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第二十九話 殿下の母
しおりを挟む「お、カトレア!」
「……ストック陛下!」
仕事が終わって宮殿に帰ると、ストック陛下が手を振ってこちらへやってきた。
豪奢な服を身に纏い、手にはたくさんの宝石が散りばめられた指輪をしている。
陛下は機嫌が良い様子で、俺の両肩をぽんぽんと叩いた。
「セルヴから活版印刷の許可が下りたんだ! これでカトレアも新聞を出せるぞ!」
「え!? 本当ですか!?」
こんなに早く許可が出ると思っていなくて、喜びと驚きで胸がいっぱいになった。
これで俺も、新聞が書ける。
これでこの国に変化を与えられるかもしれないんだ。
陛下から聞いた話では、新聞にカトレアの意見を載せていい代わりに、必ず国を良い方向へもっていけるほどの価値がある情報にしなければならないという条件付きだった。
「最初はどんな内容であれ新聞を読んだ者から批判を貰うかもしれないが……大丈夫か?」
「大丈夫です! 必ず書きます!」
「いい返事だ」
陛下がにこりと笑った。
活字拾いからは職人がやるとのことで、俺は原稿を書くことになった。
用紙を貰って、そこに自分の意見を書く。それだけでも楽しそうで、自分の書いた原稿が職人の手によって街中に配られると思うと、ドキドキと胸が高鳴った。
その日は殿下の部屋のリビングで、深夜まで書いた。
セーレは窓の見張りをして、殿下はもう眠ってしまっただろうけど、それでも俺は書き続けた。
日本の文化を文字数内でできるだけ書いて、どれだけ素晴らしいかを表記した。
そして、その国は同性愛に偏見を持っている人が少ないことも。
「……よし、こんな感じでいいかな」
右手はペンを握りすぎて汗をかいていた。
原稿が書き終わり、大事に封筒にしまい、自分のカバンに入れる。
眠気もようやくやってきて、自分がすっかり疲弊してしまったことがわかるようになり、ベッドに入った。
隣では殿下がすやすやと眠って……あれ?
「……殿下?」
「……」
殿下は俺の方を向いて、寝転がりながらもぱっちり目を開けていた。
早く来い、とでもいうように手招きしている。
ベッドに入ってはいるし、これ以上くっつくと緊張してしまうんだけど……。
躊躇っていると、殿下の手が伸びてきてがばっと殿下の腕にすっぽり入ってしまった。
……!? 何をしてるんだ、殿下は!?
殿下の厚い胸板に自分の顔が当たっている。甘い花の良い香りがして、思わず嗅いでしまう。俺の顔や身体に殿下の美しい銀糸が絡まる。
「……起きてたんですね」
焦っている自分を必死に抑えて、若干声を震わせながらも言った。
殿下はなぜか俺の髪を優しく梳きはじめ、浅くため息を吐いた。
吐息が額にかかってくすぐったい。
「お前がここにいないと、よく眠れないのだ」
そう言って、何度も俺の髪を梳く。
そういえば、初めて会ったときも俺の髪を弄んでたっけ。
あのときは俺の髪色を褒めてくれたな。
殿下の髪色の方が、陽に照らされても月明かりに照らされても綺麗に輝くのに。
……殿下の髪色って、セルヴ陛下からの遺伝なのだろうか。
いや、でも収穫祭に行ったとき、陛下の髪は金髪だったはずだ。
じゃあ母親似……なのかな。
でも、セルヴ陛下がいることは知っているけど、殿下の母親の話を聞いたことがない。
王宮でも会わない。収穫祭でも出席していなかった。ずっと田舎の村に住んでいたから新聞を読んだことがなくて、殿下の母親の顔も知らない。
「あの」
「なんだ?」
……聞いてもいいのだろうか。
侍女たちもストック陛下たちも誰も殿下の母親の話をしていないから、あまり聞いてはいけないのかもしれないと思ったが、好奇心にはかなわなかった。
「殿下の母君って、どうしてるんですか?」
「……」
あ、しまった。聞いてはいけなかった。
殿下が眉を顰めて辛そうな顔をしたからだ。
「言いたくなかったら、言わなくてい……」
「死んでいる。俺を産んですぐに亡くなっている」
「あ……」
やっぱりそうだった。なんとなく、殿下の表情から予想はしていた。
殿下の母親がどこにも姿を現さなかったのは、産んですぐに亡くなっていたからだったんだ。
もしかしたら俺の知らないところで新聞に載っていたのかもしれない。
好奇心に負けて聞いてしまったのが申し訳なくて項垂れていると、殿下が頭をぽんと撫でた。
「今日は疲れただろう。もう寝ろ」
またぽん、ぽん、と頭を撫でられる。
殿下の手は大きくて、温かくて、瞼が重くなってきてしまう。
甘い香りが鼻腔を擽り、殿下に撫でられたまま、俺は眠りに落ちた。
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