甘く謳う二重奏~氷の天才ヴァイオリニストは執着アルファに溺愛される~

翡翠蓮

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第十二話「理事長からの頼み事」

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 次の日の講義が空いた時間、巡と昼食を食べようと思ったときに理事長に呼ばれた。
 アナウンスで「高築蒼馬さん。至急、理事長室に来てください」なんて言われて、なんだろうと若干焦りが募る。

「お前、なんかしたのか?」
「いや、特に何も……。とりあえず行ってくるよ」

 巡と別れて理事長室まで歩いているときに、ハッと気づいた。

 ――臼庭は、教授たちにはオメガであることは伝えてるの?
 ――理事長だけ知ってる。発情期で休むとき協力してくれるみたいだから、大丈夫。後で連絡しておく。

 もしかして、臼庭のことだろうか。
 ノックをして理事長室に入ると、入学式のときに挨拶していた張本人が椅子に座っていた。

 黒髪をオールバックにまとめ、髭もなく清潔感のある雰囲気を纏わせている。
 俺が入ってくると、理事長はにこっと笑った。

「初めまして。入学式で知っていたかな? 理事長の、木戸文也きどふみやだ」
「理事長、初めまして。高築蒼馬といいます。よろしくお願い致します」
「そうかしこまらなくていい。ここに呼ばれた理由はわかるかい?」
「え……っと……臼庭湊さんのことでしょうか?」

 俺が自信なさげに言うと、理事長は「察しが良くて助かるよ」と言ってくれた。

「臼庭くんから話は聞いている。君が臼庭くんの『運命の番』だそうだね?」
「は、はい、そうです」
「それなら、臼庭くんの発情期の面倒を一週間見てあげてほしいんだ」
「……え」

 突然の爆弾発言に、俺はびっくりして声が出せなかった。
 え……俺が、発情期の臼庭の面倒を見る?

 昨日臼庭で抜いてしまったこともある手前、近づくなとも言われているし臼庭にこれから会うのは気まずい。

「臼庭くんがオメガであることは、私と高築くんしか知らない。私は、仕事もあって臼庭くんの面倒は見れない。……オメガの発情期はとても大変なんだ。アルファが近くにいてくれるだけで、オメガの発情期が少し落ち着くとバース性研究者の研究結果でも出ている。臼庭くんはヴァイオリニストとしてコンクールにも参加予定だし、コンサートにも参加予定だ。コンディションが狂わないように、『運命の番』である高築くんが面倒を見てくれないかい?」
「い、一週間ですか?」
「ああ。その間に番になってもいいよ」

 理事長がにこにこと笑う。
 いやいやいや、番はありえない。
 臼庭が絶対に拒否するだろう。

 でも確かに、バース性の研究者の研究結果でオメガの発情期が、傍にアルファがいることによって和らぐというのはニュースで見たことがある。

 ……臼庭が、少しでも楽になるなら。
 いや、でも俺の理性が持つか……?
 襲ってしまわないだろうか。

 ……ええい、うじうじ悩んでないで理事長からの頼みなんだから、引き受けろ!

「……わかりました。具体的に、臼庭さんにどのように接すればいいでしょうか」
「まず、朝起きたら体温を計って様子を見てくれ。体温が高いようなら、コンビニなどで熱冷ましのシートなどを買ってきてあげてほしい。昼は、食堂から寮に持っていけるようなパンや紙パックの飲み物を持ってきてあげてくれ。コンビニのものでもいいが、栄養はしっかり摂らせてあげてほしい。夜になったらもう一度体温を計って、身体を拭いてあげてくれないだろうか。オメガの発情期は風呂に入るのも大変なんだ」
「は、はい。わかりました」

 少し感じる威圧的な雰囲気や背丈、立場からして、恐らくこの理事長はアルファだと思う。

 なのに、どうしてここまでオメガの発情期のことを知っているんだろう。
 こんなに具体的なことは俺も知らなかった。

「どうしてこんなにオメガのことを知っているかって思っている顔だね」
「あ……っ、すみません」
「いいや、いいんだ。……私の妻がね、オメガなんだよ。それで、いろいろと知っているだけだよ」

 理事長の薬指には、結婚指輪が嵌められていた。
 そうか、そうだよな。
 身内がオメガだから、いろんなことを知っているのだろう。

 俺も、いつか臼庭と結婚できたら……。
 結婚式を挙げる俺と臼庭を想像して顔が赤くなってしまう。

 俺はその叶わない妄想を取り払うようにぶんぶんと頭を振って、理事長と目を合わせた。

「俺が、絶対に臼庭の面倒を見ます。何かあったらすぐに報告します」
「よろしく頼むよ。それじゃあ、早速臼庭のところへ行ってくれ」
「はい。失礼しました」

 理事長室を出て、俺は臼庭がいる部屋へと向かった。
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