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第二十四話 浮気現場
しおりを挟む「殿下、喜んでくれるといいなぁ」
「喜びますよ、きっと。……? カトレア、あれ……」
セーレが怪訝な視線を向こうに向けていた。
なんだ?
向こうの方には大きな洋服店が一軒建っている。
全面ガラス窓でできていて、中には舞踏会で着る用の豪奢なドレスや髪飾りが大量に並んでいた。
入口の近くで、男女の二人が店員と話している。女性は男性の腕に絡みついていて、仲睦まじい雰囲気を醸し出していた。
「あれがどうしたの?」
「どうしたって……カトレア、目が悪くなりました?」
「別に悪くなってないけど……あ……!?」
店員に話しかけている男女を目を凝らしてじっと見つめていると、ようやくその女性が誰かわかった。
金髪のカールさせた髪と、低めの背丈。髪から覗く眸の色は緑で、若干釣り目だ。その顔もあって少し強気なオーラが見える。
……間違いなく、マリー令嬢だ。
じゃあ、その隣にいるのは殿下? と男性の方も凝視したけど、背丈も髪の色も違う。
なのに二人はべたべたとお互いに触れあっている。
笑顔で男性と話しているマリー令嬢は少しも罪悪感を見せていない。ぎゅっと腕を絡めて、さも私たち恋人なんですと店員たちに見せつけているようだ。
これは、殿下に言った方がいいのか……?
「カトレア、そろそろ店から出そうです。行きましょう」
「あ、うん……」
セーレに手を引かれ、後ろ髪をひかれる思いでその場を後にした。
◇◇◇
王宮に帰宅して部屋に戻ると、殿下はいつにも増したしかめっ面で椅子に座り、窓の外を見つめていた。
ドアを開けた音も聞こえていると思うが、むすっとした表情でこちらを見ようとしない。
その眉を寄せた顔でわかる。殿下は、多分不機嫌だ。
セーレも風呂に入ってくると言って部屋にいないから、解決策を話し合うこともできない。
どうしよう。
「た、ただいま帰りました」
「……」
それでも挨拶はした方がいいと思って一言声をかけたが、殿下は俺たちを一瞥しただけで、「帰って来たか」とか「おかえり」とも言ってくれなかった。
……俺、何かしたっけ?
殿下を怒らせるようなことをしただろうか。
もしかして、本を作りたいと言ったから?
悪魔契約者の分際で、出過ぎた真似をしてしまったからだろうか。
でも殿下って、そういう差別的なことで怒ったことはない。
何かあったのか聞くにも聞けない。俺は殿下を不機嫌にさせてしまったことが何度かあるから、さらに怒らせてしまいそうだ。
寝室にでも行って殿下の気が収まるまで待っていようかと動いたとき、カサっと俺の右手で何かが鳴った。
「……あ」
そうだ、クッキーを買ってきたんだった。
紙袋の中にはクッキーが三枚。一枚一枚が結構大きくて、殿下のお腹も少しは満たせるんじゃないかと思って買ってきた。
今の殿下に渡しても大丈夫だろうか。
……もしかしたら機嫌を直してくれるかもしれない。
そう思って、机を挟んで殿下の前に立った。
「あの、クッキー買ってきました。いかがですか?」
「……」
「仕事で、疲れたかと思って……」
「……食べる」
ようやく椅子を動かしてこっちを向いてくれ、クッキーを早くよこせとでも言わんばかりに手を差し出してきた。
紙袋から三枚全てのクッキーを取り出し、殿下の手に乗せる。
「大きいな」
「美味しいと思いますよ。すごい可愛いお店だったので」
殿下はパッケージからラズベリー味のクッキーを取り出し、もぐもぐ食べ始めた。
……良かった。普通に話してくれるし、そこまで機嫌が悪かったわけでもないみたいだ。
無言で食べている殿下から視線を逸らすと、ちょうど散らかっている机に目がいった。
地図が広がっていたり、書類がばらばらになっていたり……。殿下はクッキーを食べてるから、その食べこぼしが書類についてしまったら交渉している人に怒られてしまう。
いつこぼすかわからなくてハラハラしてしまい、俺は咄嗟に書類を整頓し始めた。
シルフ地区の村との交渉の書類、別の地区から輸入するものの書類、隣国とのやりとり、他にもいろいろとある。
俺が見てしまってもいいのだろうかと不安になって殿下の顔を覗くと、窓の外を眺めながらもぐもぐクッキーを食べていたので、全然気にしていない様子だった。
あらかた書類が整理し終わったとき、ぱさりと何かが落ちた。
……マリー令嬢からの手紙だ。
封がしてあって、殿下が開けた形跡はない。
マリー令嬢といえば、今日の帰りのことを思い出してしまう。
殿下ではない男性と腕を組んで親し気に話していたマリー令嬢。
このことを知ったら、殿下は落ち込んでしまうんじゃないかな……。
手紙を拾いあげて、殿下に言おうか言うまいか黙っていると、殿下がこちらを怪訝な眸で見つめてきた。
「どうした」
「え、いえ、特には」
「何か言いたそうじゃないか」
「え!? べ、別に、何も言いたくないですよ」
「お前の嘘はわかりやすいな」
ふっと殿下が笑った。今日初めて表情を崩してくれた。
やっぱりその笑みに、俺はどきりとしてしまう。
高鳴る胸を押さえていたら、殿下が机に前のめりになって俺の顔を覗き込んできた。
至近距離で殿下と目が合う。
宝石のような美しい眸と、白銀の髪がさらりと揺れた。
「なんだ、俺に隠してることでもあるのか」
「えっと……その……」
「歯切れが悪い。さっさと言え」
威圧を感じられる声音につい後ずさってしまう。
前にセーレが言っていた。殿下は嘘を吐くのも吐かれるのも嫌そうだと。
多分、その通りだ。だから隠し事も嫌なんだ。
「その、殿下は傷つく内容かもしれません」
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