもなく剣を袈裟懸け、サラマンダーは剣を素早く避けるが、避けた先を見越して光陽は剣先をすでに構えて振り上げる。剣に斜めに体を真っ二つに切られたサラマンダーは音もなく散って行く。
「一匹。」
次々にサラマンダーが10匹ほど現れるが、瞬く間に光陽の剣がその体を次々と捉え、切り捨てて行く。サラマンダーが全て倒されると今度は剣を持った骸骨が何十体かいっぺんに現れ光陽を取り囲む。
「アンデッドか、生憎僕の剣に切り裂けないものはない、たとえそれがアンデッドでもだ。」
と言うと、高く跳躍して取り囲んでいたアンデッドの輪から抜け出し、斬りかかってくる剣を捌いて、一匹2匹とあっという間に切り裂いていく。その動きはまるで剣舞の様に優雅で無駄がない。最後の一匹を倒すと今度は、一際大きな黒いローブを纏って眼孔が炎に揺れている骸骨が現れ光陽に斬りかかる。その手は4本あり、それぞれが剣を携え斬りかかるが、その全てを光陽は裁ききり、切り返していく。そのうち一つの手が剣を捨て去り、杖に持ち替えると光陽に向かって雷の様なものを杖から撃ち放った。
「光陽、危ない。」
それまで彼に言われた通り、一歩も動かず結界の中で戦いを見守って居た咲夜は、咄嗟に叫んで光陽の周りに防御の結界を張った。同時に光陽も剣で手を切り落としながら、自分の周りに防御の結界を巡らしており、二人の結界が重なって杖から放たれた雷は倍の威力で放った骸骨自身に跳ね返り、骸骨は音もなく散っていった。
すると、薄暗かった景色が消え、二人は元の橋の上に立っており、そこから、遠くないところに桜の木がぼんやりと白く見える。
「咲夜、ありがとう、助かったよ。さあ行こう。」
剣を収め、力を縮小すると、咲夜の手を取って歩き出そうとした光陽に、
「お見事。これは褒美だ。受け取れ。」と声がしたかと思うと空から金色の羽が一つふわふわと舞ってきた。
「わあ、綺麗な羽ねー、触ってもいい?」
咲夜はその赤金色に光り線香花火の様に小さな花の様な尖火を出している羽に、そっと触れる。
その羽を光陽は片手で掴んで、しげしげと見る。
「これは・・・もしや。。。」
その顔は驚きを隠せないという風情で珍しく目を見張りながら、何か考え込んでいる。
「咲夜、’雛ちゃん’は父の知り合いだと言っていたな。」
「そうよ、小さい頃は黄色い雛に化けてくれて、それはとても可愛かったのよ。」
光陽はため息をついて、片手で眉間を抑えながら、
「随分と、大層な保護者がついてるんだな・・・君が今まで無事に育った訳がだんだん分かって来たよ。」
と言いながら羽をブレスレットに仕舞い、今度こそ咲夜の手をしっかり握って、橋を渡りきった。
光陽は手の羽を見ながら考えていた。
( この羽はまちがいなく、不死鳥と同類の物だ。確か不死鳥には東洋に番いが居たはず、美しいものには目が無いと聞いていたが。あの小鳥の本体の正体なのか、たまたま手に入れて持っていたのか、・・たぶん前者だな。僕にも本体が見えなかった時点で力の強い魔物だというのは確かだ。その知り合いだという咲夜の父もただの人間ではないのだろう。ん、まてよ、不死鳥の番いだとすれば本体は雌だ。・・・)
あんな強い伯母が目を見張らせていたのなら、咲夜の両親がいなくても、下手な相手は咲夜に手が出せなかっただろう。
(ある意味、彼女には感謝だな。)
こうして二人で’雛ちゃん’お勧めのデートスポットに赴いた。
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