甘く謳う二重奏~氷の天才ヴァイオリニストは執着アルファに溺愛される~

翡翠蓮

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第三十五話「蒼馬の友人」

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◇◇◇

 それから数週間。
 蒼馬は言葉通り毎日俺の部屋に通ってきた。
 そして……。

「湊~! 今レッスン終わり? 一緒に食堂行こう!」

 廊下を歩いていれば、蒼馬に話しかけられ。

「湊! 一緒に練習室まで行こう!」

 大学のレッスンと講義が終わったのが蒼馬と被ると、練習室まで一緒に行き。

「湊! 夜食持ってきたよ。一緒に食べよう?」

 約束通り毎日俺の部屋にやってくる。
 毎日毎日犬かってくらいに構ってきて、こいつ俺のこと好きすぎだろってにやにやしてしまう。

 今日は午前から授業があって、昼休みになったから食堂へ向かう。
 いつも通り蒼馬はやってくるだろうか……と思ったが、食堂に入っても蒼馬はやってこない。
 朝早くにおはようのスタンプが来ていたから、午前から授業があるのかと思っていたが……今日はないのか?

 一縷の寂しさを抱えて食堂を見渡していると、端のほうに蒼馬がある男と一緒にいるのが見えた。
 俺が東条と共に食事をしていたときに蒼馬と一緒にいた男だ。
 蒼馬が楽しそうにその男と話しているのを見て、思わず駆け寄った。

「蒼馬、今日は一緒に食べないのか?」
「あ、湊」

 う、俺がオメガなこともあって交際を隠している手前、この男に牽制できない……。

 今俺が「そいつじゃなくて、俺と一緒に食事しよ」だなんて言ったら俺と蒼馬はどんな関係なんだって思われる可能性が高いし、かと言って話しかけたのに何も言わずに離れるのも変だ。

 どうすればいいかわからず口を噤んでいると、蒼馬が爆弾発言をした。

「湊、嫉妬してるの?」
「は? してない」

 突然俺たちが付き合ってるとでも言わんばかりの台詞を吐かれ、バッと隣の男を見た。
 隣の男は口元に手を抑えて笑いを堪えている。
 これの何がおかしいんだ。

「嫉妬してるでしょ」
「してないって言ってるだろ」
「……ぷっ」

 俺たちの攻防に隣の男が吹き出す。
 何笑ってるんだと俺が睨むと、男は「ごめんごめん」と謝ってごまかした。

「俺は蒼馬の友だちの小鳥遊巡。事情は蒼馬から聞いてるよ。大丈夫、誰にも言わないから安心して」

 わけがわからず蒼馬を見ると、少し申し訳なさそうに説明してくれた。

 俺にラブレターを渡そうとした後、みんなから避けられていた蒼馬の元に話しかけに来てくれた唯一の友人、小鳥遊巡。

 絶対に他人にバラさないという約束で、俺と蒼馬が『運命の番』であることを教えたらしい。
 小鳥遊は秘密を今日までしっかり守っていて、今回は蒼馬が俺と付き合っていることを報告したという。

「良かったな! 天才ヴァイオリニストと両想いになれて!」

 小鳥遊が蒼馬の肩をバシバシと叩く。蒼馬は照れくさいのか頭を掻きながら笑っていた。

「そういえば、臼庭は俺のこと覚えてない?」
「え、巡、湊と知り合いなの?」

 小鳥遊と以前どこかで会ったか?
 記憶を巡らせても、そういった思い出は一つもない。
 俺が首を傾げていると、「やっぱり覚えてないよなー」と小鳥遊は苦笑いした。

「俺、鈴響高校に通ってたんだ。でも、臼庭とは三年間クラスが違ったから俺が一方的に知ってるだけだったんだよな。臼庭はあの時代からモテモテだったよなぁ。何人相談に乗ったことか」

 小鳥遊が面倒くさそうにため息を吐いたあと、蒼馬と肩を組む。
 ……恋人の前でべたべた触るのはどうかと思うが、二人は完全に友人という雰囲気で、仕方ないと苛立ちを抑える。

「でも、蒼馬の臼庭への愛はすんごい綺麗な愛だったからさー、絶対上手くいくと思ってたんだよな! 臼庭、これからも蒼馬のことよろしくな!」
「う、うん」

 小鳥遊はそのまま「お邪魔だから」とトレーを持って他の席に行ってしまった。
 他の席の人とも分け隔てなく仲良くしている。

 まさに陽キャという感じで、蒼馬はよく仲良くできているなと思う。
 俺はああいうざくざくパーソナルスペースに入ってくる奴は苦手だ。
 俺が月見そばを頼んで蒼馬の隣に座ると、蒼馬はなぜかにやにやしていた。

「なんでそんなにやにやしてんの」
「ううん。湊でも、嫉妬なんてするんだね」
「してないって言ってるだろ」
「えー? でも、俺が巡に肩組まれたときすごい顔してたよ?」

 否定できなくて、黙ってしまう。
 ああ、黙ってしまったら負けなのに、言い訳が何も思いつかない。
 今の自分も顔が赤くなってるような気がして、蒼馬から身体ごと逸らしたくなった。

「嫉妬したときの湊、好きだな。もっと俺にしか見せない顔が見たい」

 耳元で囁かれて、一気に身体が熱くなる。

「……食堂で、よくそんなこと言えるな」

 照れたのを悟られないように反抗すると、蒼馬はにこにこと笑うだけだった。

 俺たちの席の周りは誰もいないから、今の話は聞かれていない。
 たまに俺たちが一緒に食事したり練習室に行ったりしているのを睨む人などいたが、俺が睨み返すとすぐに怯んだ。

 だから、蒼馬と時間を共にすることに反論する奴はいない。
 でも、俺と蒼馬が付き合っているとは誰も思わない。

 結局蒼馬がいろいろと口説いてくるから心臓が高鳴ってしまって、月見そばの味もいまいちわからなかった。
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