悪魔と契約した少年は、王太子殿下に恋をする

翡翠蓮

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第二十三話 文化の発展

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 今のところ、自分の味方になってくれそうな人はストック陛下だ。 
 差別をすることもなく、堂々と対等に接してくれる。 
 アイヴィー女王陛下が会合があると言っていたから、てっきりストック陛下も王宮にいないかと歩き回ったが、彼らしき人はどこを探してもいなかった。 

 こうなったらサラマンダー地区に行くしかない。 
 幸いサラマンダー地区への通行証は持っている。ストック陛下が差別なく悪魔契約者にも通行証を配ってくれたおかげだ。 
 急いで外へ出て、コンライド街を歩く。 
 セーレも「一人じゃ危ないので」とついてきてくれた。 
 コンライド街からサラマンダー地区には数十分歩けば行ける距離だ。馬車に乗った方が早いけど、給与をまだもらっていないので我慢する。 

 早くストック陛下に日本の文化を伝えて、本にしてもらおう。そうすれば国は発展していくはずだ。 
 日本にはほとんど差別がないことも書こう。この国の差別もなくなるかもしれない。 

 そう思いながらコンライド街の百貨店を通り過ぎようとしたとき、ドア前にストック陛下がいるのを発見した。 

「陛下!」

 俺の声に振り向いた陛下は、柔らかい笑みを向けてくれる。 

「カトレア。どうしたんだ?」 
「あの、実は、お聞きしたいことがありまして……」 
「なんだい?」 
「俺、本を作りたいんです」 
「本!?」 

 単調直入に俺がそう言うと、陛下も殿下のように驚き、目を見開いて固まってしまった。 
 しばし陛下を見つめていると、本気だとわかったのか「本か……」と一言呟く。 
 場所が百貨店の正面玄関だったため、裏側のベンチがあるところへ移動した。 
 ベンチに座ると、下に雑草以外にもピンクや白の秋桜が咲いているのが見える。 
 人気も少ないし、ここなら本のことを話しても大丈夫だと陛下は思ったのだろう。 

 陛下は一息吐いて、俺の方に向き直った。 

「何故、本を作りたいと思うんだ?」 
「……俺、夢でいろいろ見たんです」 

 殿下に話したときと同じように、俺は別世界の文化を話し始めた。 
 電気や化学製品で動く乗り物があったことや、ネットという回線があって、遠くの人とも話すことができるということ。他にも寿司やそば、抹茶といった食文化や、絵を描いて動かすアニメやゲーム、風呂に花を浮かべるのではなく、肩こりや疲労を回復してくれる入浴剤というものを入れてみてはどうだろうかという話も。 
 陛下は興味深そうに頷き、目を逸らさず聞いてくれた。 

「ふむ、なるほど……」 

 あらかた話し終えたところで、陛下は腕まくりをして天を仰いだ。 
 悪いものを吐き出すようにため息をして、俺の方に再度視線を向ける。 

「お前、なかなか面白いことを考えるなぁ」 

 にやっと笑ってくれた。 
 こんな夢物語みたいな話でも、陛下は受け入れ、面白い話だと言ってくれた。 
 やはり最初にストック陛下に話して正解だったと内心安堵する。 

「これが実現すれば、大きな文化の発展に繋がる。だが、今聞いた話だとくるまやいんたーねっと? というのを作るのは、この国ではまだ難しいだろう。しかし食文化や疲労回復のものを発明するのは、恐らくできるはずだ。本は高価で皆が手を出せないから、新聞はどうだ? 確かセルヴは活版印刷の職人を雇っていたはずだ。俺からセルヴに話をつけておいてやる」 
「陛下……!」 
「新聞で連載させよう。最初は食文化の話から始まり、後にくるまやいんたーねっとの話を書く。興味深く思う者たちは大勢いるだろう。そして誰かが真似でもすれば、爆発的に流行っていくんじゃないか?」 

 陛下が笑みを零しながら俺に言ってくる。 
 俺はうんうんと頷いて、陛下の言葉を胸に焼き付けた。 
 しばらく陛下とこの国の未来について話をし、どんどん発展していけば、悪魔契約者の人間でも身分が上の者より優れた技術を発揮できる者が増えていって、差別がなくなるんじゃないかと半ば興奮しながら話し合った。 
 嬉しい。身分が上の人とこんなことを話せるなんて。 

「じゃあ、俺はサラマンダー地区に戻らないといけないから。ありがとう、すごく良い話が聞けたよ」 
「こちらこそ、俺の話を聞いてくださってありがとうございます」 
「この国が良い方向へ変わりそうな意見は、いくらだって受け入れるさ」 

 あっさりとそう言われて、俺の心は嬉しさのあまり沸騰していた。 
 陛下が見えなくなるまで見送ったあと、日も落ちてきたためセーレと共に帰宅することにする。 
 道脇に咲く草花が、日に照らされてオレンジ色に光っていた。 

 家に帰る前に、殿下に何か買っていきたい。 
 いつも殿下の部屋で生活させてもらっているし、村で働いていたところとはくらべものにならないほど待遇の良い仕事もさせてもらっている。 
 何か礼に買っていけないだろうか、とポケットをまさぐって財布の中身を見たけど、まだ給与を貰っていないからほんの少ししか残ってなかった。 

「セーレ、殿下にお菓子でも買っていきたいんだけど、これじゃ足りないかなぁ」 

 セーレが俺の財布の中身を覗き込む。 

「小さいクッキーセットくらいなら買えるんじゃないでしょうか。百貨店のお菓子は高いでしょうから、その辺にある菓子屋で買うのがいいと思いますよ」 
「殿下、なんのお菓子が好きだと思う?」 
「さぁ? カトレアが買ってきた食べ物ならなんでも喜んで食べるんじゃないですか」 

 殿下は俺が買ってきたお菓子なんて喜ばないと思うんだけど……。 
 ああ、でも前にアギオ湖でお菓子を食べさせたときは多分喜んでくれていた気がする。でもそれは俺が買ってきたからじゃなくて、買ってきたお菓子が美味しかったから、だと思う。 

 帰路を辿ると小さな菓子屋が見つかったから、そこでクッキーのセットを買った。チョコレート、ピスタチオ、ラズベリーの三種類のクッキーが一つずつ入っている。 
 菓子屋の外観はピンクの屋根と白い壁で、男二人が入るのは少し抵抗があったけど、この先菓子屋がなかったらどうしようと思ってそこにした。 

 良い匂いが漂ってたし、見た目も抜群に良いから美味しいと思う。 
 殿下が喜んでくれるといいな。 
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