悪魔と契約した少年は、王太子殿下に恋をする

翡翠蓮

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第九話 夢

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 ――その日は夢を見た。 
 この村とはくらべものにならないくらいの発展した街。雲まで届くんじゃないかというくらいのいくつもの大きな細長い建物。行きかう大量の人々。 
 白と黒の地面を渡っている俺。 
 そのとき、プーーーと耳を劈きそうな大きな音が鳴る。 
 振り返ると、目の前に馬車なんかよりももっと大きな何かがあって……。 

「……っ!?」 
「あ、カトレア。起きました?」 

 息が止まりそうなところで、ようやく現実に引き戻された。 
 年季が入って少し薄汚れている白い天井。固いベッドに枕。窓から射し込む光が朝だと教えてくれる。 
 起き上がると、目の前にホットミルクが入ったカップを差し出された。 

「随分うなされていましたよ。これでも飲んで落ち着いてください」 
「ありがとう……」 

 口に流しいれたホットミルクは、あたたかくて優しい味がした。 
 なんだったんだろう。あの夢は。 
 少なくともこの国ではない。すごく発展した国の夢だ。 
 夢だというのに大きな何かに轢かれる痛みがリアルで、自分はこの痛みを知っている気がした。 





 今日も殿下に会えないだろうかと、うずうずしながら仕事終わりにアギオ湖に行った。 
 ここに行けばまた会えるんじゃないか。そんな淡い期待を胸に抱きながら待っていたけど、待てども待てども彼は現れなかった。 
 仕事中ももしかしたら会えるんじゃないかと思って、ちらちら周りを見ていた。馬車が止まればすぐにそっちを向いた。 
 アギオ湖から帰るときも、きょろきょろ辺りを見回した。でも、彼の姿はなかった。 

 どうしてこんなに殿下のことが気になっているのか、自分でもよくわからない。 
 わからないけど、どうしても会って話がしたかった。もっと殿下のことを知りたかったのだ。 

「ねえ、コンライド街に新しいカフェができたみたいなの。行かない?」 
「いいな、行こう。俺も甘いものをちょうど食べたかったんだ」

 目の前を妖精契約者の二人が楽しそうに声を上げながら通り過ぎた。 
 彼女は可愛い花柄のワンピースを着ていて、新品のヒールをコツコツと鳴らして歩く。 
 恋人であろう彼は、ラフな格好ではあるけどしっかりとした生地の服を着ていることがわかる。 

 ……いいな。 
 精霊契約者や妖精契約者を見て、時折思う。 
 自分が悪魔契約者じゃなければ、今とは違う人生を歩むことができたのだろうか。 
 もし精霊契約者の人たちと婚姻を結ぶとして、反対されることはないのだろうか。 

「……」 
「カトレア? どうかしましたか?」 
「ううん、なんでもない」 

 こんなことを考えたら、セーレに失礼だ。 
 家に帰って母さんが作ってくれた夕食を食べ、すぐにベッドに転がって眠りに落ちた。 
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